どうして、君が死んじゃうの?
ディルーピ32年
「お願いだから、僕から離れてよっ!」
(あぁ……やっぱり、フュールもそうなのかな)
「どうして、そういうこと言うの? 連れてって、って言ったのはフュールの方なのに」
「そうじゃな……っ!」
涙が溢れそうだ。
(でも、そうなっても仕方ないよね)
それを知った両親も、使用人もそうやってルツィアを遠ざけた。
「そうだよね。だって、私は魔獣をおびき寄せる体質で。フュールが嫌になるのも当然か。ごめんね、付き合わせて」
「違っ……!」
「ううん、いいの。私のせいだよね。ごめんね、もう大丈夫だから。じゃあね。今まで、ありがとう」
早口で捲し立てたルツィアは、デリアがくれた剣だけ持って離れた。
フュールから離れた途端に、涙が溢れ出した。
ルツィアにとって、フュールとは何だろうか。
誰よりも大切な存在。それは確かだ。
だが、お前にとって何か? と問われると何と答えればよいのか分からない。
旅仲間?
相棒?
弟分?
友達?
親友?
家族?
自分を助けてくれる子?
自分を救ってくれた子?
答えはでない。
「ねぇ、どうしてっ……君は、私の傍にいてくれたの」
暗闇の中、走ったルツィアは足を止める。
ルツィアの問いに、答えが返って来ることはない。
フュールが大切な存在であることに変わりはないのだ。
(ちゃんと、話をしよう)
それでも尚、自分のことが嫌いなら、ここでフュールとは解散すればいい。
いつもは喧嘩しても、大体フュールが先に折れてくれるのだが、今回はルツィアが折れた。
ルツィアは踵を返し、フュールのところに戻る。
「……っ、フュールっ!」
おかしい。どうして。
「フュールっ、フュール!」
どうして、フュールが戦っているのだろう。
叫んだ声がやっと届いたのか、フュールはルツィアを見た。
「フュール……何でっ、そんなこと……!」
フュールは表情の抜け落ちた顔でルツィアを見ていた。
「どうして、ここに……」
「馬鹿フュールっ! 何で一人で戦ってるの!」
フュールの問いには答えず、ルツィアは怒る。
「……っ、お願いだから、何処か遠くに行って! 君がいちゃ駄目なんだっ! 頼むから……っ!」
「何で!? 何で、フュールは……っ、そんなに……私のことが、嫌いなの?」
フュールは竜の爪で肉体を抉られてしまう。皮が斬れ、魔力が漏れていく。
(……っ、駄目。死んだら、駄目っ!!)
そして、ルツィアは帯刀している剣を抜き、竜に立ち向かおうとした。
「やめて! やめてくれっ! ルツィア、それ以上は進んじゃ駄目! 逃げてよっ、どうして言うことを聞いてくれないの!?」
叫んでいるフュールに反論しようと、ルツィアは彼を見た。
「っ、フュールっ!!!!」
フュールの背後に、竜がいる。
(駄目っ! 駄目!! やめて……っ!)
ルツィアの想いも虚しく、竜はフュールの心臓を刺す。
「ルツィア? ……あ、れ……」
「フュールっ? フュールっ! 何でっ、何で、私じゃないの!?」
ルツィアは、ふらふらと落ちていくフュールを抱きかかえて、竜に怒鳴った。
フュールは、心臓を貫かれたのだ。
ぽっかりと、穴が空いている。それでもまだ死なないのは、フュールが精霊だからだ。
――だが、もうすぐ、絶命してしまう。
「ねぇ、どうしてよ! どうしてっ、私じゃないの!! フュールじゃなくて、私でしょ! 君たちはっ、いつも私を狙ってたでしょ!」
ルツィアは叫ぶ。
そうだ。今まで、魔獣も魔族も竜も〈混乱の女神〉ルティスレーディアに魅入られたルツィアを狙ってきた。
そのせいで、ルツィアは自身の家から出たのだ。それなのに、どうしてこういうときだけ。
(どうしたらいいの? どうやったら、フュールを生き返らせられる?)
「フュールっ、フュー……」
ルツィアは名前を最後まで紡ぐことができず、フュールの身体に倒れこんだ。
フュールと同じように、ルツィアも心臓を貫かれる。フュールと違って人間であるルツィアはすぐに気を失った。
痛みは、一瞬だった。
◇◆◇
そうして、気が付くと、ルツィアは立っている。
(え、どうして……? 私は、死んだ、はずじゃ……)
隣を見ると、そこには血を吐いているフュールがいる。
いつも通り、ルツィアは彼の背中をさすった。
ようやく落ち着いてくると、ルツィアは聞きたかったことを口にする。
「……フュール」
「……うん」
「ねぇ、フュール。私、死んだと思うんだけど、フュールも覚えてる?」




