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第21話 天道翔ける未来都市【9】

「お前、黎明魔導師だな?」


 その一言が、オレには酷く重く聞こえた。まるで重力そのものを突きつけられているような重さ。格の違いというものは、これほどまでにリアルに感じられるのか……。


「えぇ、まぁ……そうです。オレが使ってるのは、黎明魔導……です」


「……やはりそうか」


 はぁ、と。深いため息を吐いて見せた。が、それは落胆だとか、絶望だとかいう色は特に見えず。むしろ嬉しそうというか、あるいはどこか、面倒くさそうな……。


「あの、何か……」


「まぁ、そこに下ろせ。話をしてやるよ」


 どこから取り出したのか、煙管を咥えたかと思えば、ボッ、と。炎の魔法で火をつけ、甘いような、苦いような香りを漂わせた。その香りはどうしてか、オレの鼻の奥をツンと刺す。話、とやらが何なのか、オレは腰を下ろしてそれを待った。


「アレは元々……魔法も魔導も、生まれる前のことだ。我々原初の存在が世界を掌握していた頃のことだ。天空は我ら龍が、海は鱗霊ナルガ、森は妖精、大地は巨人が司っていた」


「原初の存在……ですか」


「ふふ、お前らにゃスケールがデカいだろうな」


 確か、神話に出てくる存在はその四つ、加えて天使と悪魔だったか。つまり元より六つの存在がいたと。その中で人間は、巨人と妖精の加護を受けて生まれたとかなんとか……。


「アタシ達が扱うのは魔導でも魔法でもない。『権能』、あるいは『理』。魔力を使う、という意味ではそれらに近いものだが、そもそもそれよりもっと昔から扱えた力だ」


 どこか楽しそうな口調で、自慢げにそう話した。吐き出した煙は、円を作って空へと消えていく。


「黎明魔導、アレは原初の力に対抗するためにアイツが編み出した魔導だ。懐かしいな……。あのクソ生意気なクソガキが、アタシら以上の英雄なんざ、笑っちまうよ」


「……アイツ、っていうのは?」


「なんだ、知らねぇのか。……至高の魔導師、ザラム・ネフィリミア。今じゃ書も残っちゃいねぇかもな」


 笑いながら語られた名前に脳を回す。ザラム・ネフィリミア、至高の魔導師……。どれだけ辿っても聞き覚えがない。至高の魔導師、そんな二つ名すらも、記憶の片隅には存在しない。


「リリア、知ってる?」


「いや、知らない」


 やっぱりな、と肩を落としながら。現世に戻って調べることも増えちまった。ただでさえ、攻略がまだ終わってないのに……。しかし不自然な話でもある。そんな魔導師の名前が、これっぽっちも語り継がれていないなんて……。


「何が言いたいのかって……見てみろよ、この世界を」


「……」


 言われるがまま、視線を移す。広がる空、そして都市。吹き飛ばさんと、荒れる風。世界のほんの一握りでありながら、確かに視界の中は世界そのものだった。


「アキレス、お前の力はコレを掌握し得る力だって話だよ。龍を始めとした原初の力に並ぶ……いや、それ以上の。言い換えれば世界を救える力だ」


「……」


「説教じみたことは言わねぇよ。この世は弱肉強食、力のある奴が方針を決める。それをどう使うか、お前の自由だが……。あんまり、あのクソガキの面影をもって、変なことはするんじゃねぇぞ」


「……もちろん」


 そんな一言しか出なかった。オレの頭は絶賛混乱中だ。どの情報から纏めればいいのやら、オレの頭じゃ決めかねる。


「……原初の存在、それだけの力を持つ存在が……どうして、大々的に主張しないんですか?」


 少しだけ、雲が流れて。オレの質問には一呼吸置いて、煙を吸ってから答えを出した。


「数が減った。それと、残った奴らは退屈してんのさ。長生きしてりゃあ、やることも見つからなくなる。アタシはこの学園を取り仕切って……案外楽しんでるがな」


「校長はあまり取り仕切ってないでしょう」


「言うな、リエン」


 彼女の答えは思いの外素朴で、そしてあまりに人間じみたものだった。何年、何万年……何億年と生きてきたのか。オレには計り知れない。


「……数が減った、っていうのは? 原初の存在には寿命もないでしょう?」


「死なないというわけじゃない。それこそ生に飽きた者、あるいは死に興味を抱いた者、異なる世界に踏み出した者。そして同格の存在と殺し合った者。……ふふ、意外に皆、バカだろう?」


「……答えかねます」


 やはり、オレの理解できるスケールではない。ただ分かったのは、彼らも根本は人間のような存在と同じだということか。それこそスケールは違うが、その根っこには興味がある。


「加えてもう一つ、宵歴2500年前後、どこで何をしてたか、覚えてますか?」


 つまりオレ達の生きる現代、彼女は何をしているのか。名前も聞かないような彼女が、どこかに息を潜めていたのか、あるいは……。


「はて、数百年前か……。国外には出てないと思うぞ。特に長期的には。……そうか、お前らはその時代の人間か。じゃあ小娘の、空間魔導も珍しいんじゃないか」


「あっ、へっ? 私? ……まぁ、そうですけど……なんで私の魔導を知ってるんですか?」


「見てたからな。リエンとの決闘。だははっ! アレは良い退屈凌ぎになったよ」


 そんな雑談は置いておいて。ポロード王国は出ていないときた。時計塔の影響でどれだけ歴史が変わっているのか、現状知る手段はないが。いずれにせよ、この収穫は多少なりとも重要なものだった。

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