表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

第01話 魔導書と時計塔【1】

 時計塔とは何か、まずはそこから語らないといけないかな。分かっていることといえばずっと昔、宵歴2222年のある日、突如として出現したということ。そしてどこからか、“素質のある者”に向けて差出人不明の招待状が出ること。その招待状が言わば、パスポートのようなものだ。


 時計塔があるのは世界の中央とも呼ばれる海洋のさらに真ん中、長い何月をかけ、そこに独立国家とも呼べるような大地ができたのだ。厳密には時計塔とは塔だけを指すのだが、一般的にはその大地も含めて時計塔と呼称している。


「うわぁ……っ! すげぇ……!」


「ははっ、高ーいっ!」


 村を出て二週間ほどだろうか。長い旅路だった。オレとリリア、年甲斐もなくはしゃぐ二人は、周りにはおかしく映っていただろうか。いや、そんな光景も珍しくないだろう。だって……この光景を目の前にし、落ち着けというのが無理な話だ。


 真っ白の、この世のものとほ思えないほど硬く柔軟な素材で建てられた塔。空よりも、天よりも高いその頂上は、誰も確認したことがないのだとか。実は頂上なんてものはなく、どこまでも高く存在するのでは、と言われるほどに。


「どうする? どっかで昼飯でも食っていくか?」


「何言ってんの、アキ。まずは魔導書でしょ! そのために来たようなものなんだからさ!」


「それもそうだな。じゃあ先に塔に行こうか」


 オレ達は鼓動を胸に収めながら、静かに塔の入り口へと歩みを進めた。


 時計塔には二つの役割がある。その一つが魔導書だ。一部の選ばれた人間にしか与えられない、魔導の記された書。招待を受けた者は、時計塔から魔導書を授けられる。当然、誰もが使えるような『魔法』よりも強力で、そしてある種の真理とも言えるもの。


「やっぱり、栄えてるねー……」


「まぁそりゃね」


 素っ気なく返してはみるが、オレの視線は流れる人混みや街並みに釘付けだった。見たことのないようなもの、食べ物、装備……そして大事そうに抱えられた魔導書。ここにいる誰もが持っているわけではないが、オレ達もすぐ仲間入りだと、そう思うと興奮せずにはいられない。


「時計塔へようこそ。ふむ……探検家ではありませんね? 観光か、それとも……」


「はい! 魔導書を受け取りに来ました!」


「ははっ、やっぱりか。ではまず、招待状のご提示をお願いします」


 門番か、スタッフだろうか。……塔にスタッフ? それも変だな。案内人といったところか。


 彼に招待状を見せると、変わらずにこやかな顔でオレ達を招き入れた。瞬間……オレの顔は酷いくらいにキモかっただろう。


「やっと……ここが……っ!」


「はい、時計塔でございます」


 外観からは予想できないほど広々とした内装。それは塔のような細長いものではなく、まるで小さな一都市のようだった。奥には大きな階段も見え、これが十階、二十階と続いているのだろう。


「一階は開放エリア、つまり一般の方も入ることのできる階層です。外よりも専門的な店も多く、なかなか面白いですよ。そして、あなた達に案内するのは二階」


 それは魔導書持ち、つまり魔導師の入り口だ。塔から魔導書を与えられるという、これ以上ない誉れと幸運。ただそれだけでも大いなる価値がある。


 小都市を抜け、長く大きな階段を上る。すると雰囲気は一転し、殺伐としたような……いや、違う。もっとこう……なんだろう。客観と興奮があまりに多い……。そんな空気に気を取られ、たどり着いたのは巨大な木造扉の前だった。


「ではお二人とも、中にお入りください」


「……あれ? 魔導書の贈呈って一人で受けるんじゃないんですか?」


「はい。安心してください。中に入ればただ一人ですよ」


「あ、そうなんですか」


 そんな馬鹿げた話をどうして理解できたのか。考えるまでもなく、すでにこの塔が規格外だからだろう。


「じゃあアキ、また後で会おうね」


「おう、しっかりしてこいよ」


 ギィ……バタン。軋む音がしたかと思えば、オレはもう一人でその空間にいた。見渡す限りの真っ白、同時にその壁面には、無数の分厚い本……らしきもの。


「これが……」


 魔導大図書館。ここには塔の中の全ての知識、魔導が置いてある。それはつまり、世界中の力がこの一室に置いてあるんだ。ただし、こちらからの干渉は不可能。ただ向こうから与えられるだけ。


「……これか?」


 ふよふよと、頼りなげに浮く魔導書があった。それは埃を被った……ように見える、深緑の魔導書。胸の秒針は狂ったように音を上げていた。


「……んわっ!」


「あ、アキ。今出てきた感じ?」


「あ、あぁ……ってことはリリアもそうか」


 魔導書に触れた瞬間、気づけば扉の前に戻っていた。なるほど、魔導書を与えられたらもう、あの部屋に入ることができないのだろう。ただ相変わらず狂った秒針と、手元に残るそれだけが今の景色が現実だと教えてくれる。


「凄かったな、リリア!」


「うん、凄かった!」


 興奮と緊張、そしてそれが一気に解けてしまった事実。とりあえず、出てきたのは……口に出せたのはそれだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ