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第06話 魔導書と時計塔【6】

 カツ、カツと。石畳を叩く音が静かに響いた。驚くほど気配は無かったが、それも当然か。この遺跡には特に何があるでもない。岩石兵ゴーレムらしきものはあるが、それも動力源のない残骸……というより……。


「魔石を埋め込んでた形跡もないな。ってことは、これは守護者とかでもなく、レプリカみたいなもんか?」


 岩石兵ゴーレムを動かすとなれば、それなりの魔石、つまり魔力や魔素の結晶を必要とする。いや、そもそもこの時代にそんな高度な技術などないだろう。つまりこれは、何らかのイメージを得るための人形でしかないのだろう。


「何にしても、魔法使いのための場所じゃないよね? 魔導師が何らかの目的で作った、ってこと?」


「まぁ……たぶんそう」


 この世界、この時代が村の形式から察するにおよそ宵歴100年代かそれ以下、となればこの遺跡はさらにそれ以前のものだろう。魔導は現代よりもさらに希少、生まれついての奇跡か、天才が研究の末に導き出すようなもの。


「……個人がこんなものを作ったとは考えにくい。じゃあ魔導師の集団が? ……ないこともない、とは思うけど」


「なんか考古学者みたいでカッコいいね」


「お、おん。ありがと。……ずっと肩借りてて悪いね。まだ一人じゃ不安定で」


 気にしないで、と笑ってくれることにどれだけ救われるか。状況が状況じゃなかったら素直に喜びたいところだが。


「本当に、ゴメンね。今は私しか魔導を使えなくて、私が守ってあげなきゃなのに。肝心の攻撃魔導は私にはまだ使えなくて……」


「だから、もうそれは気にしなくていいって。元はと言えばオレの魔導書が読めないのが悪いんだから」


 ただそれも、この遺跡が解決してくれるんじゃないかという淡い期待。……期待とも違うか? なんというか……予感? 勘というかなんというか。


「……あ、リリア。あそこ」


 ふと、視界に入ったのは大きな石碑だった。階段を降りたさらに先にある、たぶんオレよりも大きいくらいの。ここからでは文字もよく見えないが……。


「あれ、見てみよう。何か分かるかも」


「そ、そうだね。ほら、もっと掴まって」


 さらにグイッと。抗う力もなく密着させられたが、顔を赤らめる余裕もない。肩を借りながら階段を下りる、という行為にリリアがあまりに慎重で。まるで介護でも受けてる気分だ。……うん、悪くない。


「うわぁ……気持ち悪い。知らない文字なのに読めちゃうんだもんな」


「こればっかりは塔サマサマだな」


 下りた先には、確かに石碑があり、確かに古代文字が刻まれていた。知らない文字、あぁ、知らない文字ではある。だが、攻略に当たっての唯一の塔からのサポートである門の世界の言語能力が解読を可能にしていた。……そして何より。


「オレの魔導書と同じだよ。同じ文字だ」


「本当!? じゃあ……」


「うん、読めそうだ。でもちゃんと解読が必要だな。ちょっと待っててくれる?」


「うん、いくらでも!」


 オレは荷物袋から紙と万年筆を取った。一文字ずつ、石碑の言葉を写し、訳した文章も並べる。相変わらず不思議なことは、やはり魔導書そのものはそのままでは読めないこと。同じ文字が目の前にあっても、現代のものには頑なに知識が適用されない。


「……明暦318年……?」


 それがこの遺跡のできた時代。明暦、つまり宵歴の前の時代。詳しいことは知らないが、当時の世界を掌握していた政府が変わったとか何とかで歴も変わって……。と、そんなこんなで石碑はすぐに読み終えてしまった。


「大したことは書いてなかったね」


「うん。期待してたわけでもないんだけど、シュリムとかは何一つ書いてなかった」


 書いていたのはこの遺跡の成り立ち。当時は希少ながらにも世界には何人かいた魔導師の一部を集め、この地で研究していたと。


 彼らは魔力の遠隔操縦、つまり岩石兵ゴーレムを動かしてみたいと思っていたそうだ。魔石という媒介が必要だと辿り着けば、もしかしたらこの時代にも動いたかもしれないが……。


「確かな収穫はこっちだな」


 改めて、メモを広げた。古代文字の読みや意味を記したそれと、魔導書を見比べてみる。いやいや、骨が折れるのはここからだな。全部は解読できないだろうが、それでも一部は読み解けるならば……。


「リリア、どこか部屋を探してみよう。作業と休憩ができる場所が欲しい」


「おぉ! そうだね! 私もちょっと休みたいし、じゃあまた探検だ!」


 リリアはどうやら、この遺跡が気に入ったらしい。蛇や虫はところどころいるようだが、魔物や命を狙ってくる人間はいない。だから気に入るのも当然といえば当然だが、逞しいといえば逞しい。


「……ひぁっ!」


「わっ! ちょっ、急にしがみつかないで!」


 というのも、そう。こればっかりは威張って言うが、オレは虫が嫌いなんだ。ほら、足が多いだろ? キモいじゃん?


「まったくねぇ……アキがビビリだから私は勝手に虫も平気になっちゃったけど」


「い、いつもありがとうございます」


 リリアは静かに蛾のような虫を追い払ってくれた。確か昔は彼女も虫嫌いだったか。それでもすぐ隣で、自分以上に怯えているオレを見て自然と……いや、なんか恥ずかしいな。


「頼ってよ、アキ。私はアキのためなら頑張れるんだから」


「お、おぉ……。ありがとう……ございます……本当に」


 カッコいいなぁ、と。本当はオレが思わせたかったのに。オレはリリアには敵わないらしい。

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