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君を愛しています

 ディルーピ32年


「えいっ!」


 甲高い声を上げて、ルツィアは剣を竜に突き刺した。

 その間に、フュールは魔法陣を創り出す。

 魔法を使うとき、小さな魔法陣が展開されるのだが、魔法陣を創ってから行うと、攻撃力が増すのだ。

 しかし、時間も魔力も大きく消費するので、あまり本戦では使われにくい。


(よしっ)


「グァァッ!!」


 いいところに当たったのか、竜は呻き声を上げる。

「ルツィア!」

 フュールが叫ぶと、ルツィアは剣を抜き竜から離れた。


「魔法陣、展開!」


(いっけぇっ!)


 魔法陣を展開し、フュールは業火と炎の刃を竜に向けて大量に放つ。


「ガァァッ!」


 こちらの攻撃も、また上手く当たったようだ。


「ルツィア、こっち!」


 フュールはルツィアを呼び、彼女はうんと頷く。

 そして、ルツィアは剣を差し出した。

 フュールは剣に触れ、魔法を行使する。


「〈火の女神〉ヴァイアーサ。火を司る八大精霊、フュールの名に答え、我が親愛なる者へギフトを届けよ。〈耐久の神〉ドレッシェルン、〈規則の神〉シュタインレードゥ、〈運命の女神〉ルーラ、〈束縛の神〉シェズカレトの祝福を」


 ぶわっと剣が燃え上がって、剣の色が淡く赤に変化した。


「ありがと、フュール」


 炎を纏った剣を持って、ルツィアは再び竜に向かっていく。


 ルツィアから合図をもらう。右の翼への攻撃だ。

 それならばと、フュールは拘束魔法を使う。翼の爪の当たりに光の縄を引っ掛けて、引っ張った。


「おりゃっ!」


 剣を振って、浅くだが傷をつけていく。竜も反撃をしようとするが、右の翼はフュールが拘束しているのだ。左だけなら、ルツィアも避けながら斬撃を入れられる。

 火の加護を付与したのだ。痛みはかなりあるはずである。



 火の加護の効果が切れたところで、ルツィアは後退した。

 竜はまた攻撃をしようとするが、フュールが拘束魔法を維持したままだ。そして、フュールは炎の刃を左の翼に当て、竜からの反撃を防ぐ。


(よしっ)


 いい感じに、こちらのペースを作れている。


(このまま行けば――!)


 ルツィアは再び竜に向かっていく。腹のあたりを斬ろうと剣を振り上げた。


「あっ」

「ルツィアっ!」


 振り上げた剣が右の翼に殴られて、飛んで行ってしまう。


「ルツィアぁっ!」


 フュールは拘束魔法を使って、ルツィアに縄を括り付けた。そして、全力でこちらに引っ張る。


「わっ」


 左の翼で攻撃されそうになっていたルツィアは、何とか攻撃を避けることに成功した。


 避けられたのだ、と確認できた瞬間に、フュールから全身の力が抜けていく。


(良かったぁ……)


「ありがと、フュール!」

「もっと気を付けて!」

「はぁい。私、剣取りに行ってくるね」


 気の抜ける返事をするルツィア。フュールはいつも通りすぎる彼女に、小さく笑った。


「ルツィアの方には、行かせないから!」


 無防備に背中を向けて走るルツィアと、彼女を狙う竜の間に入る。


 竜は水魔法を勢いよくフュールに向けた。


 フュールは即座に防御魔法を使って防ぐ。


 火の精霊であるフュールに、水魔法の攻撃はよく効く。元々、この竜とは相性が良くないのだ。


「ルツィア、到着! 行きます!」


 戻って来たルツィアは剣を持ち、再び竜に向かっていく。


 フュールは業火でルツィアの援護をする。ルツィアは竜の身体に一撃入れることに成功した。


「っ、ルツィア!」


 フュールは叫んだ。

 後退しているルツィアに、竜の鋭い爪が迫っている。


「……っ!」


 慌てて、防御魔法をルツィアの目の前に展開するが、竜の爪に当たった感覚はない。


 その代わりに、腹部を激しい痛みが襲った。


「どう、して……」


 竜はフュールの腹から爪を抜き、そのままドン、ドンと逃げて行った。


(いい感じだった、はずなんだけどなぁ……)


 フュールは、浮いていた身体を維持できずに後ろに倒れる。


「ふゅ、る」

「る、つぃ、あ」

「ふゅー、る」


 剣を落として、ルツィアはフュールの元にトボトボと歩いてくる。


「フュール」


 そして、フュールの目の前でガクン、と膝立ちに倒れた。

 形のいい瞳には、大粒の涙が溜まっている。


「ふゅーる」


 本来の小さいサイズに戻ったフュールをルツィアは抱き上げる。



(魔力が空っぽだ。でも……これなら、吸収しやすいかも)


 ルツィアが触れている部分から、フュールはルツィアの黒い靄を吸い取っていく。


「ふゅー、る?」


 涙を零しながら、ルツィアはフュールに問うた。

 何だか、ルツィアの身体が軽くなっていくような感覚があったのだ。


 だが、フュールは答えない。どんどんと力がなくなって、動かなくなっていく。




(よし……これで、全部)


 自身の身体から、黒い靄が纏わりついているのが見える。

 そして、死に近づいていくのとは別に身体が重い。


(ルツィアは、こんなに重いものを背負っていたのか……)


「ふゅーる、ふゅーる……しんじゃ、だめっ」

「ご、め……ん、ね」


 フュールの身体に、ルツィアの涙が落ちてくる。

 もうすぐ、フュールは死んでしまうだろう。現に、フュールの身体は淡い赤の光となって散り始めている。


「るつぃ、あ。きみ、は、もう、だい、じょぶ、だから……。もう、まじゅうに、おそ、われ、ること、ない……から」

「え……?」

「きみの、たいしつ、ぼく、がもら……ったから」


「なんで、そんなこと……」




「きみ、には、幸せに、なって、ほしー、から」





 フュールの言葉に、ますますルツィアの目から涙が溢れ出す。

 もう、フュールの身体は顔くらいしか残っていなかった。


「愛してる、よ……ルツィア」

本編完結いたしました!ここまで読んでいただけた皆様、大変ありがとうございました!今後、番外編とIfを投稿いたしますので、最後までお付き合いいただけると幸いです!

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