どうして、君はついてきたの?
ディルーピ30年
旅を初めてから二年。十五になったルツィアは買い出しに入った村から出ていくところだった。
(……また私一人でいることを心配されちゃったけど)
ルツィアの体質を知らない人間からすると、まだ十代のルツィアが旅をしているのは心配になるものなのだろう。これまで行ってきた村や街でも当然のように心配された。
(良い人たちだなぁ……)
しばらく歩いていると、おまけをしてくれたおじさんのりんごの木に魔獣が乗っていた。
しかも、何かを食べているように見えた。
「よっと」
木に軽々と登り、ルツィアはあっさりと魔獣を切り捨てる。だが、食べていたと思わしきものは見つからない。
「あれ~、魔獣が何か噛んでるように見えたんだけどなぁ。気のせいかな」
(まぁ、おじさんの大切な木を守れたんだからいいよね)
それでも、やはり気になるもので。
思い返してみても、何かを食べているように見えたのは確かだった。
「う~ん、気のせいだったのかなぁ……」
ルツィアはさっと木から降りて、歩く。
何だか、秋なのに暖かいような気がする。
(何だろう……このあったかいの)
「ねぇ、待って!」
高い少年のような声。ルツィアは振り返る。
そこにいたのは、掌に乗ってしまうような小さな生き物だった。
その小さな生き物は必死にルツィアに言う。
「助けてくれて、ありがとう」
「ふふ、さっきの魔獣のこと? 君は隠れてたのかな」
未知の生物だったが、何だか悪い気はしなくて、ルツィアは微笑んだ。
感謝されるのは、ルツィアの人生において、あまりない経験なのだ。
「僕は、フュール。貴女は……?」
「私はルツィア。ルツィア・ノートン」
眉を下げて、フュールと名乗る小さな生き物。よく見れば、背中には蝶のような羽が生えている。
(本で読んだ妖精みたい)
淡い朱色の髪に、紅色の瞳を持っている。全体的に赤、という印象の強い生き物だ。
話を聞けば、フュールは精霊という種族らしい。
本来は、人間には姿を見ることすらできないのだと。
何だか、ルツィアは話したくなった。自分の人生を。
誰にも話したくなかったはずなのに、彼にならいいと思った。人間ではなかったからかもしれない。
だから、ルツィアは自身のことを話した。
全てを話し終えると、フュールは「そっか……」と眉を下げる。
それから、パッと顔を上げた。そして、紅色の瞳でルツィアをジッと見つめる。
「ねぇ、僕も連れて行って」
「やだ」
何となく、フュールが言いそうだと思ったので、ルツィアは即答した。こんなに短い間話したただの他人なのに。
「どうして!」
「言ったでしょ? 私は魔獣をおびき寄せる体質なの。さっきだって、君死ぬかもしれなかったんだよ?」
ルツィアはそう言う。ルツィアにとって、フュールは守らなければならない存在なのだ。
「じゃあ、これは使える?」
手をルツィアに差し出したフュールは、魔法を行使する。すると、ボゥと小さい掌で炎が上がった。
「わぁ……精霊ってそんなこともできるの?」
フュールはルツィアの問いに頷く。
(きれい)
全てを燃えつくしてしまうような、真っ赤な炎。ルツィアは食い入るように見る。
「ね、僕は使えるでしょ?」
フュールはニッと笑って、ルツィアを見た。
剣しか持っていないルツィアにとって、遠距離攻撃ができるフュールの魔法は利用価値があるものだ。
ルツィアは「ぐーっ」と唸る。
「……そのために、そんな素敵なもの、見せたの? ……もう、怪我しても責任は取れないんだからね」
「いいよ。僕が貴女と一緒にありたいだけだから」
(変なの)
ルツィア・ノートンの自分の体質を知る者との旅が始まった。
◇◆◇
それから、フュールがお勤めとして、一日数時間精霊界に戻る時間以外は全ての時間を共に過ごした。
フュールはとてもいい子で、優しい。
最初の印象とは違って、魔法を使ってくれるのでとても強かったが。
だが、戦闘時以外はいつもの穏やかなフュールだ。
たまに、急に血を吐くことがあるので、それだけは心配だった。
何度も魔獣に襲われたが、間一髪のところでいつもフュールが助けてくれる。
(多分、フュールがいなかったら、私すでに死んでるよねぇ……)
また旅がひと段落ついたら、デリアのいる村に行きたいと思う。
デリアとフュールと、三人で話をするのだ。
(きっと、すごく楽しいんだろうなぁ……)
楽しい想像をしていると、フュールが帰って来た。
「あ、おかえり〜! お勤めお疲れ様!」
「……うん、ただいま」
ルツィアの声に、フュールは眉を下げて答える。
(元気ないフュール、珍しい)
「フュール、お勤めで何かあった?」
「……大丈夫だよ。僕は」
眉を下げて微笑むフュールに、ルツィアは不安を覚える。
(どうして、そんな顔……)
それから、フュールは一度森から抜けようと提案をされた。
この旅には最終目的がない。村や街で話を聞いて、何となく目的地を決めるのだ。ルツィアとしては、死ぬまでそうやって生きていくつもりである。
今回の目的地は森を抜けたところにある。森を迂回するには国境を越えなければならないので、森を突っ切るつもりでいたのだが。
(まぁ、一旦森を抜けつつ考えればいっか)
「ねぇ、ルツィア」
夜になって、そろそろ野宿の準備を始めようというとき、フュールはルツィアに声をかけた。
「ルツィア、今から別行動しよう」
「……え?」
急なフュールの提案に、ルツィアは目を見張る。
「……どう、して?」
「……ほら、森の入口付近に、珍しい果物があったでしょ? それを取ってきてほしいんだ」
「え……それなら、一緒に行けばいいでしょ? 何で?」
どうして、別行動がしたいだなんて言うのだろう。
(嫌だよ、一緒に、いたいよ……)
「ちょっと、一人でやりたいことがあるんだ」
「やっぱりお勤めで何かあったでしょ。……まず、明日になってからちゃんと話そ。ね、フュール?」
「……駄目なんだ。お願いだから、僕から離れてよっ!」
フュールは怒りに身を任せてルツィアに大声を出した。




