第十星 提案
「おはようございます、“華麗なる剣姫”スティラ様、“冷酷なる狙撃手”ラン様。」
星喰雌龍を討伐して次の日。宿から出てギルドカウンターに行くと、開口一番マスターからそう言われた。
「……あのさぁ…なんで知ってるの」
「有名ですから、貴女様方の名は…」
認めたくない……
「最年少13歳でSランク、先発つ“渡り星”様方を軽々と越す天才───“華麗なる剣姫”スティラ様とその従者たる“冷酷なる狙撃手”ラン様。貴女様方に救っていただけるとは……」
「あーもう、うるさい……天才とかSランクとかどうでもいいから本題に入らせてよ……ていうか、そこまで詳しく知ってるんだったら私とランがそういう扱い嫌いなの知ってるでしょ。」
「む……そう、でしたな。大変失礼しました、年甲斐もなく興奮してしまいましたもので…」
そういうマスターに小さくため息をついてからカウンターに星侵獣心石を置く。
「とりあえずこれが件の星喰龍の星侵獣心石。確認して。」
「はい、ただいま。確認させていただきます。」
マスターが星侵獣心石を手に取り、近くの機械に置く。品質くらいの鑑定だったら私達でもできるけど、細かい鑑定は鑑定機に任せた方がいい。
「…詳細鑑定、出ました。個体名“ドラギュート・フーリス・ジ・アスケラ”、個体性別“雌”、個体状態“繁殖期”、刺客星“アスケラ”、心石品質“良”……繁殖期、だったのですね。大変お疲れ様でございました…」
「特殊価値は何かあった?」
「“火燃星鋼”、ですな。」
「おや、“鋼”とは珍しいですね。」
「ね。」
“片”、“核”、“石”、“鉄”、“鋼”。アイテムドロップ…星侵獣が星素分解して遺したものを全部纏めて“星侵獣遺物”というのだけど、品質とは別に強力さを表す言葉がこれになる。強力であれば強力であるほど加工が難しくて、いくら日本でも“鋼”は加工できない。異世界まで行って加工しないと無理。…逆を言えば“鉄”までなら日本でも加工ができる。他の国は一部の“鉄”しか無理。恒星隕侵星鉄なんてもってのほか。
「こちら、お返しいたします。して、本日はどのようにいたしますか?」
「とりあえず“アズマント・クラウド”狩ってくるけど。他に何か?」
「それでしたら、1つばかり提案…といいますか、お願いがあるのですが。」
「依頼じゃなくて?」
「えぇ、依頼にするのもどうなのか分かりませんでしたので……」
うーん…?
「星惑交魔技を、子供達に教えてくださいませんかな。」
「星惑交魔技を?…理由を、聞いてもいいかな?」
星惑交魔技は生活に役立つものもあるとはいえ危険性は高い。元々あれは魔法で、それをアレンジして星侵獣と戦うための武器としている。あれは、何も準備してない人に向ければ簡単に殺せてしまうような非常に鋭い凶器だ。昨日のランの銃撃は私が紅炎の鎧を使っていることをランが気づいていたから行えたものでしかないのだし。
「スティラ様であればご存じでありましょうが……身体に内包するエネルギーの器が大きすぎ、稀にそれを暴発させてしまう物がいるのです。昨日貴女様方に連れられたルシリールもそうですが。」
「…あぁ、なるほど。」
エネルギー暴発。特に幼い子供に起こりやすい現象。身体の大きさに対してエネルギーの器───つまり保有可能魔力総量が大きすぎると起こる。……私なんかは昔よく起こした。対処法としては日常的にSi Skillを使って消費するか、リミッターをかけてエネルギーの器の大きさを制限するか。
「…リミッターで制限できたところで結局のところ完全な解決にはならないし、それなら日常的にSi Skillを使わせた方がいい、か……」
“制限”ではなく“制御”できるのが何よりも重要。制御して、例え器から溢れ出たとしても暴走しないようにすること。それが大事。…エネルギーの器が大きいと羨ましい、とか凄い、とか言われることとかなくもないけど…
(……そもそも、エネルギーの器が大きいからって良いことなんて…)
少し暗い思考に入りかけたとき、ランが私の左手を握った。
「……大丈夫ですか、主スティラ?」
「…うん、大丈夫。いつもありがとうね、ラン。」
ランに何か力があるのか、それとも何かのSi Skillなのか。ランにこうやって手を握られると暗い思考から引き戻される。…実際、本当にありがたい。多分、私だけじゃ深みに嵌まって抜け出せないだろうから。
「とりあえず事情は分かったよ。…じゃあ、アズマント・クラウドの依頼5件。今日中に済ませてきちゃうから、明日星惑交魔技の手解きをするよ。…でも、本職の教員じゃないから期待しないでよ?」
一応臨時教員資格は持ってるけど。
「はい、ありがとうございます……それでは明日、学びたいという者を集めておきます。」
「ん。行こ、ラン。」
「畏まりました。」
私とランはギルドカウンターを後にしてアズマント・クラウドの出現報告地へと向かった。




