表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

第12話 魔導書と時計塔【12】

 夢という夢も見ず、起きたのはまだ空が紫の早朝のこと。いつもと違う空気に心が弾みつつ、リリアを起こして図書館に向かったのがつい先ほどだ。


「はぁー……特に何も得られず、か」


「アキは何調べてたの?」


「おぉ、知らずについて来てたのか」


 ある種の感嘆、というより呆れ。何度か説明自体はしたのだが、一夜にして忘れたのか、あるいは元より聞いてなかったのか。


「シュリムの名前とラナバ村について」


「あぁー……そんなこと言ってたね」


 そのときは聞いてたんだな。普通に忘れちゃったのか。じゃあ仕方ない、ということにしておこう。


「シュリムについては言わずもがな、ラナバ村は今で言うトロバロイ王国にあったらしいけど、別に宗教的にも特徴はない村だってさ」


「トロバロイ? ずいぶん遠いね」


「2,000年、いくらなんでもそんなに移動するもんかね? 名前がこんなにも残ってるのも不思議っちゃ不思議だけど……」


 それほどシュリムという名は重要なのか。現代では、少なくともオレや両親にはそんな認識はなかったのだが。……あるいは血族を示す名前ではない……?


「……あぁー。考えれば考えるほど無駄だな。分かったことと言えば、攻略は歴史には関与しないってことか。いや、分かっちゃいたが」


 門の向こうは、言わば模型レプリカのようなものだ。物質やエネルギーとしては実在しているが、本当に起こった歴史として刻むわけではない。もし歴史を変えられるのであれば、この世界はもっと複雑になっていただろうから当然だが。


「あまり深く考えない方がいいかもね。で、次は鍛冶屋さん?」


「うん、地竜の素材で武器作ってもらうつもり。リリアも装備は整えたら?」


「防具は欲しいよね」


 そんなことを話しながら、重い腰を上げた。鍛冶屋があるのも塔の一階、あるいはその外。武器も防具も相棒だからな、腕利きに頼みたいものだが……。ふふ、こういうときこそ魔眼が役に立つ。


「リリア、あっちに行こう。魔力が洗練されてる」


「わっ、いつの間に赤くなってる」


 向かったのは塔の外の、入り口の裏側。そこから東の路地に入って突き当たりの、古臭い建物だ。鉄の打つ音は……今は聞こえないが。ここから流れる力には澱みがない。


「お邪魔しまーす」


「しまーす」


 中に入り、リリアがそれに続く。思った通り、揃いこそ多くはないが、一つ一つに力を感じる。素材の良し悪しこそあれど、どれも完璧に近しいものだ。


「あん……? ずいぶんと若ぇ奴が来たもんだなぁ。迷子か? それとも……」


「鍛冶屋、ですよね。もちろん買い物ですよ」


 店主らしき、圧のある爺さんが奥から出てきた。背丈はあまり高くはないものの、肉体のゴツさはまるで岩山のようだ。加えて魔力も燃えるような性質ときた。恐らく人間ではなく……。


炭鉱夫ドワーフですか?」


「ほう? まさか一目で見抜かれるとは、何者だ、お前さん」


「アキレス・シュリム・ジークレッド、僕自身は大した者じゃないですよ。眼が……魔導が少し変わってて」


「そりゃあお前の力だろうが。謙虚なガキもいたもんだ」


 笑ったような、それともただ鼻を鳴らしただけか。掴みどころがないと言えばなく、分かりやすいと言えば分かりやすくもある。


「そのスカした態度、ただの客じゃねぇだろ。素材はあんだろうな?」


「ははっ、流石ですね。ちゃんとありますよ」


 ドサリと、袋を彼の目の前に置いた。オレの分の、地竜の牙と爪、それから鱗。彼には珍しくないだろう。この素材の等級で言えば。


「……お前、見たところ駆け出しだよな? なんで地竜こんなもんを……」


「最初の攻略で訳あって」


「はっ、大した小僧だ。何を打って欲しい?」


「うーん……」


 二択までは絞っていたが、いざ相棒をどうするかと聞かれると……。オレの実力と癖からも考えなくてはならないし、何よりロマンが大事だ。うん、ロマンが。


「剣と槍、どっちがいいですかね?」


「迷ってんなら剣じゃねぇか? 槍は扱いが難しい」


「でも槍ってカッコいいじゃないですか」


「だははっ、確かに」


 やっぱりな。炭鉱夫ドワーフは好奇心の塊だ。こういう話には理解が深いと思ってた。大当たりだな。


「そういうならコレなんかどうだ」


「わっと……おぉ」


 彼が渡してくれたのは、背丈ほどのある柄に、そして大きな片刃の武器。剣とも槍とも違うそれは……。


「薙刀ですか……使えますかね」


「知らねぇよ。だがロマンだろ」


「……確かに」


 カッコいい。確かにそう思った。リーチも、斬れ味も十分だろう。オレのスタイルに合っているかは別として、何よりカッコいい。


「うん、じゃあ薙刀にしてください」


「おう、分かった。完成まではナマクラだが、そいつを使ってればいい」


「ありがとうございます。……鱗使って防具も作ってほしいんですが、いくらになります?」


「それも完成してからでいいが……そうだな。素材はほとんどコイツらで足りるし、4万ってとこか」


 報酬と貯金がまとめて飛ぶな。……苦しいが仕方ない。ここで妥協しても危険に遭ったら元も子もない。


「分かりました。ではそれで。完成はいつ頃に?」


「今は仕事も詰まってねぇし……一週間で仕上げてやらぁ」


「なるほど、お願いします」


 確かだが、攻略は何も戦闘を強いられるばかりではない。それも特に低階層ならば。一週間、一回か二回かな。完成までに多少は稼ぐとしよう。


「あ、リリア。お前は……」


炭鉱夫ドワーフのお爺さん、私のもお願いします」


「悪ぃがお嬢ちゃん、儂はガキにゃあ打たねぇと決めてる。気に入ったガキ以外はな」


「……お願いします」


 爺さんに真っ向から戦いを挑むように。リリアは素材袋の他に、何が入っているのやら、もう一つ、袋を彼に見せつけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ