第17話 天道翔ける未来都市【5】
「臨時入学? いいよ、面白そうだし」
「ありがとうございます!」
「んなバカな」
アゴン・ラハード校長、彼女はこの世界では最高峰の魔導師らしい。年齢不詳、赤髪の綺麗な方だが……その精悍とした雰囲気とは反対に、飛び出した言葉はあまりに軽かった。
「う、嬉しいんですけど……いいんですか?」
「えぇ? アタシがいいって言ってんだからいいんだよ」
「……ありがとう……ございます……」
納得できない、なんてわけではないんだが。もう少しこう……もう一悶着あると思っていたから意外というか。……いや、悶着あるのはこれからなんだけども。
「さ、許可ももらえたことだし。早速行きましょう」
「あ、うん」
リエンはといえばそれに慣れているのか、疑問も何も抱いちゃいないようだが。そんな空気に押されて……いや、引っ張られてだな。オレ達は流れるように校長室を出た。
「そうだ、学園の勢力について簡単に説明しとこうか」
「勢力?」
思いの外物騒な言葉が飛び出した。いや、言うほど物騒でもなかろうが、そんな……そんな物語みたいなものが存在するとはあまりに意外で。ちょっとワクワクしたのは内緒だ。
「まず私みたいな民主派。魔導師は特権階級でもなんでもなく、根本的に非魔導師と変わらないって考えね。逆に魔導師は選ばれた存在で、特権を持ってるっていうのが貴族派。門で暴れてた、リベルトみたいな人達ね」
「ふーん。……割合は?」
「民主派が四、貴族派が六ってところかな。でも、結局のところ実力主義だから今は民主派の流れだよ」
「結局ね……」
簡単には言うがつまり、リエンの実力で従えてる、ということじゃないか。他の生徒会連中がどうなのかは知らないが、二割の差となると本来は相当だろうに。
「学校の方針としては? 校長はどっち派なのよ」
「特にないよ。力が物を言う世界だから。どっちに転ぶにしても、力のある方が偉い、ってこと」
「……まぁ違いないな」
この時代の兵器がどんなものか知らないが、結局は魔導が世界を支配するのが当然のことだ。そんな中で一番強い魔導師が方針を決める、というのもまた必然。あくまでその中で、権力を誰に託すかが論点なわけで……。
「あなた達はどっち派? まぁ、だいたい分かってるけど……」
「まぁどっちかと言えば民主派かな」
「私も民主派だな!」
「やっぱりそうか」
元より、オレ達の世界では魔導師であることがイコールで権力者というわけでもないしな。母数が多ければそりゃそうなるか。……何にせよ、ただ魔導師というだけで威張っているのは気に入らない。
「じゃあ改めて、一戦やろうか。いや、一人ずつ、二戦かな。みなさん、すまない。場所を空けてくれ」
「お、なんだなんだ」
「会長殿のしごきか?」
連れて来られたのは高い校舎の間、広い広場のような……決闘場か。やっぱり、とでも言うか。この学園は規模が大き過ぎてよく分からん。そこに溜まっていた生徒達は、リエンの言葉で場外へと散っていった。
「さて、どっちからやろうか」
「『オレ!』『私!』」
ムッと、視線を横に向けた。よく伸ばした手が、オレの真横で主張している。そんなに戦い好きだったか、とも思ったが、なるほど、未来の世界に湧いているのか。
「アキ、最初は私に譲って」
「いいや、ジャンケンだね」
「むっ……。分かったよ。じゃあ、せーの」
「ジャン、ケン……!!」
結果についてはまぁ……なんて言うか。あえてどっちが勝ったかなんて、そんな無粋なことは言わないよ。だって勝敗なんていいじゃない。勝っても負けても、順番が変わるだけ。うん、負けたって言っても何も変わらないからね。
「最初はリリアか。よろしく頼むよ」
「うん、お願いね!」
パチンと拳を叩いて、準備運動と言わんばかりに屈伸を始めた。爺さんから借りた短剣は使わないのか……。いや、人に対して刃物は使いたくないのか。
「行くよ、リエンちゃん……! 異空弾!」
「おっ、これが……」
リリアは手のひらから何か……ギリギリ視認できる程度の透明な球体を飛ばしていた。本格的に魔眼を発動し、それをよく確認する。魔力弾に近しいものだが……。
「痛っ……! はは、空間魔導ってこんなこともできるんだ」
「まだまだ、こんなものじゃないよ」
猛攻に次ぐ猛攻。あの技自体の魔力消費少ないようだが。本質としては空間の掘削、もっとも質量が小さいだけに効果としては強力なヤスリのようなものだが、牽制としては十分だ。
けれどそれを、リエンは魔導も無しに。ただの魔力運用、つまり簡単な魔法だけで捌いて見せる。
「流石だね。でも、これはどうする、リエンちゃん? 空間抹消……」
「っ!? その魔力は……っ!」
「お、おい! リリア!」
魔力の渦、そして激しい空間の収縮。それを魔眼が正確に捉え、計算する。アレはリリアが一度見せてくれた、空間を消し去る魔導、魔力消費が激しいからと最終奥義としていたはずの……。
「あ……ははっ、マズいな、それは」
「鎮魂歌……っ!?」
「発動なんてさせないよ」
あまりに突然のことに、オレは息も忘れて見入っていた。瞬きもしていないのに、次の瞬間にはリエンがリリアの懐に入り、その顔目掛けて魔力を放った。怪我をしないように、柔らかい魔力で。
「はっ、はっ……へ? 何、今……」
「リリアー、お前の負けだぞー」
「むっ、言われなくても分かってるよ! 次はアキだもんね、交代交代」
速い、なんてものじゃなかったぞ。瞬間移動ともどこか違う。リリア自身も何も分からず、ただポカンと困惑していた。分からない、分からないが、コレが……。
「生徒会長、学園最強の実力か」
「さて、次はアキくん。私とやろっか」
息も上がらせずに。悠々と、堂々と。一つ、理解できたことと言えば、オレよりも圧倒的に“上”であること。動きを認識できないんじゃ黎明魔導も相性が悪い。一つ、アドバンテージがあるとすれば、今の一戦を見れたこと。
「武器の使用は?」
「構わないよ。この決闘場での怪我は無かったことになるからね」
「なるほど。……結界術も発展してるか」
懐に下げた異空袋から、借り物の薙刀を引き摺り出した。まずは距離、瞬殺されないための距離が必要だ。オレはそれを低く構え、魔力と魔素を目一杯に纏わせた。




