第08話 魔導書と時計塔【8】
「アキ、凄かったね。何アレ、何の魔導?」
リリアの興奮と興味は尽きていなかったようで。せっかくこう……威圧感も出してるっていうのに。台無しじゃないか。
「魔導については後で話すよ。今は……」
「ねぇ、ラグシュラダガル? って何?」
尽きないというか、想像以上だった。まるで三歳児のように……このなぜなぜモードに入るとなかなか手がつけられない。
「……光を意味するラグ、流星のダガル、シュラは破滅ってところかな。そんな意味の古代語だよ」
「へぇ……天から降る破滅の光ってこと?」
「まぁそういうこと」
黎明魔導は魔力の射出とそれに伴う魔素の巻き込み。意識するのは大きさと指向性、破壊力といったところだ。あの術が黎明魔導の基本形らしいが、それ以上は解読できてないからよく分からない。
「……と、まぁそれくらいにして。お前だよ、ゾラン。お前に聞かなきゃならないんだ」
「……何をだ……」
「シュリムについて」
それを聞いた途端、彼は目を見開き、一度息を大きく吐いた。痛みはあれど大層な怪我ではないと思うのだが……ということは、オレの質問が予想外なんだな。
「お前……名乗っているくせに意味を知らないのか?」
「まさか意味のある名前だとは思わなかったんだよ。村に伝わる話か?」
「……いや、ラナバ村に限った話ではない」
ラナバ村……あの村には名前があったのか。アホな話だが、フツーに聞くのも忘れてたな。思わぬ収穫だ。現代に戻ったら調べられるかも……いや、今はそれより目先の情報だ。
「それで、シュリムって何なんだ。お前達の知ってることを……」
《攻略完了を確認しました》
「……ッ!?」
「わっ、何!?」
そう響いたのはどこか機械的な声。音声と言うべきか、それがオレの頭の中に響き渡った。……オレだけじゃない。リリアもだ。考えるまでもなく、これは塔からのメッセージ。
《攻略条件・氾濫からの生還、確認。報酬を確認しました。特殊条件・氾濫の掃討を確認、報酬を加えます。並行攻略・ラナバ村の降伏を確認、報酬を加えます》
「と、塔ってこういう感じなのか。思ったより機械的だな。……あ! そうじゃねぇ! おい、ゾラン!」
《報酬を確定。魔力を総量の五パーセント付与。体力を回復。一部武具およびポーションを報酬に追加、等級は無作為に決定。地竜の牙および鱗を報酬に追加。魔導書の一部解読を確認、解読を五パーセント進行します。報酬を決定しました》
《最初の門の攻略を確認、決定しました。攻略に成功したアキレス・シュリム・ジークレッドおよびリリア・ミューザにはその他の二階の門を攻略する権限が与えられました。以上で攻略を終了します》
「わっ、ちょ……ッ!」
突然に、しかし当然に。攻略が終わればこの世界に用はないのだから。気づけばオレもリリアも小さな部屋に……その扉の前に立っていた。……いやしかし、まさかここまでシステム的だとはなぁ。
「……はぁ、塔に戻されたってことか。マジにチュートリアルだったな。……ん?」
視線を落とした先にあったのは、なかなか大きな皮袋が二つ。報酬は律儀にまとめられているのか。加えて体感できるのは、体力の回復と魔力の増加、それと……少しばかりの頭の冴え。これが魔導書の解読が進行したってことか。
「世話焼きなのか放任主義なのか……分かんねぇな」
「まぁ仕方ないじゃない。ほら、もう終わったことなんだから、出ようよ」
「まぁそうだな」
リリアに促されるように、扉を開くと……なるほど、見た景色だ。塔の二階、出てきたのは攻略を終えた最初の門か。歪みが無くなり、ただの扉に変わってはいるが……。
「ふーん、不思議だな」
一歩、出てみると、すぐにそこは歪み始めた。また新しく、最初の門としての役割を持ったのだ。次に来る者に、最初の試練を与えるための。
「おぉ、最初の攻略からご帰還か。どうだった、大変だったか?」
「はい、思ったより」
「そうか、そりゃあ良かったな!」
声をかけてきたのは、これまた見知らぬ中年だ。新人を気にかけてくれるのは嬉しいが、今は疲れて……いや、この人はアレか。確か攻略に行く前にも声をかけてくれた……。
「初めては疲れんだろ。宿でも取って休んだ方がいいぜ。オススメはここだ。ちょいと遠いが飯も美味いし探検家には割引もしてくれる」
「そうなんですか? ありがとうございます」
彼が指し示したのは地図の右下、京福亭という名の宿だった。もっとベテランになって金を稼げるようになれば家も買えるだろうが、オレ達のような駆け出しや下級の探検家にそんなことはできない。そんな者達に向けた宿場は少なくないはずだが、わざわざ勧めてくれるのだからその中でも良いところなのだろう。
「ありがたいね。優しい人だ」
「……今度会ったらお礼もしたいね」
まだ右も左も分からないオレ達にとって、道を示してくれる先輩の存在はありがたいなんてものじゃない。あるいは彼も、そういった先輩に世話になったのかもしれないな。
「換金は先にしていく?」
「うん、一階にあったもんね。調べものとかは明日でいっか」
ふぅ、と、大きく息を吐いた。そしてググっと腕を伸ばし、緩める。体力は回復したし、傷も痛みは無くなった。ありがたいものだが、やはり精神的な疲労が抜けたわけでもなく。チュートリアルにしては、なかなかハードだったかな。




