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第04話 魔導書と時計塔【4】

 疑問に思うのは二つ。一つは彼らとの意思疎通ができていること。最低でも2000年以上は昔だと思うのだが、それにしては違和感もなく言葉を理解できている。が、これに関しては時計塔の影響もあるのだろう。門の向こうの世界、この時代に必要な意思疎通能力はプレゼントのようなものか。


 そしてもう一つ、こっちの方が問題なのだが、いきなり地竜が出てきたこと。それにアレはボスではないときた。最初の門はチュートリアル。となれば、そもそも村に逃げることが前提なのか、攻略とはやはりオレの魔導書に関わることなのか。


 ただそうとなればさらに疑問も増える。この時代の言語が魔導書の文字とイコールだとして、なぜ魔導書の方は読み解けないのか。……あれか。恐らくだが、この魔導書は元の時代に与えられたものだから、塔からのサポート対象ではないのだろう。……なら元から読めるようサポートしてくれって話だが。


「さぁ、まずは長老様と挨拶してくれ。そいたらこの辺のことを教えちゃる」


「はい、ありがとうございます」


 思考はとりあえず他所に、オレとリリアは促されるまま少しだけ豪華そうな家に入った。家なのかは怪しいが。そこにいたのは質素ながらも飾り気の多い白髪の老人、そりゃあもう、いかにも長老らしい格好の方だった。


「おぉ、お前さんらが地竜に襲われてたという……難儀じゃったのう」


「助けられまして、本当に……えっと、助かりました」


 しおれたような声、その重厚な響きに、オレも少し気圧されてしまう。オレの村の爺ちゃん達よりずっと威厳が……おっと、そんなことを言ったら怒られそうだな。


「あ、そうだ。私、リリア・ミューザと申します」


「あぁ。オレはアキレス・シュリム・ジークレッドです」


 名乗りを忘れていた。……いや、律儀に姓も名乗ったものの、この時代にはあまり意味がないというか、むしろ意味があり過ぎるのではと……。まぁ遠方の国だと言えば誤魔化せるか。


「アキレス……シュリム……? ほほ、難儀な旅人じゃの。村の滞在も構わんし、地理や魔物についても聞いていくといい。ゾラン、彼らを案内してやりなさい」


「はっ、承知しました」


 深々と頭を下げた青年、ゾランという名だったのか。村に滞在するかどうかは……今のところは分からないが、野営するよりはマシだろう。長老にもう一度頭を下げ、再びゾランについて行った。改めて思うのは、この村はなかなか大きいなと。人も数百人は住んでいそうな……。


「すまんなぁ。長老様は少しばかり……ボケが入ってしまわれてな」


「……? いえ、お気になさらず」


 何か都合の悪いことでもあったのだろうか。いや、そうではないな。もっとこう……いびつというか……。


「ところで、だがなぁ。お前さんらもしかして、魔導師なのか?」


 蛇が背を伝ったように、ゾクリ、と。『魔導師』という言葉を知っている? 塔がない時代にも、魔導が無かったわけではない。だが、それが選択肢に入るほど普及してはいないはず……。


「はい、そうなんですよ! よく分かりましたね?」


「バっ……!」


 バカ野郎と叫びそうになるのを抑えながら、思考をフル回転させた。下手に言い淀んだところで、かえって不信感を積もらせるだろう。イチかバチか、ここは適度に嘘を交えるか……!


「はは、そうなんですよ。とはいっても、魔導師の弟子? みたいなもんで。師匠には旅をしてくるといいと言われてね」


 余計なことを言わないように、リリアを止めながら。流れるように出てくる嘘に、我ながら少し悲しくなるが、いや、いいんだ。嘘も方便と、偉い人が言うくらいなのだから。


「そうか……残念だ」


「っ……!?」


「何だ何だ!!」


 ブォオ、と激しい音が、オレの言い訳も消し去っていく。そして釣られるように村人もゾロゾロと出てきた。それは角笛の音……詳しくは知らないが、嫌な予感がする。勘違いであってほしいが、そうでないとすると……。


「リリア、逃げるぞ!」


「今度は何よ……っ!」


 恐らくそれは、敵襲を知らせる音色。オレはリリアの背を押すように駆け出した。背後からは叫び声と、同時に弓を引く音がしていた。


「下がって、アキ。私が相手を……」


「ダメだ! お前の魔導は唯一の逃げ道だ。先に行って空間転移テレポートの準備しろ!」


「でも! アキはまだ魔導書も……」


「いいから行け!」


 冷や汗を垂らしながら、リリアを走らせる。まだ慣れていないのだから、空間転移テレポートの発動までには時間がかかる。


「あの小僧だ! あいつが『シュリム』だ!」

「射てーッ!」


「くっ……!」


 流石というべきか、矢の精度は半端じゃない。火の魔法を帯びた矢が、避けてもどこかを掠めて通る。ただ背を向けて逃げ出していても、そっちの方が危なかったかもしれない。


「何だか知らねぇが、オレだって魔法は使えるんだ……!」


 ジャラリと鳴らしながら、オレは袋から小さな鉄球をいくつも取り出した。迎え撃つ必要はない。返り討ちにする必要も。必要なのはリリアが魔導を発動するまでの、そしてそこまで逃げるための時間稼ぎ。


雷散弾ボルテニクス!」


「ぐわぁッ!」

「何だ!? 魔導か!?」


 いくつもの鉄球を投げながら、空中のそれに向けて雷魔法を発動させた。同時に大きな煙が上がり、彼らの視界は塞がれたはずだ。魔導でもない、ただの雷魔法。だが、この時代には雷魔法なんて存在しないだろう。この隙に逃げて……。


「がッ……!?」


 再び走り出そうとした瞬間、一本の火矢が肩を貫いた。続いて二本、三本と身体を突き刺す。


 鉄球を投げる直前、射たれたものか。流れる血と共に力が抜けた。視界の向こうに見えるのは顔を歪めたリリアの……いや、ダメだ。逃げなきゃダメだ。オレのためにも、リリアのためにも……。


「はぁっ、はぁっ……痛っ……」


 脚を回し、ただひたすらに走り抜ける。四肢には矢が刺さり、背中を貫く熱もある。痛い、なんてものじゃない。鋭い熱が全身を焼いて……もう倒れ込みたいほどに。


「いたぞ! 全体、射てーッ!!」


 逃げることに必死に。生きることに必死に。そしてやっとリリアの手を掴み、空間転移テレポートで逃げ出した。


◇◇◇

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