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第20話 天道翔ける未来都市【8】

 コンコンと、規則正しいノックが響く。その魔力の強大さは魔眼を使わなくともよく分かる。誰か、なんて言うまでもない。


「ん……おぉ、一部屋に三人なんて、賑やかだな」


「今四人になりましたがね」


 赤い髪を靡かせながら、悠々と部屋に入ってきたのは校長ことアゴン・ラハード先生だった。背丈こそ小柄ながら、その魔力は圧倒的で……。オレ達三人を足したとしても、その足元にも届かない。


「いきなりですね。何かお話が?」


「まぁ……そうだな。話だ」


 頭を掻きながら、困ったような……いや、楽しんでいるような、そんな顔。しかしまぁ……周りがみんな顔が良いのは、そう悪い気はしない。……いや、やっぱり窮屈かな。


「お前ら二人よぉ……外から来た奴らだよな?」


「ん……まぁ、天空都市に来たのは初めてだけど……」


「そうじゃなくて」


 外、というのが何を指すのか。都市の外という意味ではないなら……国? いや、それも間違いではないのだが……どこか、空気が違うような……。背中を伝う冷たいものが、妙に意識を固定した。


「お前ら、この世界のモンじゃねぇだろ」


「え、どういう……」


 この世界のモンじゃない、その意味を深く尋ねなくても分かる。リエンが状況を飲み込めずにいる中、オレとリリアは困惑と、それ以上の危機感に飲まれ、ただ答えを探るのに必死だった。


「……あぁ、なんだ。別に責めるつもりもねぇんだがよ。……ちょっと私についてきな」


「は、はぁ」


 この状況において、彼女に従う以外の道はない。下手に抗っても、確実に好転はしまい。……そもそも、敵対意識も感じはしないし……。


「こ、校長! 私もついて行っていいですか!」


「ん? あぁ、いいぞ」


 居ても立っても居られず、とでもいうように。リエンもまた、校長の後についた。どこに連れて行かれるのか、なんて考えても仕方ない。そのまま学園の門を出て、舗装された道を歩く。


「ね、ねぇ、アキ。大丈夫かな……?」


「……たぶん、大丈夫だよ。敵意はなさそうだし、魔力の流れも静かだ」


 魔眼を開き、念のために確認してみるが、やはり攻撃の意図はない。リリアの不安も分かるが、不安に思うほどでもない。……だからこそ不安なのだが。


「……なぁ、リエン。校長って何者?」


「あぁ、まぁ……えーっと」


「いいぞ、別に話しても」


 リエンの渋るような態度とは反対に、アゴン校長は割と気にしていないようで。オレ達も遠慮なく食いつくことができた。


「あの人はね、龍なんだよ」


「……竜?」


「あ、ドラゴンじゃなくてね。神様の方の龍」


「……は、え?」


 リエンの口から放たれたのは、思いもよらない真実だった。竜ではなく龍。竜は魔物の首領とも言うべき、怪物の象徴だ。しかし龍は、音は同じでもまるで意味が違う。神、つまり生物の一段階上の存在。現代でもそんな……逸話しか知らないぞ。


「アキ、龍って言ってもさ……」


「元の世界じゃ聞かないよな。アゴン・ラハードって名前も」


 神というだけあって、寿命なんてものは存在しない。というより、原初の存在なのだ。オレ達の時代にその存在を知らない、なんてことはあるはずがないのだが……。


「ほら、見てみろ、お前達」


「うわっ……おぉっ」


 いつの間にか、やって来たのは都市、いや、天空の隅。柔らかい質感の雲らしき物質が大地を支え、その下には真っ白な実物の雲が、さらに下には海と都市が広がっていた。改めて見ると、ここが都市なのだと、激しい風が一層際立てる。


「……この天空都市は、住まう者達が踏み締める大地を介して、魔力を供給する。皆が魔力を分け合い、この広大な大地を浮かせるのだ」


「そりゃあまた……」


 これだけの質量を浮かせるのに、ただの浮遊魔導では賄えないだろう。そもそも接触によって魔力を拝借するという原理がよく分からない。その辺りは未来の技術なのだろうな。


「魔導の理屈は魔素との共生だ。魔力を使いつつ、魔素と反発しないように、『活かす』。だが別の世界の魔導師はそうではない、という話を聞いたこともある」


「別の……世界?」


「……」


 考えれば考えるほど……いや、あり得ないだろ。ここは時計塔の存在しない世界、そもそも別世界の横断という理屈さえ通らないんだ。加えてオレ達以前の探検家の記憶もない……というより世界が厳密には違うはず。だから彼女は、オレ達のような外側の存在に会うのは初めてのハズなんだ。


「なんでもその世界では、魔導はより一般的なもので、効率や進歩がまるで違うらしい。彼らは魔素を『巻き込み』、支配するのが主流だそうだ」


 ……間違いない。確信している。魔素を支配、つまりより強力な魔導を行使できるということ。それは時計塔が全ての世界、時代に通じるからだ。最も効率の良い方法を知っているから……。


「その……それが何か?」


「まぁそんなのは関係ないんだけど」


「ないんかい」


 こっちの緊張はつゆ知らず、ただ確認したということか。あくまでオレ達とは違う、ということを。だから本題はそこではなく……あくまできっかけというだけで……。


「アキレス・シュリム・ジークレッド、だったか。お前、黎明魔導師だな?」


 原初の存在というだけで、ある程度の覚悟はしていた。やはり、オレの魔導を知ってるのか……。これはチャンスなのか、あるいは……。どちらにせよ、何かしらの知識を得られるかもしれない、というのは少し浮かれすぎだろうか。

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