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世界の誰より、君が好き

 ディルーピ32年


 いつもの通りに血を吐いたフュールに、ルツィアは背中をさすってくれる。


「……フュール」

「……うん」


 落ち着いたフュールに、ルツィアは問うた。

 覚悟はしていたことだ。

 〈火の女神〉ヴァイアーサに、ルツィアにも記憶が受け継がれると言われていたのだから。


「ねぇ、フュール。私、死んだと思うんだけど、フュールも覚えてる?」


 ルツィアには前回の記憶がある。

 言い逃れも誤魔化すこともできない。

 フュールは意を決して頷いた。


「うん、僕たちは一度死んだんだよ」

「……だよ、ね。夢じゃ、ないよね」


 ルツィアは複雑そうな顔で俯く。


(死んだ記憶なんて、ない方がいいものだし……)


「これから、僕たちは竜に襲われる。そこを乗り越えよう、ルツィア」

「うん……そう、だよね。……ねぇ、フュール」

「なあに?」


 ルツィアの言葉に、フュールは真面目な顔で小さく首を傾げる。


「フュールは、私のこと嫌い?」

「そんなわけないっ!」

「……ほんと?」

「うん、大好きだよ、ルツィア。世界の誰より、君が好き」


 フュールは、頬を赤らめて愛おしそうな目でルツィアを見る。

 その言葉に、ルツィアは目を見開く。


 ――本当に彼は自分のことが好きなのかもしれない、そう感じてルツィアは少し目を逸らす。単純に少しだけ恥ずかしかった。


「……じゃあ、何で私を遠ざけたの?」

「竜が来るから……君を危険に晒したくなかった……」

「そっ、か」


 きっと、言葉が悪かったのだろう。ルツィアはそう自分を納得させる。

 だって、自分を好きだと言ってくれる彼が、自分を貶めようとしているはずがない。



 ルツィア・ノートンが、愛されていることを自覚した瞬間である。


「私も、フュールが好きだよ。だから、君に危険な目にあってほしくないの。一緒に戦ってほしい」

「……うん、分かった」


 フュールは少し考えた後に頷く。

 今までは、フュールには相談できる相手がいなかった。

 だが、今回は違うのだ。



 とりあえず、二人は食事をとることにした。

 長期戦になれば、戦いの最中にまともな食事はとれない。


「……ねぇ、フュール。私たち、今までも何度か死んだりしてる?」

「……っ」

「だって、フュールは前回の時点で私たちが竜に襲われること知ってたんだよね? だったら……フュールは今まで、何回繰り返してきたの?」


 フュールは目を見開く。ルツィアはまともな教育こそ受けてきていないが、地頭は良い。


「フュール、答えて」


 ルツィアが気づかないのなら、何故かこうなった、と原因不明ということにしても良かった。だが、ルツィアは気づいた。

 全てを話す気はないが、繰り返しのことは話さねばならないだろう。


「……うん。実は、僕の意思で何度でも繰り返すことができるんだ。でも、今回で最後なんだって。使用制限、みたいな」

「そう、なんだ……。ちなみに何回くらい?」


 フュールは今までの繰り返してきたことを思い返す。



 ――どれも、無惨にルツィアが死んでしまうものだ。


(そこだけは、隠し通す)


「そんなにだよ」

「……何回くらい?」

「うーん、十回も超えないくらい?」


 ルツィアはまだ疑うような視線を向けるが、それ以上は何も言わない。


 食事を食べ終え、ルツィアは少し仮眠をとることにした。

 フュールは精霊なので、それほど睡眠は必要ない。




(絶対、僕が死んでも守るからね)


 目の前にいる最愛の少女と、世界にそう誓ってフュールは赤くなり始めた空を見上げた。

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