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第10話 魔導書と時計塔【10】

「まず何からか……時計塔について分かったことから?」


「じゃあそれで」


 オレとリリアは椅子に座って向かい合い、香りの良い紅茶を味わいながらそんなことを決めた。今後の方針のためにも、ある程度の確認が必要だ。オレは三本、指を立てて見せた。


「塔の攻略には、通常攻略と特殊攻略があるんだよね。今回で言うと氾濫スタンピードを生き延びれば良かっただけだけど、それを殲滅できたから報酬を追加するねって」


「うん、そうだね」


「ついでにそれとは別の村を降伏させるっていう並行攻略、これはおまけだと思うんだ」


「うんうん」


 要は普通の攻略の他に、その原因を根本から排除できたら特殊攻略で、本筋からは逸れてるけどなんらかの大きな出来事、分かりやすく言えば偉業のようなものを達成したら並行攻略としてカウントされると。


「じゃあ……できるだけ色んなことを解決しちゃえばいい、ってこと?」


「まぁ結局のところ、通常攻略のところから手探りだからやることは変わらないけどさ」


「おぉ、そりゃそうか」


「だから最優先は生き残ること。次に勝つこと。そのためには攻略する世界の情報収集がこれからは必須になるだろうね」


 死ななければ、とりあえずは大丈夫らしいからな。攻略の失敗が確定しても、その瞬間に現世に引き戻され、それなりのペナルティを受けるだけで帰ってはこれるのだとか。ただ向こうで死んでしまえば、命が戻ることはない。


「二階の門は全部『絶対門』でしょ?」


「確かね。三階以上も基本的にはそうだよ」


 最初の門がそこそこのイレギュラーというだけで。大抵の門はその向こう側の世界が攻略者によって変わる、なんてことにはならない。


「……今は二人だけどさ、やっぱりパーティは増やした方がいいかな?」


「二人だとね……回復役は欲しいか。でも攻略難易度は人数に比例して難しくなるとも聞くし」


 少人数ならば、攻略条件は緩くなるらしい。その代わりに対応力は弱い。大人数ならその逆だ。だから結局、相対的な難易度はさほど変わらないシステムなのだが……。


「わざわざ仲間にするって言うなら、召喚魔導師がいいよな」


 条件は攻略者、つまり門を潜った時点での人数で決まる。その時点で攻略条件は決定するのだから当然だが。召喚魔導師ならばその後で手足を増やせるというわけだ。が……。


「そんな都合良くいねぇからな。当分は二人だし、その方がやりやすいよ」


「そーね! 私もアキと二人の方がいいし。考えても仕方ないや。……で、魔導については?」


「……一応、一回説明はしたんだけど……」


 パッと、オレの魔導書を手元に出した。一見不思議に思うかもしれないが、魔導書とはこういうものだ。いつでも仕舞えるし、いつでも取り出せる。もっとも、今みたいにリラックスできる場面でなければ常に抱えていた方がいいかもしれないが。


「黎明魔導は一言で言えば魔力の射出だよ。それで大量の魔素を巻き込む術式だから、魔力消費の割には威力は凄いね。もっと解読が進めば、無属性だけじゃなくて属性付与もできるかも」


「変な魔導だね、属性が無いなんて。でもさ、魔素を大量に巻き込むってなると、普通は魔力消費も並じゃないでしょ? 私みたいなのだって、魔素は魔力の補助みたいなものだよ」


「そのための魔眼だよ。この魔導に必須のもう一つの魔導……って言うのかな。でも同じ魔導書に書かれてるんだから同じ魔導かも」


 正直なところ、オレもまだまだ分からないことの方が多い。そりゃだって、まだ解読できたのは一割と少しなんだから。


「まぁ結論から言えば、いわゆる魔法っぽいことはだいたい何でもできる魔導だよ。レーザーみたいなのとシールド、その気になれば空中歩行もたぶんできる」


「意外と万能型なのね」


 リリアは驚いたようにそう言った。オレも最初は攻撃特化だと思っていたが……いや、それもあながち間違いではないのだが。言ってしまえば圧倒的な出力なんだ。汎用性も高い。


「私の空間魔導はなぁ……やっぱり空間転移テレポート、つまり瞬間移動と空間跳躍(シフト・ジャンプ)、高速飛行って言うのかな? が主だね」


「歯切れ悪いけど……十分だよ」


 機動力があるだけでも、生存には繋がると……身に染みて理解している。リリアの力がなかったら、オレは死んでただろうし。それにその機動力がピカイチなのだから。


「いわゆる光魔導よりは遅いのかな?」


「どうだろ。でも私のは小回りが効くし」


 扱いやすい魔導なのだろうか。あるいはリリアが天才なのか……何にせよ、強力なのに間違いはない。


「あと一応、攻撃手段もないことにはないんだけど……」


「へぇ、どんな?」


「これ見てて」


 彼女が手に取ったのは真っ赤なリンゴだった。少し小柄で、離れていても特有の甘い香りがする。そんなそこそこ上等そうな……それが次の瞬間。


「あれ……消えた? マジック?」


「ははっ、マジックって……あっはは! 魔導師相手に何言ってんのさ。消したの、空間ごと」


 少しのフリーズ、厳密には二秒と少しほど。……消した? そう言ったのか? 燃やしたとか、転移させたではなく……消滅?


「そこそこ大きい範囲にすると一気に魔力持ってかれるんだけど。物の硬さとかも無視してなかったことにできるの」


「……最終奥義、ってことにしようか。うん、怖いからね」


「へへっ、アキには向けないから安心して」


 破壊力で言えば上だと自負してたんだが……流石は未来の魔導、といったところなのか。彼女が強いのは嬉しいような、ちょっぴり悔しいような……いやいや、オレはいっぱい打てるからね。一発限定じゃないからね。うん。悔しくないよ。……うん。

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