どうして、私を産んだの?
ルツィア視点です!
ディルーピ28年
一番古い記憶は、不満げな顔をする使用人の姿だった。
「ハァ……何で私がこんな子を……」
見るからに、ルツィアの世話をするのが面倒くさそうな侍女。
だから、できるだけ手がかからないように、怒られないように息を殺して生きてきた。
部屋を抜け出しても、特に何を言われないので、よく抜け出していた。
使用人以外に、たまに見かける男女二人。
遠くから観察して、何となく自分の両親なのだと悟った。
「ルツィア様がよくお部屋を抜け出されるのですが……」
「知るか。放っておけ。別に見つからずとも良い」
「えぇ、別にどっちでもいいわ」
ルツィアが心配――というよりは、自分の責任にされたら困るらしい使用人は、両親に話しているのを聞いた。
(私は、誰からも必要とされてない)
そう、ルツィアは悟った。
「はぁ? 武官が魔獣を取り逃したですって? 何をやっているのよ!」
あるとき、また屋敷を徘徊していると、母の部屋から大きな声が聞こえた。
「申し訳ありませんっ! すぐに殺しますので、奥様はすぐに避難を……」
「はぁ……早くしなさいよね! 化粧途中だったのに……」
どうやら、また屋敷を襲ってきた魔獣を武官が取り逃し、屋敷内に入ってきてしまったらしい。
(……そのまま殺してくれたらなぁ)
何を、とは思わなかった。何でもいい。ルツィアの世界を殺してほしかった。
「グルルルッ」
聞いたことのないような、音だった。
振り向けば、そこには得体の知れないもの──本でしか見たことのないようなものがいた。
魔獣だ。
ルツィアは、逃げた。
走ったことがないルツィアは、走り方が分からなかったが、何となくで走った。
(やだ!)
必死に走っていると、目の前に母の姿があった。
「おまっ、なんで連れてくるのよ!」
怒りの形相で、母はルツィアを睨む。
それでも、ルツィアは走った。身軽な格好をしていたルツィアはいつしか母を抜かしてしまう。
「あっ!」
母は長いドレスを日常的に着ていたので、転んでしまった。
「……!」
何と、呼ぶべきだろうか。
母だから、「お母様」?
娘として扱われていないのだから、「奥様」?
それとも、名前の方がいいだろうか。
そうこう考えているうちに、魔獣は母の前までやって来た。
「お、お前のせいだっ! お前が……お前が、生まれてきたせいでっ、こうなったんだ……!」
魔獣に襲われる直前まで、母はルツィアへの恨みを吐いた。
母を頭から食べようとした魔獣はそこに駆け付けた武官の持つ剣によって切り殺されてしまった。
「はぁっ……はぁっ」
「……!? 大丈夫か!」
過呼吸を起こす母と、それに駆け寄る父。
大丈夫だ大丈夫だ、と父は必死に母を慰めた。
「お前のせいだ! お前がいるから……お前が生まれてきたせいだ!」
母は、今度こそルツィアを睨んで、呪うようにそう言った。
「……お前は、もう部屋から出るな」
父もまた、怪物を見るかのような目でルツィアを見た。
(勝手に産んだのは、貴方たちなのに)
どうして、こうも責任を押し付けられなければならないのだろうか。
そうして、後日ルツィアは屋敷に隣接する小屋に入れられた。
実質は物置である。
先日十一になったルツィア・ノートンはそこで決意する。この家を出ていこう、と。




