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荒廃の大地より愛欲を込めて  作者: 蓮見燐
1章 最強と少女
38/44

37:衣服の色合わせは大事

「ヴェルサァス!!!!!!」


 ドバン!!!という轟音が突如として部屋へと響き渡る。

 部屋へと入室しようとした人物が、扉を壊さんが如き勢いで開けたが故の音だ。

 室内……ヴェルサスの私室のベッドで眠っていたネネカは、驚いて目を覚ます。

 ネネカの傍で眠っていたヴェルサスも、同様に。

 驚いて一気に意識を覚醒させたネネカと異なり、ヴェルサスは呑気に眠そうに目元をこすっていた。

 入室してきたのは、息を切らしているヴァメルだった。


「お前一体何をした!?つーかお前たちか!?報告書は受け取ったがなあ、絶対それ以上のなんかやらかしたよなぁ!?」

「ど、どうどう。なんか、すんごい……」

「おはよー、ございまふ……ほにゃにゃにゃにゃにゃ……あふ」

「こっちは呑気かつ猫だし……」


 部屋の扉からずかずかと入ってくるヴァメル。

 ベッドの上に居るヴェルサスとネネカへと、鬼気迫る表情で迫ってくる。

 幸か不幸か。広いベッドの上で、ドアに近い場所に居たのはネネカで、ヴェルサスはネネカを挟んだ裏側に居た。

 結果。必然的にヴァメルがヴェルサスに迫ると、ネネカにも迫る形となった。

 どちらへと迫っているのか分からなくなってしまったが、どうあれ二人に用が有るのは間違いなさそうだった。


「寝惚けとる場合か!!!朝起きて城の外へ出てみれば、世界の終わりが如き光景を目にした俺の気持ちが分かるか!!!」

「にゃふ……どうしたんですぅ……?またお漏らしでもしましたかぁ……?それとも騎士が酔い潰れて揃って吐いてましたかぁ?」

「最近はしとらんわ!!!あと騎士は酔い潰れていたし俺も二日酔いで吐きに外に出たんじゃい!!!」

「最近はってところにもツッコミ入れたいけど外に出た理由がそれ以上に酷過ぎるし騎士も酔い潰れてたの!?」


 思わずこの国は大丈夫か!?と言いたくなったネネカ。

 まあ実際の防衛等はヴェルサスが皇都を主にして活動している限り安泰であろうし、他の戦力は然程重要では無いのだろう。

 とはいえウルグリム大陸は戦乱の大地であった場所。戦力が重要ではないとはいえ脅威は未だ存在しているであろうし、細かな備えとしてのヴェルサス以外の戦力は何かしらでしっかりと置かれているのだろうが。


「あふ……で?どうしたんです?」

「どうしたもこうしたもあるか!アレ絶対お前らの仕業だろうが!それ以外ねえからな!?つーかこっち来い!?」


 ちゃっかりネネカを盾にして問うヴェルサス。

 しびれを切らしたヴァメルがヴェルサスへと手を伸ばすが、ネネカを盾にしてひょいひょいと躱していく。

 自分を挟んで何をやっているんだか、と呆れ気味なネネカは寝起きの頭でふと思い立ったことを語る。


「ヴァメルってこういうキャラだったんだね」

「割とツッコミ役ですよこの人。普段はボケですけど」

「あー、自分以上のヤバい状況になったらツッコミになるタイプ」

「聞いてるか!?」


 あまりにもヴァメルの意見を気にしていないその素っ頓狂とも言える質問に、ヴァメルは半ば悲鳴じみた声を上げる。

 別にネネカもヴェルサスも、ヴァメルの言葉を聞いていないわけではない。

 ただヴァメルの要領を得ない言葉に寝起きである事も相まって、思考が散らかりやすいだけだ。


「とりあえず落ち着いて。深呼吸。で、何が有ったのさ。なんも分かんないけど」

「いや……っ!……ぬ、ぐ……フゥー……!?」

「すんごい力んで深呼吸しましたね」

「そんなに力んでいいものだっけ深呼吸。っていうか即座のアンガーマネジメント凄い」


 多分一般的な深呼吸はそこまで力むものではないと思われるが。

 ともあれ一度深呼吸を行い軽くではあるが落ち着いたヴァメルは、一歩下がって改めてネネカ……よりはネネカを盾にしているヴェルサスへと視線を向ける。


「……ん?」

「……外を見れば、と思ったがこの家の窓は外の景色を映さないんだったな……」

「まあまあ不便だよねこの窓」


 ヴェルサスの屋敷の窓は、全て映し出されている光景が異なる。

 その上、数えきれないほど数多存在する窓だが……その中に皇都の光景を映すものは一切存在しない。そもそも幾つかの窓に至っては、同じ景色を映す異なる窓と繋がっている始末。

 窓としてどうなのかと思わざるを得ないが……まあこの摩訶不思議な屋敷である以上は、それも特色の一つと受け取るしかないだろう。


「まあ、いい。……ほぼ確実に、お前たちのどちらかにお客さんだ。皇都の外から、大群でな」

「?お客さん……?」


 ヴァメルの言葉に首を傾げるネネカ。

 まだこの世界に来てから日も浅いネネカに、来客。

 ヴァメルを始めとして屋敷の外の交友関係が全く無いわけではないが、多いとは決して言えぬ程度しか交友の輪を広げられていないにも拘らず。

 仕方のない話では有る。そもそもこの屋敷からまともに出ていないのだから、交友関係以前の問題だ。

 そんなネネカに対し来客など、一体誰がと思い


「……成程、これは確かに」

「?ヴェルサスちゃん?」


 景色の変わらぬ窓の外を見ていたヴェルサスが、心底辟易した様子でそう呟く。

 その様子からして何かしらを察したか理解したのだろうが、同時に面倒に近いナニカでは有るのだろう。


「……いやまあ遠からずだろうとは想定してましたが。即日とは思わなかったなァ」

「?……そういえば、昨日だったかに明日には特別って言ってたけど……」

「まあ関連してるので間違っては無いです。……此処までは些か想定外でしたが」


 はぁ、と深くため息を吐いてふわりとベッドから浮かび上がるヴェルサス。

 欠伸混じりのヴェルサスはそのままふわふわと、一番近くのクローゼットを開く。


「えーと……うん、とりあえず適当に着替えて行きましょ。寝巻のまま出るわけにもいきませんし」

「割と緊急事態だから寝巻のままでもいいからさっさと対処してほしいんだが???」

「本当に危険な緊急事態ならそうしますが、クルーベルさんが動いてすらない事態なら問題は有りません。はいはい、乙女が着替えるんで出て行ってくださーい」


 ヴェルサスはそう言ってヴァメルへ向けて左の掌を向ける。

 直後、ヴァメルは何かに吹き飛ばされたかのように、声を上げる間すら許されずに廊下へと吹き飛ばされる。

 ヴァメルが部屋から消えると同時に、自動的に閉じられる部屋の扉。

 この部屋の扉は別に自動扉では無かったはずなので、恐らくヴェルサスが魔法か何かで上手い事動かしたのだろう。

 その割に、ヴァメルの事は相当雑に扱っていたような気もするが、確かヴァメルは十賢者の能力を使えると言っていたので今頃どうにかして回復していることだろう。

 どうあれ、流石に着替える時に異性が居るのは控えたい話。ヴァメルには悪いが、ネネカも着替え終わるまで待っていてもらうことにした。


「こういう時ロリータファッションってめんどいですよねえ。着るの時間かかる」

「……普通に、他の着ればいいんじゃない?」

「デザインはお気に入りなんですよ最近の。特に黒系。ゴシックロリータ。いいですよねコレ」

「……人の好みはそれぞれだから別にそれは否定しないけど、時と場合と場所を考えてほしいナー」


 閑話休題。


「あのー、あんまり文句言いたくないんだけどさ。色合いどうにかならないの?紫と緑と橙の服って。模様もヤバいし」

「同感だな。あまりにもどうかと思う色合わせ過ぎるだろ。そういうのが好みなのかと思えば違うようだしな」

「仕方ないでしょう、ネネカさんに合うサイズの、程よい色合いの服が無かったんですから」


 十数分後。

 ヴェルサスとネネカは各々とりあえず外出しても問題無い衣服を身に纏い、部屋を出た。

 部屋を出た先の廊下では、何やら魔法の痕跡を身に纏うヴァメルが待っており。

 若干苛立った様子のヴァメルが、部屋から出てきたヴェルサスをギロリと睨みつけた、が。

 ヴェルサスに続いて部屋から出てきた死んだ目のネネカを見て、その怒りが静まっての現状。

 無理もない。ネネカが身に纏っている服は、一応外出用の衣服で間違いない。動きやすさ重視の、運動用の衣服だ。

 しかし、その色合いが余りにも奇抜同士で全く嚙み合っていない。紫と橙のストライプ模様のトップスに、黄緑とすら呼べないほどに蛍光色な緑色のデニム生地によく似た生地のズボン。

 どれもゆったりとしつつも動きを決して阻害しない衣服となっているのは分かるが、色の調和があまりにも壊滅的としか言えなかった。

 一方でヴェルサスは黒のロリータファッションでフリフリとしていて、身長等と合っていて凄く可愛らしく纏まっている。些か動き辛そうではあるが、普段浮いている上に大抵の事が身体を動かさずに放つ魔法だけで片付く以上、あまり動きやすい衣服である必要性は薄いのかもしれない。


「……皇帝の慈悲だ。この家の敷地外に出たら、我が幻覚魔法を使ってやる。お前たちのような高い魔力を持っている奴らには効かんだろうが、そこらの奴らには普通の色合いに見える程度には、この身でも出来るだろうさ」

「極めて誠に感謝いたします皇帝陛下」

「うむ、よきにはからえ」

「別に後で適当に服を買えばいいんじゃないですかね」


 ヴェルサスとネネカではあまりに体格が異なり過ぎるため、フリーサイズの服でも無ければ身体に合わないのは仕方のない話だ。

 無理に小さい服を着て身体を痛めても問題であるし、大きい服を着て動き辛くなっても問題となる。

 比較的ネネカと体格の近い者も居るこの屋敷のメイドたちは、あまりお洒落というものに興味が無いのか自分の服というものを持っている者が少なく、数少ない自分の服を持っている者たちも種族が異なる故に種族ならではの服ばかりで人間のネネカには合わない。

 遠からずネネカ用の部屋着以外の衣服……外出用の衣服を調達しなければとヴェルサスも考えていたが、様々な事情でままならなかった結果の現在。

 あまり来ていないヴァメルですら、ネネカの足が動かなかったことは普通に知っているし、ヴェルサスが仕事で忙しかったのも理解しているほどだ。


「服……買いに行きたいけどお金持ってないし、何処に服屋があるかも分からないからなあ。まあ、また今度かな」


 ネネカが若干の諦めを込めて語りながら、ヴェルサスへと視線を向ける。

 ヴェルサスはその視線にコクリと頷き、三人は歩いていく。

 元より急ぎの事態。先の夢を語るのは自由だが、此処でただ喋っているだけの余裕も無いのが現状。

 ヴェルサスが焦っていない辺り然程問題は無いのだろうが、お喋りしているだけでよいとまではいかない。

 三人は早歩きで、屋敷の中を歩いていく。


「ところでさ。結局何が来たの?私、何にも分かんないんだけど」


 ネネカは歩きながら二人へと問う。

 ヴェルサスは何やら察知したようだが、ネネカは現状をあまり理解出来ていない。

 精々、ヴァメルが血相を変えて乙女の部屋に無断で飛び込んでくる程度の事態が突如発生し、それにヴェルサスとネネカが関係しているという事くらい。

 外からの来客と言われているが、外に縁の無かったネネカは本当に見当が付かない。

 問われた二人は、半ば疲れた様子で簡潔に答えた。


「「皇都のすぐ傍で待ってる風竜の大群」」

「…………………………」


 その答えに、ネネカは自分でどんな表情をしたのか分からなかった。

 ただ一つ、確実に心の中で思ったことがある。

 確実に私だ、と。

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