第18話 天道翔ける未来都市【6】
「旋嵐殲滅光!」
「アキくんのは……変わった魔導だね」
手のひらから柄へ、柄から刃へと魔力を流し込む。同時に魔素も大気中から巻き込み、視覚以上の射程に変えた。もちろん、殲滅という言葉の通り、そればかりではない。
「はァッ!」
「っ、速いな、君達は……っ!」
強く握り、突き刺す。リエンはそれを流麗に躱し、刃の横からこちらに向かった。速い、とは言うものの、一番速いのは誰だって話だ。
「っ……りゃあ!」
「ぐっ……!」
咄嗟に刃を地面に突き刺し、薙刀を支柱に身体を持ち上げた。嵐のように回転し続ける魔力に身を任せ、その勢いで横から一発、重い蹴りを入れた。防御はされたが、衝撃で距離を取れた。
「まだまだ……乱破!」
「ぬぅっ……なに、これっ」
薙刀を持ち替え、柄で殴打、同時に衝撃波を発生させた。ただ外部からの打突とは違う。体内に響き、魔力を撹乱させる一撃。
「何なのさ……黎明魔導って……!」
「ぐっ……! 簡単に言えば、魔力の射出だよ……っ」
「それはっ、どの魔導もそうでしょ……っ!!」
対抗するように、側面からの低く、重い回転蹴り。柄で受けつつ、衝撃を殺すように後方に飛び跳ねた。
「むっ……!」
「来たか……!」
魔眼が捉えたのは魔力の起こり。オレは刃を地面に突き刺し、動きを止めた。魔力を最大に引き上げ、さらに流し込む。……が、やはり。気づいたときにはリエンはオレの目の前に……いや、懐まで忍び込んでいた。
「噴火! ……ぐぁっ!」
「熱……っ!」
地面に大きく亀裂を入れ、そこから噴き出したのは炎の柱。それがオレの周囲を包み込み、魔力に当てられて熱量を増した。もちろん、それでリエンを止められるわけではない。それを織り込み済みのカウンターだ。
「げほっ、げほっ……今のは……」
「はぁ、はぁ……。黎明魔導と炎魔法の同時展開、魔法を魔導に飲み込ませたんだ。でもダメだな。魔力消費がバカにならねぇや。早いとこ属性付与も覚えないとな」
ただでさえ効率の悪い魔法、それを魔導と同時に発動し、攻撃として運用できるまでに引き出したのだから……一気に魔力が底をついてしまった。……いや、まだだ。まだ少し、残ってる。
「ふぅ……板空歩行」
「うわっ、飛べるの……ズル」
「飛行じゃないけどな……」
魔力で殻を作り、空気を固める。それを地面に、空を歩く、という黎明魔導の基礎の一つだ。少しバランスが悪いのは、オレの魔力が残り少ないからだ。決してオレの魔力制御がお粗末なわけではない。決して、決して、そんなわけじゃない。
「リエン、お前の魔導、分かったよ」
「……へぇ、やっぱり、魔眼持ちにはバレちゃうのかな」
「確信を持ったのは今の動きで、だが。……せいぜい一秒か、それ未満。インターバルは……相当あるな? だから普段は発動しない」
「ははっ、すっごい見抜かれてるや」
唐突に現れる速さ。点から点に、まるで瞬間移動だが、魔眼が捉える魔力の軌跡は確かに存在する。線になっているんだ。つまり、確かに移動はしている。その過程を認識できず、けれど存在している。要は瞬間移動のように見えて、本質はまるで違うのだ。
(時間停止……回避と攻撃、どちらも主導権はリエンの方か。だが……)
「ねぇー、降りてきてくれないかな?」
「跳びかかればいいだろ? いや、無理だよな。迂闊に止めて、その間に間に合わなかったら勝つのはオレだ」
「むぅ……」
いちいち可愛いな、クソっ。少し汚いが、仕方ない。手の届かないところから……いや、彼女なら届くだろうが。届かないかもしれないところから、一方的に撃ち抜くなんて……。
「ははっ、いや……一方的になんてなるわけないか」
両手を合わせ、残った魔力を練り上げながら。リエンも同じように魔力を練りながら、互いに動きを警戒する。ふと覗いたのは青い魔力。氷……いや、違う。ただの水か……。
「っ……!」
「ふふ、やっぱり。魔眼持ちは一筋縄じゃいかないな」
手のひらの隙間から飛び出したのは、圧縮された水の塊だった。オレは発射の瞬間に顔を傾けたから頬を斬るだけで済んだが……。氷と見間違えたのは、それだけ押し固められたからか。
しかし……今のは魔法だ。それもただ水を作るだけの、初歩の初歩。それをまるで刃のように飛ばしてきた。間違いなく魔法なんだ。魔法なんだが……。
「時間を止めて、エネルギーを蓄積させるんだ。世界全体を止めるのは少し溜めが必要なんだけど、対象に流れる時間を止めるのはそう制限もないから。……あぁ、もちろん私が主導権を握ってる前提でね」
要はリエンの発動した魔法、あるいは持っている武器なら止められると。逆に、オレに触れてもオレだけを止めることはできない。が、言わずもがな……。
「嫌な武器だな」
「お互い様でしょ。さ……水球乱舞」
ふよふよと、空中に浮く無数の水球。それがオレに向けて、銃口を向けるように。そこらの機関銃よりもよっぽど恐ろしい。……だが、それもやはりお互い様だ。オレの支配している範囲は、大砲を向けているに等しい。
「降星殲滅光」
光の柱が天を割り、降り注ぐ。触れたところから空気を焼き、その熱量は大地を割る。飾り、割り、焼き、落とす。対抗するように、水の刃が光を裂き、オレに斬りかかる。一つ、二つと互いに互いを掠め。立った煙はオレ達を包み、観客、もとい生徒達の目を遮る。
「はぁっ、はぁっ……」
魔力はすっかり底をつき、足場にしていた空気も割れ始める。気を抜けばまっしぐら、地面に叩きつけられることだろう。……それでもいい。楽しかった。
「……負けたよ。いやぁ、敵わないな」
「ふふ、私も危なかった。あと一息、止められなかったら撃ち抜かれてたな」
完璧に捉えたと思ったんだが……。魔眼を魔力制御に回している間は、相手の魔力の起こりも感知しづらい。気づけば背後を取られているんだから、万に一つも勝ち目はなかったのかもしれない。
「ふ……はっ」
「おっと、危ない」
落下するオレの身体と、それを支えにしていたリエンが同時に地面に向かった。彼女の肩に支えられ、着地はできたものの。こうも魔力が残ってないと、起き上がるのも気怠いな。
「アキ、大丈夫!?」
「んん……怪我は平気だね。本当に良い結果だ」
半目に瞼を開けながら、駆け寄るリリアに顔を向けた。それでもやっぱり、眠気は強く。気づいたときには意識を手放していた。




