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第05話 魔導書と時計塔【5】

「……はっ、はぁ……」


「あ、起きた!? アキ、どこか痛まない?」


「あ、うん。ちょっと痛いけど……全然平気だよ」


 覗き込む青い瞳、長い銀髪。目覚めには少しばかり過激というか、心臓に悪いというか……。いや、そんな場合じゃないんだけどね。仕方ないじゃない。


「……どれくらい寝てた?」


「半日くらいかな。回復薬がよく効いたみたいだね」


 潤んだその目を見ると、どうにも申し訳なくなる。オレが魔導書を読めれば、魔導を使えたら、こんな危険に冒されることもなかったろうに……なんて、タラレバは要らないか。


「どうしよー……。何をしたらいいんだ」


「うーん……攻略対象でしょ? ま、まさか村を滅ぼせとか言わないよね……?」


「それは……ないんじゃないかな」


 あの人数を二人で、となると、魔導を使えても流石に無理があるというもの。それに、オレとしても気が乗らないというか……。いや、あんな目に遭ってはいるのだが……。


「『シュリム』……あの人達、そう言ってたよな」


「う、うん。なんでだろうね。何か……因縁があるのかな?」


「うーん……」


 オレの家系はジークレッドという姓の他にも確かにシュリムという名も継いではいる。いるのだが、その意味はなんだ? この時代にも影響がある名前だとは……いささか信じがたい。


「……何にせよ。とりあえず、森を探索してみようか。村の人達には見つかってない?」


「うん。今のところは気配もない。まぁ当たり前だよ。結構遠いし、あの人達は空間転移テレポートなんて知らないんだから」


 分からないことは分からない。今できることを考えよう。村に戻るなんてことはまずできない。ということは、塔が求めている攻略は村ではない……はず。


「……遺跡を探してみよう」


「遺跡?」


「うん、たぶんあるよ。まずはオレの魔導書を読み解くこと、それが必要な気がする……っと」


 力の抜ける膝を叩きながら、なんとか起き上がる。クラリと視界は揺れるが、休んだおかげか、さほど苦しくもない。


「わっ、危ないって。ほら、掴まって」


「……ありがとう」


 リリアの肩に腕を回し、姿勢を安定させる。本当は空間跳躍(シフト・ジャンプ)の高速移動を使いたいところではあるが、魔力を使えば位置がバレるかもしれないし……何よりできるだけリリアの魔力と体力は温存させたい。


「ねぇ、遺跡を探すって言っても、まさか無策で?」


「うーん……川、とか?」


 手掛かりは何もないが、特に古い時代において、文明は川の近くで発展すると、誰かから聞いたことがある。そもそも遺跡があるのか、あったとしてどんなものなのかは分からないが、何のアテもなく探すよりはマシだろう。


「それにほら、川に遺跡って、なんか雰囲気あるでしょ?」


「そっちが本心じゃん」


 耳を傾けながら、流れる音を探った。せめて村で遺跡について聞けていたらと……いや、無駄な仮定だとは分かってるけど。


 ふと、改めて魔導書を見てみる。不思議な気分だ。この時代に送られた知識は、この文字を知っている気がする。なのに、いざ読み解こうとすると元の世界の知識が出しゃばって何も分からない。


「あーあ。オレが魔導を使えたらな」


 村で襲われても、対処できたかもしれないのに。何かとずっと、この魔導書に振り回されている。命を預ける相棒でありながら、いざというときに役に立たないなんて……。


「まぁそう落ち込まないでよ。きっと凄い魔導だからさ」


「……ありがとね、慰めてくれて」


 いやに素直なのは痛みのせいか、密着しているせいか。揺れる銀髪から漂うお日様のような香りは柔らかく……ってだから、そういうのは要らないんだと、オレの理性で抑えつける。


「……リリア、何か聞こえない?」


「ほんと? ちょっと黙るね」


 無音、とはならないが、自然の音だけに。鳥のさえずり、木の葉の揺れ、そして……どこからかザラザラと、水が岩場を転がる音。


「アキ、川の音だ! 川の音がするよ!」


「わっ、し、静かに! オレ達がいるってバレるかもしれないだろ!」


 そう言いつつも、気配がないのは確認済みだ。ソワソワと浮きそうになる足をしっかり地につけながら、そこに向かった。鼓動がオレのものか、あるいはリリアのものか。判断が難しいほどに高鳴って……。


「……わぁ」


 我ながら腑の抜けた声が漏れた。あろうことか、大当たりだ。川……はもちろんそうだが、その先に。苔むしたレンガらしきもので作られた遺跡。家一軒分の大きさではあるが、地下に続く階段が、あまりにそれらしく……。


「ごめんね、アキ。こんな状態でアレなんだけどさ……」


「いや、いいよ。オレもめっちゃワクワクしてきた……」


 遺跡、探検、いかにもだろう。鼓動が一層高鳴り、瞳は子供のように輝いて。ドクンドクンと、答えが目の前にあるかもしれない、そんな期待でいっぱいで。


「……痛っ。……わぁー! やべぇ、傷が開いた!!」


「バっ……バカ! ちょっ、手当て手当て! 本当にバカー!」


 少しだけその川が赤く染まったのは、ちょっとしたご愛嬌ということで許してくれ。オレもまだまだ若いんだから。

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