第13話 天道翔ける未来都市【1】
リリアが出したのは小さな袋、特に何かが入っているようには見えないが……多少の魔力を感じる。なるほど、そういう代物か。なんて落ち着いて見せてはいるが、その反面、胸の高鳴りばかりは確かだった。
「んん? 嬢ちゃん。なんだ、その袋は」
「ふふ、私はね、空間魔導師なんだよ」
「へぇ……未来の魔導か? ……ってことはお前、それ……ッ!」
慌てた様子で、爺さんはがっついた。空間を操る魔導が本来、現代には存在しない以上、その価値というものは計り知れない。
「へへ、じゃーん!」
自信満々、といったところか。リリアは手のひらサイズのその袋から一本、大きな大根を取り出した。なぜ大根? という疑問はさておき、その大きさは袋の容量とはとても合わない。……なぜ大根?
「異空袋だよ。魔法袋とは全く別物」
「容量は?」
「だいたい200リットルかな」
一見、0.5リットル程度の袋だが、そのおよそ400倍か。魔法袋と呼ばれる似たような代物もあるにはあるが、アレはせいぜい二倍か三倍に拡張するのが限度だ。リリアのそれは拡張ではなく異なる空間を作り出し、繋ぐこと。だからこそ、その容量が馬鹿げているんだ。
「クソガキめ……それを餌にするってわけか」
「ふふーん、いいじゃないですか。素材も武器も、これ一つで相当入りますよ。何なら、もっと熟練度が上がればこんなもんでもないですよ」
「んん……」
爺さんは頭を抱えながら……いや、そんな素ぶりを見せてこそいるが、もはや鍛治師として、あるいは現代人として、みすみすとこのチャンスを棒に振るわけにもいかないだろう。
「……分かった、打ってやるよ。どんな武器がいい?」
「アキと同じ防具と……うーん、何がいいかな、剣とか?」
「短剣でも作ってやろうか? 短いから扱いやすいぞ。まぁ……ある程度の身体能力があるなら、って前提で」
「じゃあ短剣、二振りで」
清々しい答え。爺さんはそれを快く……と言うよりも負けたような顔つきで承諾した。一応、異空袋の交換条件ということらしく、代金は要らないそうだが。
「一週間後にやって来い。どっちも仕上げてやらぁ。……そうだ、儂はロンド、良い出会いに感謝する」
「オレは……あ、いや、名乗ってたか」
「私はリリア・ミューザです。よろしくお願いします」
「ははっ、急に大人しくなりやがって」
爺さんことロンドさんと一週間後の再会を約束し、オレ達はその場を立ち去った。……再会、と言うとまた違うか。ただまぁ、一つ攻略を終えてから、武器を受け取ろうと。それまでの繋ぎに、軽い武器を借りられたのは良かったな。
「アキにも異空袋、あげるよ。……で、今日は攻略も行くんでしょ? どこだっけ?」
「お、ありがと。つくづく覚えてないのね」
貴重品を貰いながら……いや、当然のように受け取っていいものじゃないんだけどね。二つ目の門、と言っても、二回目以降の攻略は門を選べるのだが。次に攻略は戦闘のない……とは違うが、殺し合いのない世界を選ぶつもりだ。魔導学園なるものの生徒として、その世界のとある人物に勝つのが条件と。そしてその門は何より……。
「未来の門!?」
「うん、未来の。ただ塔がない世界線? らしいから、次はリリアの魔導について知れるかもよ」
「んんーっ! やったー……!」
声を抑えて、けれど抑えきれずに少し、漏れてしまったような声で。いつでもどこでも、良くも悪くも年相応な彼女が、時折り見せる幼い顔。昔のリリアを見てるような、そんな気分が……。
「ま、未来って言っても異世界みたいなもんだけどね」
「わっ、上げて落とすじゃん」
「別にそこまで上げたつもりじゃなかったんだよ」
そんな可笑しさに一つ、息が漏れて。いつになく緩い雰囲気を纏って、やってきたのは二階の門の前。蠢く魔力は相変わらず、力強く、恐ろしい。
「そういえば、特殊攻略は一回目の立ち会いで勝つと達成だって。決闘っぽい感じなのかな」
「並行攻略は?」
「特殊攻略を達成したらそのルート……っていうのかな、ができるらしい。でも未来は古代よりも要素が確定してないから、多少はズレがあったりすることもあるらしいけど」
「ふーん、おっけ。じゃあとりあえず勝てってことね」
どんな世界も、どんな時代も。一つの出来事が未来を大きく変える、なんてことは大いにある。だからこそ、リリアの言う通り“とりあえず勝つ”だ。その後どうなるのか、そもそも勝てるのか……今語れる要素はあまりに少ない。
「じゃあ行こうか」
「よしっ、滾ってきた!」
門を抜ける際の、揉まれるような魔力の嵐。魔眼を得たからこそ分かる、その偉大さと恐ろしさ。規格外の力には、やはり畏敬の念というか、思うところはある。そしてもう一つ、以前と違い。オレ達は塔の試練に立ち向かえる力がある。
「おぉー……新鮮!」
「わぁっ! すっごい!」
まさに神秘。空中にかかる橋、そしてガラス張りのビルに、見知らぬ機械の溢れることよ。それは現代からおよそ千年の未来。ポロード王国が天空都市・ラジャルヘルム。




