次が最後
ディルーピ32年
「フュール、そろそろ精霊界に戻る時間じゃない?」
「あぁ……うん。行ってくるよ」
「うん、お仕事頑張ってね!」
手を振るルツィアに、フュールも手を振り返して精霊界に転移した。
いつも通り、直行で自身の執務室に向かい、フュールは溜まっている書類を片付けた。
「フュール! フュールはいますか」
廊下から、自室まで聞こえるような大声が届いた。
この声はニュクスだ。渋々、フュールは扉を開ける。
「どーしたの」
「貴方に、神様のお客様です」
◇◆◇
「やぁ、フュール」
「お久しぶりです、〈火の女神〉ヴァイアーサ様」
目の前にいるのは、神だ。
燃え上がるような髪に、高温の炎のような澄んだ青の瞳を持つヴァイアーサ。
淡い朱色の髪に、紅色の瞳を持つフュールとは格が違う。
最後に彼女と会ったのは、フュールが正式に火の八大精霊となった頃だっただろうか。
「フュール、最近高頻度で特権を使っているな」
「……何か、問題がありましたでしょうか」
「あぁ」
ヴァイアーサの返答に、フュールの胸がドクン、と跳ねた。
「おまえは使いすぎた」
「……え」
「すでに、千回以上も繰り返しているだろう。たった一人の人間のために。……それ自体は問題ないが」
「そ、それがっ、何だと言うのですか! 特権を与えてくださったのはっ、貴女様でしょう?」
フュールは必死に抗議した。
「最後だ。次が最後」
ひゅ、と息が止まるような心地だった。
まだ、竜に対する攻略法が見つかっていない。八方塞がりの中、次で最後と言われる。これ以上の絶望があるだろうか。
「お願いです……お願いします……。まだ勝てる道筋が、見つかってないんです……」
縋るような声を出すが、ヴァイアーサは何も言わなかった。
そして、踵を返してしまう。
「お願いします、ヴァイアーサ様……っ。僕、ルツィアがいないと、生きていけない。ルツィアだけが生きる全てなんです……」
フュールには、頭を下げることしかできない。
「……ちなみに、これは言わないように言われてたんだが」
ヴァイアーサはフュールに背を向けたまま、口を開く。
「今回の記憶は、次に引き継がれる。上手く使えよ」
それだけ言って、ヴァイアーサは天界に転移していってしまった。
(僕は、どうしたらいいんだ)




