竜襲撃
ディルーピ32年
数十分ほどフュールも眠っていたらしく、彼はゆったりと目を開ける。
座っていたフュールの目に入ったのは、自身の手だ。
(……やっぱり、黒い靄)
ルツィアを見やれば、彼女にも同じく黒い靄が全身に纏わりついている。
「……」
ルツィアに出会ったときから、彼女にはそんな靄がついている。きっと、それが魔獣や魔族から狙われる証なのだろう。
〈混乱の女神〉ルティスレーディアの、お気に入りの証。
それがフュールにもついたのは、ずっと近くにいたからか。
それとも、彼女と同じく〈混乱の女神〉に魅入られてしまったからか。
確かに、ずっと何か異物を吸収しているような感覚はあった気がするのだ。
(……いざとなったら、ぜーんぶルツィアから吸い取って死んでやる)
──自分が死んでも守るというのは、そういうことなのだ。
フュールと、数刻ほど仮眠をとったルツィアは最低限の荷物を持って動き出した。
そして、フュールは探知魔法を行使し、竜の位置を割り出す。
これから、フュールとルツィアは竜に奇襲を仕掛ける。
あちらのペースでやらせるよりかは、最初だけでも自分たちのペースに持ち込んだ方が良い。
「まず、私が背中から心臓を刺す。その後避けたら、フュールが魔法攻撃……それでいいよね?」
「……ルツィア、本当にそんな危ないことをするの?」
心配そうに眉を下げるフュールに、ルツィアは腰に手を当てて彼に言う。
「何言ってるの。殺されるんだったら、死ぬかもしれない攻撃をした方が良くない?」
「言っていることは分かるけどさ……」
そう、ルツィアが言っていることには一理あるのだ。
フュールは近距離戦が得意ではないし、ルツィアは遠距離攻撃(剣を投げること以外)ができない。
となると、狭く深く攻撃ができるため、心臓を刺せるルツィアが適任だ。逆に言えば、フュールは広く浅くの攻撃が多かったので、前回は決定的な打撃を与えられなかったのも敗因だろう。
(ルツィアを危険な目に合わせて、それで死んだら……)
もう、後戻りはできない。繰り返しはできないのだから、慎重に行動しなければ。
しばらく移動していると、竜を見つけた。ドン、ドンと歩いている。
ラピスラズリのような殻を持つ竜。かなり固そうだ。だが、ゴツゴツとしている殻が浅い部分もある。あそこが、一番弱い。
そこを、ルツィアが狙って刺すことができれば、まだ勝機はあるだろう。
フュールたちは竜の背後に回って、狙いを定める。
(頑張ろう)
ルツィアを生かすために。
ルツィアを死なせないために。
ルツィアの幸せな未来のために。
フュールとルツィアは見つめ合って、頷く。
(頑張れ、ルツィア)
――ルツィアは飛び、竜に向かって剣を振りかぶった。




