二度目へ
ディルーピ31年
ルツィアとの出会いから、約一年が経った。
何度も魔獣に襲われたが、戦ったりときには逃げたり。それでも、何とか生きていた。
生きる意味を見つけたフュールにとって、ルツィアとの旅は非常に楽しいものだ。
精霊が人間界に滞在するためには、ある程度精霊界でも過ごしておかなくてはならない。
フュールは日に一時間ほど精霊界に戻り、仕事をこなし人間界に滞在していた。
あるとき、フュールに声をかけた精霊がいた。
「フュール」
「……どうかしたの、ニュクス?」
その精霊は、同じく八大精霊の闇を司るニュクスだった。ちなみに、フュールは火を司る精霊である。
「最近、人間界に入り浸っているようですね」
ニュクスは、フュールより数年早く生まれた。八大精霊の基準としては同い年のようなものなので、それなりに仲良くしていた。
「……そうかな?」
「えぇ……別にそれを否定する気はないのですが。ただ、どうして急に、と思いまして」
「……君にも大切な人間ができたらこうなるんじゃないかなぁ」
フュールがそう答えると、ニュクスは眉を歪めた。
「そんな未来があるとは思えませんがね」
「僕もこうなるとは思ってなかったから、君にもあるかもね」
それだけ言って、フュールは人間界に転移した。
ニュクスが、大切な人間を得るのはまだ千年も先の話である。
「……ルツィア!」
人間界に転移した瞬間、またルツィアは襲われていた。
フュールは即座に、ルツィアを襲う魔獣に向かう。火魔法を使い、魔獣を殺した。
それから、ルツィアに魔力を振りかけ、フュールの姿を見えるようにする。
「大丈夫……?」
「うん、ありがとうね、助けてくれて」
ルツィアは何でもなかったかのように笑った。
そのとき。
「っ、フュール!!」
ルツィアはフュールの背後を見て叫んだ。
咄嗟に後ろに振り向くと魔族がいる。それも、強大な魔力を持つ魔族が。
「美味そうな組み合わせだ」
魔族はそう言って笑う。
「フュール、下がって!」
「待って! 駄目! 相手が強すぎるっ」
フュールはそう叫ぶが、ルツィアは剣を魔族に向けたままだ。
精霊であるフュールには相手がかなりの熟練であることが分かるが、魔力なしのルツィアには分からない。
ルツィアは剣を振った。
「あ……」
だが、斬られたはずの魔族ではなく、斬ろうとしたはずのルツィアから血が流れる。
(あ、あぁっ、あぁぁぁあっ!!!)
待って。嫌だ、死なないで。
フュールは怒りに身を任せ、魔力を暴走させた。
「……る、つぃあ」
魔力暴走のときのことは、正直フュールもまともに覚えていない。ただ、気付いたときには灰になっていく魔族がいただけ。
自身の膨大な魔力によって、フュール自身も燃えてしまった。
とぼとぼと飛んで、フュールはルツィアの元に向かう。
「ふゅー、る」
ルツィアの目の前で止まると、ルツィアはまだ息があった。
「だいすき、だよ……ふゅーる」
それだけを言い残して、ルツィアは息を引き取った。
「……や、だよ。逝かないで! 僕を置いて逝かないでっ」
まだ温いルツィアの人差し指をきゅ、と両手で握る。
(どうしたら、良かったの?)
どうやったら、ルツィアを救えた?
ルツィアが、自分が生きる唯一の理由が、この世界にもう生きていないのなら──
(僕が生きている意味って……あるのかな)
ボゥ、と掌に火を灯す。これで、死ねるだろうか。
自身の赤く燃え盛る炎を目の前にして、ふと思った。
(あぁ、そうだ)
フュールは八大精霊だ。八大精霊には、神から特権が与えられる。
(ありがとう、〈火の女神〉様)
フュールは、初めて神に感謝した。
〈火の女神〉がテキトウに提案したであろう、過去を改竄する魔法をもらって良かった。
(僕が生まれてきたのは、きっとこのためだ)
フュールは掌の炎を消し、両手を組んだ。
特権を使うのは初めてだが、何とかなるだろう。そんな気がする。
「っ、あがっ」
気付いた瞬間、フュールは思わず咳き込んだ。
口の中に鉄の味が広がっていく。吐血したのが、自分でも分かった。
「フュールっ!? 大丈夫?」
「ルツィア……」
(ルツィア、ルツィアだ……)
先程まで死んでいたはずのルツィアは、生きている。ちゃんと、立っている。
「良かったぁ……」
「吐血してるのにっ、何が良かったの!?」
焦るルツィアを見て、フュールは涙を流したのだった。
そうして、フュールの何千回にも及ぶ繰り返しが始まった。




