第19話 天道翔ける未来都市【7】
あっという間の暗闇。心地の良い夢の中。意識の飛ぶ直前、何をしていたか。……そうだ、リエンと戦っていて……。
「知らない天井だ」
口から漏れたのは、そんなありきたりな言葉だった。……いや、ありきたりじゃないか。まぁなんというか、知らない天井が見えることってよくあるよね。
「……よくねぇ!」
自分にツッコミを入れるように、オレは飛び起きた。知らない天井、知らないベッド、知らない部屋。夕暮れ時の赤い光と、隣に座る影だけは知っている。
「あ、アキ! 起きたんだね!」
「んん……ちょうど今ね。……ここは?」
「学園の寮だって。空いてる部屋を貸してくれたらしいよ。アキが気絶しちゃったから連れてきたんだよ」
寮か。……それにしては広い部屋というか……普通に一人暮らしができそうな、いや、家族で住めそうなほどだが。これもやっぱり、世界最高峰の学園ゆえか。
「ありがとね。……で、なんでリリアもいんのよ」
「ひどーい。ここまで担いできてあげた私にそんなこと、よく言えるね」
「ありがとうって言ったじゃんか」
オレの感謝は都合良く聞いてなかったのか、そう毒づきながら姿勢を直した。身体の怠さは特にない。怪我はしない、とかいう結界のおかげだろうか。削られたのは魔力だけだな。
「まぁ普通に、同じ部屋にしてもらっただけだよ」
「なんでだ。リエンと同じ部屋にでもしてもらったらよかっただろ」
「そーんな図々しいことできないよ」
……無理言って同じ部屋にしてもらった、ってところか。男と同じ部屋に堂々と、危機感というものがないのか。あった上で……なのか。
「ね、これからどうするの?」
「負けちゃったからなぁ。……普通攻略になるな。五日の間に……なんとか勝たないと」
「あ、そっか。最初に勝っとかないと特殊攻略とかはできないんだっけ」
異空袋から魔導書を取り出し、それを眺めながら考える。死人が出ない代わりに、攻略成功率が低い理由が分かった。難易度は二階とは思えないほど……。時間を止めるような相手にどう勝てと……。
「んん……参ったな。勝てるビジョンが浮かばないよ」
「ねぇ、特殊攻略とかはどんな内容になったの?」
「……最初にリエンに勝てれば、って仮定にしかならないけど……」
噂によると校長からの指導を受けられるんだとか。ただそれも、あまりに母数が少なく、よく分かっていないらしい。攻略なのだから、まさか指導を受けて終わり、なんてことはないだろうが……。
「どうしよっか。私は相性悪いしなぁ」
「……あんなのに相性も何もないでしょ」
考えたところで、作戦を思いつくこともなく。ただ頭を抱えて悩んでいた。戦いが成立こそすれど、果たして勝てるかどうか……。ううむ、なんて漏らしながら、二人並んで考えていたところに。
「あっ、アキくん、起きたんだね! すっかり意識飛んじゃったから、リエンちゃんも心配で心配で……っ!」
「リエン……“ちゃん”?」
指摘するより先に、自分の失敗に気づいたのか。彼女はボンッと、まるで爆発したように顔を赤らめ、そのまま蹲った。
「ごめ、ごめんなさい……忘れて! 私ってば……べ、別に普段からそんな一人称じゃないんだよ? 昔の名残りというか、家での一人称が出ちゃったっていうか……」
「……ぶっ、あははっ! そんな焦らなくてもいいよっ!」
「ちょっ、笑わなくてもいいじゃん!」
まるで茹でダコのように、顔を上気させながら、必死に、それはもう必死に弁明を繰り返した。その様がなんとも可笑しく、なんとも可愛らしく。この子はどこまで、ギャップを突きつけてくるのか。
「いや……ふふ、隠さなくたっていいじゃん。別に、気にしないよ」
「むすっ……笑ってたくせに」
「だって、あんまり言い訳するから」
目尻を溢れる涙を必死に拭って、勝手に上がってしまう口角を抑えながら。ヒィヒィと掠れた声こそ漏れてしまうけれど、なんとか少しずつ、呼吸を整えて。
「はぁ……あぁー、楽しかった。ありがとね、部屋貸してくれて」
「むー……どーいたしまして」
やや怒り気味で、圧のある声での返事。少し笑いすぎたかな、なんて思うけれど、彼女も案外、満更ではなさそうだ。
「そうそう。二人は一週間くらい、ここにいるんでしょ? 授業とか、受けてみる?」
「せっかくだし……そうしよっかな。ね、リリア?」
「うん、授業も受けずに泊まるのも悪いしね」
「別に、そんか気にしなくてもいいのに」
まぁ実際、校長が出した許可が「面白そう」なのだから、特に気負う必要もないのかもしれないが。この世界独自の魔導について学べる機会もそうない。
「じゃあさ、実践魔導論とかどう? 私も受けてるんだけど、来週、ちょうど実戦試験があるんだ」
「あぁ、それでか」
「ん? それで?」
「あぁ、いや、こっちの話」
要はそれで勝てと、そういうわけだな。……授業を受けただけで勝てるとは思えないから……加えて特訓も必要だよな。
「……ん? リエンはそれ以外には何受けてるの?」
「それ以外は受けてないよ。去年までにだいたい全単位取ったから」
「はぁー……流石だな」
生徒会長は出来が違うな、なんて揶揄いながら。少しだけ、初対面よりは柔らかい空気が流れてきたかと思ったところで、コンコンと扉を叩く音がした。




