第15話 天道翔ける未来都市【3】
「我々魔導師が持っているのでは権利ではなく義務だ! 貴様のつまらぬ価値観で我が校の品性を損なうな!」
「ぐっ……」
男勝りというか、力でねじ伏せていた。そして何より、薄い赤髪の綺麗な人で……オレの隣にリリアがいなかったら危なかったかもしれない。それほどまでに端正な顔立ちで、澄んだ魔力の持ち主だった。
「それはっ、弱者の価値観だろうが。俺達魔導師は選ばれし強者だ! その威厳を放棄するなんて、それこそ……」
「ならば私は強い。弱者の貴様は私に従え。抗いたいなら強くなれ」
「っ……。アンタにはいつか、泥水を啜らせてやる」
「ハッ、ならばこんなくだらんことをしてないで、励むことだ」
一通りの問答を終えたのか、彼女はリベルトとかいうその男を離し、学園へと向かわせた。分からないな。あんな醜態を晒して、粛清、のようなことはしないのか。
「ふぅ……すみません、お騒がせしました。ほら、大丈夫ですか?」
「あ、え……はい」
紅色を靡かせながら、リベルトに虐げられていた青年に手を差し伸べ声をかけるその様は、さしずめ女神のようだった。先ほどの……それこそ女王のような雰囲気とは一変して。
「ねぇ、アキ。あの人が……」
「うん、たぶんリエンちゃんだ」
ちゃん付けするのも分かるほど、なるほど、彼女は確かに美しい。予測するに、たぶんだが。彼女の高圧的な雰囲気と、素の柔らかな表情に屈した……ってところか。ただ、オレが感じているこの雰囲気は……そういった類ではなく。何か、共鳴のような……。
「さて……そこのお二方。お話、いいですか?」
「ん……え、オレ達?」
「えぇ、黒い髪と、銀の髪のあなた達です」
黒髪、銀髪……オレとリリアか。なんだろうか……つい先ほどの、魔力の起こり、つまり魔導の気配を感じたのだろうか? そうとしか思えないが……いやまさか、そんな一瞬のことを感知したのか?
「えーっと……そうですね。良かったら学園の、生徒会室にでも着いてきてくださいますか?」
「あ、あぁ。そりゃあまぁ……」
願ってもない、とはまさにこのことだが。学園に入れるとなると、いよいよオレ達が魔導師だということはバレていそうだ。いや、攻略条件からするに隠すようなことでもないのだが。
黙って、というには口数が少し多かったが。彼女の後ろについて、見知らぬ敷地内を歩いた。それはまるで城のような、教育機関とは思えないほど立派な。けれど確かに、魔法を、そして魔導を学ぶための場所だった。
「世界中からね、魔導師が集まってるんですよ。……って言っても、知らないわけないか」
「うん、もちろん知ってるけど。……世界中っていうのは……本当に世界中?」
「魔導学園っていうと、まぁ数えるしかないからね。特にウチは最高峰、そりゃあ集まるわけですよ」
やはり、オレ達の世界より魔導師の母数は著しく少ないわけか。数える程度の魔導学園でその人数を掌握できるほどに。現代でも希少とはいえ、流石にそんな規模では収まらない。
「ねぇ、あなたは……」
「自己紹介は後で、いくらでもできますから。さぁ、まずは入って。お茶でも淹れましょう」
迎えられたのは静かな個室。高級そうな机に、高級そうなソファに。恐らく、この学園の生徒の中でも最も影響力のある人間が使うであろう部屋。
「さぁ、召し上がって。まずは……」
「あなたはリエンちゃんって人?」
先ほどから聞きたがっていたことを、改めてリリアは尋ねた。当然、今までは予測でしかなかったが。それもすぐに確定した情報に変わった。
「はい、私を知ってるんですね。……ははっ、いや。この都市にいて知らない人の方が少ないか。二人は魔導師のようだけど……ウチの生徒じゃないですよね? 特に君、魔眼持ちだし」
「あぁ……えっ?」
魔眼がバレた、のか? オレの魔力制御は完璧に近い。魔導師だとバレても、まさかそこまで見通されるとは……。一体なぜ……いや、そうか。
「あなたも?」
「えぇ、私も魔眼持ちですよ。学園には一人しかいない、珍しいと思ってましたが……。ふふ、親近感だわ」
なるほど、共鳴の正体はこれか。魔眼の細かい性質は違うだろうが、大雑把な部分は近しいだろう。そもそも魔眼は見る力なのだから、そう遠くはならいだろうが。
「あ、私達も自己紹介するね。私はリリア・ミューザ、十五歳。こっちはアキ」
「アキて。同じく十五、アキレス・シュリム・ジークレッドだ。よろしく」
「へぇ、十五! 二つ下じゃん」
思いの外、歳下だったことに喜んでいるのか。少しだけ声が高くなって。けれどそれはまた、別の熱によって上書きされることになる。
「……え、シュリム、って言った?」
「……!? は、はい。えと……何か知ってるんで!?」
思いもよらない反応に、オレも少しがっついてしまう。我に返り、茶を一口飲んでから、落ち着いて。改めて視線をリエンに向けた。ここでも何か、火種になるのか。けれどそんな警戒を壊すように、次には別の衝撃がオレを殴った。
「何かの偶然かな。まさか縁深い相手、なのかもしれないのか。……えっと、王立魔導学園三年、生徒会長のリエンです。リエン・シュリム・アルバドーム」
オレと同じ名前を持って、彼女はそう名乗った。最初の門とはわけが違う。それは明らかな手掛かりであって、同時に大きな親近感が湧いていた。




