今回を最大限に
「あ、おかえり〜! お勤めお疲れ様!」
「……うん、ただいま」
ルツィアの声に、フュールは眉を下げて答える。
「フュール、お勤めで何かあった?」
(相変わらず鋭いなぁ)
ルツィアは他人から受ける好意にも悪意にも鈍感だ。だが、フュールに元気がないときはいつも気づいてくれる。
「……大丈夫だよ。僕は」
危ないのはいつだってルツィアの方だ。
次があるからと言って、今回もみすみすルツィアを死なせるわけには行かない。
(でも、策がないんだよなぁ……)
フュールの立場上、本格的に竜に対抗する策を共に考えてくれる者はいない。
今のところ思いついたのは全力で戦って、竜を殺すこと。
後は、慣れていないが人間の成人くらいの大きさになって、ルツィアを担いで森を全力で抜けること。
正直、どちらも勝算はない。竜を殺すのは一度やっているが、呆気なく殺されている。
(でも、それ以外に方法はない)
フュールはルツィアに一度森から抜けようと話し、できるだけルツィアが早く逃げられるように考えを練っていく。
だが、フュールは竜がここに来るまでに、ルツィアと離れなければならない。
(一緒にいたい。でも……これは譲れない。僕は一人で戦う)
今回はそうすると決めたのだ。だから、実行する。
「ねぇ、ルツィア」
夜になって、そろそろ野宿の準備を始めようというとき、フュールはルツィアに声をかけた。
「ルツィア、今から別行動しよう」
「……え?」
急なフュールの提案に、ルツィアは目を見張る。
「……どう、して?」
「……」
フュールは考えた。今までのルツィアなら遠ざけようとしても、彼女は残ってしまう。
冷たいことを言って離れさすこともできる。だが、ルツィアを悲しませることだけは、絶対にしたくない。
「ほら、森の入口付近に、珍しい果物があったでしょ? それを取ってきてほしいんだ」
「え……それなら、一緒に行けばいいでしょ? 何で?」
出会いこそ突き放そうとしていたルツィアが、今ではこうして引き止めるようになってくれたことが嬉しい。
(でも、今は駄目なんだ)
「ちょっと、一人でやりたいことがあるんだ」
「やっぱりお勤めで何かあったでしょ。……まず、明日になってからちゃんと話そ。ね、フュール?」
「……駄目なんだ。お願いだから、僕から離れてよっ!」
フュールは怒ってそう言ってしまった。
(あぁ、駄目だ。焦った。次までしかないからって。馬鹿みたいだ)
「どうして、そういうこと言うの? 連れてって、って言ったのはフュールの方なのに」
「そうじゃな……っ!」
泣きそうな顔でそう言うルツィア。フュールは必死に否定しようとするが、ルツィアは聞かない。
「そうだよね。だって、私は魔獣をおびき寄せる体質で。フュールが嫌になるのも当然か。ごめんね、付き合わせて」
「違っ……!」
「ううん、いいの。私のせいだよね。ごめんね、もう大丈夫だから。じゃあね。今まで、ありがとう」
早口で捲し立てたルツィアは、剣だけ持って離れて行ってしまった。
ルツィアが去って数十分、フュールは立ち尽くしていた。
――追いかけるべきか?
ポツンと取り残されたフュールはそう思ったが、首を横に振る。
(これで、良かったんだ……。ルツィアはここから離れられる。僕が何とかすればいい。ルツィアさえ、生きてくれたら、僕はそれでいい)
そう自分を納得させようとしたとき──
「ガァァアアッッ!!」
けたたましい獣の声が頭上から聞こえた。
──竜だ。
フュールは魔力の威力を増やすため、五歳くらいの人間の姿に変える。精霊は成長するごとに、できることが増えていくのだ。
「……僕のルツィアを殺そうとするお前は、僕が殺してやる」
(八大精霊様を舐めるなよ)
そう、フュールは自分を奮い立たせ、竜に立ち向かった。




