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荒廃の大地より愛欲を込めて  作者: 蓮見燐
1章 最強と少女
24/44

23:魔法の基礎

「……あれだけヤバい攻撃しておいて、命だけ奪って身体は残ってるって、どんな魔法……」

「魔力の放射で魔力保有生物の魔力だけ吹っ飛ばして絶命させるとかなんとかって聞いたな」

「もう何でもありじゃんヴェルサスちゃん」

『あまり否定できませんね』


 皇都近郊へ墜落した、風竜たちの死骸。

 その亡骸は、吹き飛ばされ墜落した際の掠り傷以外は、元より有った傷ばかり。

 比較的綺麗な風竜の亡骸の山が、そこにはあった。


「で、ヴェルサスちゃんは?」

『ついでに所用を済ませてから戻ると』

「それはそれでなんか嫌な予感するんだが」


 何の用事かも伝えない辺り、何やらやらかしそうな気がしないでもないが。

 しかしいくらヴェルサスとはいえ、割と色々特殊な状況たる現在で、余程変な事はしないだろう。

 何よりあちらには皇帝ヴァメルが居るはずだ。彼の事を考えた場合、流石のヴェルサスも余程の行動は自制すると思われる。


「で。私、普通に此処に居ちゃってるけどいいの?」

「問題無い。どの道隠していてもいずれはバレることだし、足が治った以上は遠からず個人での外出も増えよう。であれば、俺たちとともに行動することで、お前に手を出すことに対するリスクを示した方がいい」

「成程、案外考えてる」


 これでも軍師だ、と少し不服そうなクルーベル。

 忘れていたわけではないのだが、軍師らしい部分をあまり見ていなかったため、本当に軍師なのかと微妙に疑わしかったのだ。

 ネネカのその疑問を悟ったのか、エリーゼがそれに答える。


『クルーベルさんは常日頃からあまり考え過ぎないように、自身で自身へと知能を低下させる闇属性魔法を用い続けているのです。その解除は、全てを癒せる私にしか出来ません』

「ものっそいナチュラルに自己封印してたし鍵が他人だったし」


 あくまで知能を低下させるだけのようなので、普段の魔法行使には問題無いために然程問題は発生しないのだろう。つい先ほど、風竜たちの強力な攻撃を腕の一振りや指の一鳴らしでかき消していたのだから。


「俺は考え過ぎてしまうからな。知能低下喰らってるくらいで日常は丁度いい」


 クルーベルの言葉を聞いて、ネネカは一つの例を思い出した。

 元の世界の話だ。

 一人の稀代の天才が居た。

 稀代の天才はその頭脳を余すことなく使い、一つの会社を立ち上げ、世へと莫大な繁栄を齎した。

 しかし天才過ぎたが故に彼の思考に世界が追い付かず、終には周囲に真に思考の一片も理解されることなく、若くして朽ち果てたという。

 過ぎたるは猶及ばざるが如し。それだけの事なのだろう。


「まあそれはいいとしてだ。如何に事情があれども風竜の素材は貴重で重要だ。それを倒したのがヴェルサスであり、なればこれは確実に国のものだ。他の者に、僅かでも取らせるわけにはいかん。そのために此処で見張りつつ、回収係が来るのを待っているのが現状だ」

「知能低下してなかったら話通じ無さそう。……やっぱりドラゴンの素材は凄いの?」

『様々な事に使えますからね。とはいえ、まともに加工は出来ないので、基本的には保管するだけになりますが』


 まともに加工が出来ないとはどういうことか。

 風竜の表皮を見て、確かに強靭な鱗、甲殻、牙……余すところなく凄まじい素材になるだろうと素人目にもわかる。

 仮にこの風竜の鱗を使って鎧を作ろうものならそこらの金属の刃なぞ容易く粉砕するであろうし、仮に牙を剣へ鍛造すれば容易く大地も斬り割けよう。

 そんな素材を、まともに加工が出来ないというのは、惜しいとしか思えず思わずネネカはその理由を問う。


「理由は単純で二つ……正確には三つだが一応直接は二つ。一つ、鱗一枚でさえ相当な硬度と柔軟性と耐熱性と……まあ色んな性質が混在してるからな。普通に竜の素材の加工は、超高等技術なんだ。それこそ、その加工が出来るってだけで理者のどこかに推薦された人が居る程度にはな」

「硬くて柔らかいって一瞬で矛盾してる気がするけど、それが本当に性質として同時に存在してるんだとすれば確かに加工は普通に難しいか」


 今一度、ネネカは風竜の亡骸へと直に触れて視る。

 生きていない。完全に死んでいる。

 のに、鱗一枚でさえ、暖かいと思いきや冷たく、硬いと思いきや柔らかい。

 これを目的の形へと正確に加工する技術。それは確かに、相当な高等技術だろう。

 そんな技術を持つ者が理者へと推薦されるのも、素材に触れるだけで納得であった。


『二つ目に、その超高等技術を有している方が現在、世界に居ないのです』

「え、居ないの?」

『ええ、居ないんです。一応かつてはドラゴンの素材の加工技術を伝えている方々がウルグリム大陸の各地にいらっしゃったのですが、勢力拡大を続けるウグ皇国を敵視した国の方々によって、ウルグリム大陸のその方々は皆暗殺されてしまいまして』


 自国の技術者すらもです、と悲しそうにエリーゼは目を伏せる。

 ウグ皇国はウルグリムの前身。勢力拡大を続けていたと成れば、必然的にドラゴンの素材の加工技術を持つ者たちも国内に抱えて居ただろう。

 それによるウグ皇国の強化を阻むため、ウグ皇国に与する技術者を暗殺するのはまだ分かる。戦争とはそういうものだから。

 しかしそのために自国の技術者までもというのは、流石に常軌を逸している。自国の弱体化まで行って、何を得られるというのか。

 まあそもそものドラゴンの素材を入手する術がなかったためかもしれないが、だとしても一つの技術を完全に失伝させるのは如何なものかとネネカは思わざるを得なかった。


「一応、他の大陸に渡った奴の中にはドラゴン素材の加工屋が片手で足りる程度では有っても居るらしいからな。そこから技術を得られないかと考えちゃあいるんだが……」

「他の大陸からしても、ウルグリム皇国がこれ以上強くなる可能性は避けたいだろうし、技術者としても同じ技術者を皆殺しにしたウルグリムには来たくないよね」

「そうなんだよなァ。ウチが主導したわけでもねえのに」


 立場や情勢、歴史を考えれば現状は当然のことだ。

 当然の事ではあるが、今を生きている者たち……それも国の情勢に関わりつつ、竜種を容易く倒せる者たちからすれば複雑なことこの上ないだろう。

 まして、都市を守るためとはいえ正当防衛や不可抗力でドラゴンを倒さざるを得ない場合はなおさらだ。


『このまま何も出来ないから捨てましたでは、奪われた竜種の命も浮かばれません。竜種の亡骸を食べて魔獣が強化されるの困りますし』

「だからせめて一応、皇都でドラゴン素材を扱う研究はしてんだけどな。……どうにも芳しくないのが現状で、難しい所だ」


 それは魔獣とはいえ、命を奪わざるを得なかった存在に対するこの大陸に生きる者なりの礼儀ではあるのだろう。

 しかし現状ではドラゴンに対し、その礼儀を尽くすことも叶わない。そのための研究も、素材の量に反して芳しくない。

 知れば知るほど大国とは思えないほど国力諸々が低いと理解出来てしまい、何とも複雑なネネカだった。


「とはいえ放っておくわけにはいかないし、研究の末になんとか解体は出来るようになったからな。一応回収して保管はしてるんだ」

「成程ね。で、今はその解体するための回収の人たちを待ってる感じ?」

『そうですね。ただ今回は数が多いので運び込むのも難しいでしょうし、何体かはこの場で解体することになるかもしれません』


 それも仕方ない事だろうとネネカは思った。

 風竜の亡骸は巨大だ。一匹で皇都の一般的な家屋数件分の巨体。それを運ぶのは勿論、このまま保管するにも、解体場所へ入れるのも苦労しか無いだろう。

 であれば現場で解体し、解体したものをそれぞれの場所へと運ぶ方が、遥かに楽だし効率的ではある。

 勿論、それが出来るならばの話だ。

 現在地は皇都の外。ネネカの視界に映る限りでは魔獣のような生物は居ない、風によって荒れた後が遺るだけの真紅の荒野。だがどこに魔獣が潜んで居るか常人に分かるものでは無いし、魔獣以外にも狙ってくるものは多いだろう。

 仮に現場で解体が成功したとして、解体した素材を運搬中に狙われるかもしれない。魔獣でも人でも、それだけ竜の素材は狙う価値があって当然のものだろう。どう扱うのか、現在のネネカには想像も出来ないが。

 しかし今この場には、十賢者のクルーベルとエリーゼが居る。

 現在地は皇都の外、近隣では有れども様々な結界の効果範囲からは外れ、二人も全力を出せる状態。

 補助が主なクルーベルとエリーゼ。しかしその戦闘能力が低いわけではないことは、この世界の人物には周知の事実。

 そんな二人が守るこの場、風竜の亡骸に誰が手出しできようか。


「……私、やれること無いし帰っていい?」

『一応お願いしたいことが有りますので……』

「せめてヴェルサスが来るまで戻るのは待ってくれ。今手持無沙汰なのは俺らも同じだ」


 事実。周囲にはネネカの認識できる範囲では、クルーベルとエリーゼしかいない。

 既に皇都の騎士を経由して、住民には諸々の通達を出してあるし、様々な手配も行っている。

 二人とついでにネネカがこの場でやるべきことは、警戒ついでの待機しかないのだ。

 勿論警戒は重要だ。何が起こるか分かったものではない。もしかすれば、いきなり空に大穴が相手異世界から人が落ちてくるかもしれないのだから。ネネカのように。

 とはいえ現時点でそこまで過度に警戒する理由もなく、どう考えてもクルーベルとエリーゼの警戒で十分すぎる中。

 ネネカはあまりにも、暇を持て余していた。


「……ふむ、そうだな。お前なら確実にあっさり使えるようになる、魔法技術でも幾つか教えておこう」

「え。そんな急にあっさりと?」

「魔法技術は覚えておいて損はないぞ。特にお前ほど魔力が多いなら、一つ一つの技術がそこらの魔法使いの必殺級になるからな」


 魔法技術。

 さらりと言われたが、それがどういったものを指すのか分からなかったので、憶えるか否かにせよとりあえず聞いてみることにした。


『魔法技術とは、現在では意味合いに主に二種類ありまして。魔法使いの扱う魔力操作などの技術と、魔道具に関係する技術です』

「あ、魔力操作も魔法技術なんだ。って、当たり前か」

「そうだな。魔力操作や魔力の循環……は聞いてるか?まあアト、俺らが使ってたような魔法そのものとかもだな。そういう、魔法使いが扱うなんらかの技術を総称して魔法技術と呼ぶんだ」


 今は魔道具も有ってややこしいが、とちらりと皇都を見ながらクルーベルは呟く。

 より正確には皇都の西にあるヴェルサスの屋敷に。

 確かに。ネネカにとって魔法技術は、魔道具の方が今や身近と言えるだろう。

 明確に魔法を扱うよりも先に魔道具を使ったのだ。そうなるのも無理はなかった。


『ただ魔道具はまだあまり普及しておりません。ヴェルサスさんのお屋敷で暮らす内は魔法技術と言えば魔道具になりましょうが、本来は魔法使いの扱う技術の事を魔法技術と呼称します。一般的な用法は後者になりますので、気を付けてください』

「ん、分かった」


 忘れてはならないが、ネネカの置かれている環境は勿論、関わっている周囲の存在も異常の枠に入る者たちばかりだ。

 世界最強たるヴェルサスは勿論、そのメイドたちも……些か個性的だが決して一般の部類に入る者たちではなく。クルーベルやエリーゼ、ヴァメルも言わずもがな。

 今となっては普段使いできている屋敷のペンや椅子、ドアすらも世界にはまともに存在しない魔道具。

 それを自然と思ってはいけないのだと、ネネカは自身の置かれた環境の異常性を再認識した。

 ……そもそも異世界から飛ばされてきている時点で、異常の極みなのだが。


「で、そんな普通の魔法技術の事すら私あんまり知らないんだけど。教えてくれる奴は私が使って大丈夫な奴なんだよね?」

「大丈夫じゃない奴教えたら俺らがヴェルサスに消し飛ばされるわ」


 冗談じゃないと言いたげなクルーベル。苦笑するエリーゼ。

 まあネネカの事を一時的とはいえ信頼して任されているのに、そんな事をすればまあヴェルサスとて普通に怒るだろう。


『魔法技術の中には反動が存在するものも確かにありますが、魔力の扱いが未熟な内からそれらに手を出すことは奨められません。資格が必要なものもありますし、そもそもそういった危険を伴う一部の魔法技術を扱う場合には、前提として習得が必要な魔法技術も有ります。まずは基礎の魔法技術を順番に覚えていきましょう』

「スキルツリー的な奴かな。はーい」

「……スキルは分かるが、つりー……?」


 ネネカはゲーム的に考えてスキルツリーと評したが、どうやらこちらにはその単語は無いらしい。

 とはいえ然程問題が発生するものでも無い。意味も難しいものではないので、後で聞かれたら教える程度でいいかとネネカは気にしない事にした。


『それでは……そうですね。魔道具は既に扱えるようですし……』

「魔力の循環は教わったか?体内に魔力巡らせて、様々な異常の抵抗力を上げつつ魔力を鍛えられる奴なんだが」

「循環……あ、もしかしてアレ?【モルス】だかっていう薬物の対策になるっていう」

「……そう、ああそういう事か。なんで異世界人なのに魔力を早期覚醒させてんだと思ったが、それ対策か」


 どうやらその辺りの細かい情報も伝えられていなかったらしい。

 思いの外、ヴェルサスからの情報は少ないのかもしれないとネネカは思った。

 まあヴェルサスからすれば、その辺りの細かい情報まで遠隔で伝える余裕が無かった、もしくは伝える意味が無かったのかもしれないので、実際のところは直接聞くまで分からないが。


「だがその様子じゃ教わってるわけでは無さそうだな?」

「うん。最初は習得してもらおうとしてたみたいだけど、その魔力なら問題は薄いって。あと魔力馴染ませるためにも今は駄目だって」

『まあ……あれほどの魔力があるならば、確かに行うメリットは少なくはありますね……』

「だな。無いわけじゃないが、他の技術のが得るものが多い」


 ヴェルサスの判断に、クルーベルとエリーゼも同意のようだ。

 なんだかんだこの三人は世界有数の魔法使い。魔法技術についても、必然的にその知見は相当なものだろう。

 そんな三人が揃って利が薄いというのなら、ネネカにはまだ詳しい事は分からずともそうなのだろう。

 まあ当然、三人でネネカを騙している可能性も無くはないが、そういった可能性を考えればキリがない。今はそうでないことを願うしかないだろう。


「そう、なると……あー、まあ基礎中の基礎で魔弾か?」

『確かに。ネネカさんの魔力であれば、相当な攻撃力も期待できそうですし』


 魔弾。

 それは魔弾の射手のような、特殊な性質を持つ弾丸、という意味では無いだろうとネネカは考える。

 こういった世界、魔法の存在する世界で考えるのなら、魔弾とは。


「……魔力そのものを、弾丸にして撃つの?」

「そうだ」


 クルーベルは頷く。

 本当に、ただただ純粋に言葉通りの、魔法の弾丸だ。

 魔法というのも烏滸がましいほど、魔力を放つだけの弾丸だ。


『魔弾は、魔力操作の技量や魔力の量に応じて最大威力が上昇します。魔法効果を乗せることも出来、一般的には魔法使いの通常攻撃のように扱われています』

「が、普通の魔法使いじゃまともに威力を出すには相当効率悪いからな。魔弾を強化するリソースを普通に魔法強化や魔法の熟達に使った方がいいから、誰もまともに使わん」


 それはまあ、分かる話ではある。

 魔力操作の技量や魔力の量に応じて最大威力が上昇する。

 それは逆に言えば、その二つが伴っていなければまともな威力にならないという事でもあろう。

 初手の魔力という才能が無ければ、とてもではないが割りの良い攻撃手段とはなり得ないもの。それが魔弾という、魔法使いの通常攻撃手段なのだろう。


「その点お前は、破格の魔力を持つ。確実に言えるが、俺やエリーゼのあらゆる魔法効果を乗せた渾身の魔弾よりも、今この場で習得した拙いお前の魔弾の方が、数倍は威力が高い」

『加えて魔力の自己回復能力も優れておりますので、私たち以上の魔弾を弾幕で展開することも可能でしょう。勿論、相応の修練等は必要になりますが』

「魔力量での威力補正ってそんなにデカいんだ……」


 確実に細かな魔法技術においてはクルーベルやエリーゼの方が上だろう。

 この場で魔弾を習得しても、出来るのは二人に比べれば遥かに拙く、効率も悪いものとなるのは分かり切っている。それは二人も良く理解している。

 その上で……魔力というたった一点が、遥かに勝っているというだけで。

 二人を威力の上では上回る魔弾を放てるという。

 つくづく己が身に宿った魔力が規格外なのだとネネカは思った。


「ただ。そんな威力を出せる魔弾だからこそ、お前は加減を覚えなければならない。そして加減を覚えるための練習の場として皇都は全域が不適切であり、相手としてもヴェルサスが問題無さ過ぎて駄目だ。分かるな?」

「まあ、うん。分かる」


 皇都が不適切な理由は単純。高威力の魔弾で巻き込んだら危険な上に、そもそも結界で魔弾の威力も減衰されるために、正確な威力を知る事もそこから加減を覚えることも出来ないから。

 相手としてヴェルサスが適切でない理由も分かりやすい。確実にネネカ以上の魔力を持ち、ネネカの魔弾程度では絶対にダメージを負わないために、魔弾の正確な攻撃力を測る事が出来ないため。

 ネネカにとって最も身近な場所と相手が魔弾の練習に適さない。となれば、それ以外でどうにかするしかなく。

 その場合の場所と相手の最善は……今ここに全て揃っていた。


『私が結界を展開します。まずは防壁に向けて、魔弾を撃てるように頑張ってみましょう』

「竜は俺が守っておく。案ずるな、そこらの魔獣が襲ってこようがこの場なら遅れは取らん」


 エリーゼは皇都を襲った風竜の攻撃すらも遮断する結界を展開できる。当然、その強度は調整可能だろう。

 そんな彼女の結界に対してならば、魔弾の威力のテストも行いやすい。

 人に向けて撃つわけでも無いのだ。ネネカはさほど気にするタイプでは無いとはいえ、気が楽になるのも事実だった。

 エリーゼは自身の周囲に一瞬だけ文字を出現させたかと思いきや、エリーゼの周囲に幾つもの四角の結界が発生する。

 四角の結界はどれも青白く、形を自在に変えていた。


『こんな所でしょうか。ではそうですね、まずはこの結界に当てられるようにやってみましょう』


 四角の結界の一つを赤くしたうえで板のように広げ、ネネカから少し距離を置いた場所へと固定する。

 変わらずエリーゼの周囲には幾つものブロック状な結界が漂っており、ネネカとしてはそのSF的な光景にどういう魔法なのか気になったが、今は魔弾に集中することにした。


『では、魔弾の撃ち方についてお教えします』

「はい。よろしくお願いします、先生」

『ふふ。こちらこそよろしくお願いします』


 ぺこりとネネカが頭を下げると、エリーゼは楽しそうに微笑んで同様にぺこりと頭を下げてくる。

 クルーベルは口を挟んでは来ないが、何やら呆れている様子だった。今更そういう風に畏まる事に対してだろうか。


『魔弾の撃ち方は、極めて簡単です。魔力の扱いは既に、魔道具を扱う上で習得しているようですので省いて問題ありません……よね?』

「うん。まだまともに魔力が馴染んでから日が浅いから、マスターしてるとは言い難いけど」

『そればかりはじっくりと慣れていくしかありません。それに、魔力を覚醒させたばかりといえど、他の一般的な魔法使いの方々と比べれば十分でしょう。大抵の方は、戦闘と多少の日常生活に明確な属性魔法を用いるのみで、純粋な魔力の扱いについては二の次とする方が多いので』


 エリーゼの説明に、成程と納得するネネカ。

 実際、魔法と聞いてイメージするのは火を放ったり水を放ったりする、明確なカタチになった属性魔法と呼ばれるものだ。

 ネネカはあまりそういったものに執着が現時点でも無いし、そもそも適正等も知らないので、イメージはしてもそちらに手を出す気は無かった。

 加えてヴェルサスの屋敷は何もかもが魔道具。そんな分かりやすい魔法を習得する前に、日常生活のために前提の純粋な魔力の扱いを多少でも習得する必要があった。

 それ故にネネカは、純粋に魔力を使うという点においては、同じスタートラインの魔法使いよりは経験豊富と言えるのだった。


『魔弾は、魔力の扱いに慣れていれば難しいものではありません。加えてわざわざ魔弾を習得する者も少ないです。理由は単純で、一般的な魔法を習得する過程で魔弾も習得することになるからです』

「あー。魔法を使う上での基礎なんだ、要するに」

『はい。魔力の扱いとはまた別の、魔法として出力する上での基礎になります。ので、魔法を使うために魔弾を覚える方は居ても、魔弾を使うために魔弾を覚える方は稀です』


 ネネカは、その稀な方になるらしい。

 まあ一般的な魔法使いと比較して、魔力量からおかれた環境まで特殊極まるので、仕方ない事ではあるのだが。


『ネネカさんは、魔道具を使う際に、魔道具へと魔力を流し込んでいますよね?』

「うん。じゃないと使えないから」

『魔弾はその魔力を、物体ではなくそのまま体外で纏める技術です。ネネカさんほどの魔力であれば、そのイメージをなぞるだけで、恐らく魔弾としては形に出来るでしょう』


 それだけでいいのか、と思いもしたが、ネネカほどの魔力であればと言っていたので、恐らく魔力量によってやりやすさ等は変わるのだろう。

 ネネカは赤い板のような結界を指差し、目を閉じて集中する。

 この一週間で、魔力の認識は完了している。

 まだスムーズではないが、操る事も出来る。

 ネネカは自らの内に在る魔力を、指先へと集めていく。


『ストップです。スムーズに魔力を操れているのは良いですが、魔力を指に集め過ぎです。ネネカさんの魔力受容量が高く無ければ、既に指先が内からの魔力で爆散しています』

「怖っ!?私、全然魔力集めてないんだけど!?」

『自身の中でのイメージと実際の挙動は異なります。魔力操作が未熟な事を踏まえても、体内の魔力を集中させ過ぎです。恐らく、体内から魔道具に魔力を流す際の使い方に慣れ過ぎて、魔道具も身体の一部と認識しての体内で留める癖が出来ているのでしょう』


 ネネカはそんなつもりはなかったのだが、どうやら相当に魔力が指に溜まっていたらしい。

 自分の中のイメージと、実際の魔力の動きに乖離がある事は、ヴェルサスからも既に言われていた。

 ヴェルサスの屋敷の魔道具は、ヴェルサスの魔力を受け止められるようにと魔力受容量が高く作られているらしいが、それに甘えて細かな制御がおろそかになっている自覚はあった。

 しかし実際にこれほど乖離があるとは、想像していなかった。

 どうやらネネカ自身も持て余すほど、ネネカの魔力は膨大らしい。


『指に今貯めた魔力を、さらにその先の空間へ集約してください。決して体内の一部分に魔力を溜め過ぎないよう。もし魔力を認識出来るのであれば、自らの肉体の周囲に追加の……こう、仮の身体をイメージすると良いかもしれません』

「あー、追加義肢とか機構義肢的な感じかな……分かりました」


 ネネカは聞いた話をもとに、元の世界で一般的なそれを思い浮かべながら、イメージを再構成する。


「……仮の身体と聞いてなんで思い当たるモンがあるんだ……」


 近くで聞いていたクルーベルが何やら引いていたが、ネネカの世界では普通に在ったモノだったし、それに反応している余裕も無いので無視することにした。

 ネネカは再び体内の魔力に意識を集中させる。

 イメージする力の流れ方は水のようなそれで変わりなく。

 先ほどと異なるのは、流し込む先を自分の身体ではなく、元の世界で用いられていた追加義肢技術のような、自分の肉体の一部でありながら自分の肉体ではないそれの感覚。

 拡張された己を意識して、魔力を集めて……


『はい、出来ましたね。少々、初回にしては魔力を込め過ぎですが』

「出来たの?……うわナニコレ」


 ネネカが眼を開けて眼前に在ったのは、巨大なもやもやとした実体の曖昧な塊だった。

 半径がネネカの身長ほどもあるそれが、そこに在った。


『やはり魔道具を使っていたからか、魔力の扱いに関しては経験もある上にセンスもいいですね。魔弾をこれほど早く構築できるとは』


 いつの間にか真後ろに居たエリーゼが、素直に感心したようにそう言ってくる。

 ネネカの感覚では、エリーゼが歩いた気配は一切しなかったはずで、実際足跡も何もない。どうやって斜め前から真後ろへ移動したのだろうか。

 彼女だけが使える何らかの単距離移動手段でもあるのかもしれない。長距離移動手段はどうやら保有しているようなので、その単距離版が別であってもおかしくはないだろう。


『ですがまだ魔力の扱いが荒いですね。そして自身の魔力量についての正確な認識も出来ていません。どちらもじっくりと積み重ねるべきものですが、魔力量の認識については優先的かつ早期に改めましょう。不意の魔力による事故が発生しかねません』

「魔力の認識優先なんだ……で、あの。これどうすれば……」

『魔力絡みの事故等は本当に危険ですので。自分の魔力量を理解していない場合は特に危険な事例が幾つもあります。作った魔弾は真っ直ぐ、先程の赤い結界に当たるように飛ばしてみて下さい。最初なので……そうですね。物を投げるように、勢いを付けて放るイメージでやってみるといいかもしれません』


 ボールか何かかと思ったが、とりあえず大人しく言われた通りにイメージしてみる。

 魔弾をボールとして。それを投げるようなイメージをネネカは描き……そして、自らより魔力の塊が離れ飛んでいった感覚だけがあった。


『形だけは作れていたようですが、魔力の収束率は相当悪かったようですね。結界に当たる前に霧散してしまいました』

「え。そんなに飛ばなかったの?」


 ネネカが眼を開けて前を見れば、そこには既に魔弾は無く。

 十歩程度歩けば触れるだろう所に在る赤い結界の壁だけが、静かに佇んでいた。


『魔弾は、用いた魔力の量、魔力の収束率、形状、その他魔法性質により性能が決まります。殆どの方は一般的な魔法にも適用できる魔法性質を習得、魔弾にも付与することで補いますが……あまり良い方法とは言えませんね』

「……あ、魔力の扱いが未熟なままだから?」

『はい。基礎を怠っては意味がありません。魔法性質……については教わりました?』


 ネネカは無言で首を横に振る。

 魔法性質。単語はヴェルサスとの魔力の扱いに関する会話の中でも時折出て来たが、重要ではないと説明を後回しにされていたため、教わっているとは言い難い。

 まあ聞いたことが有るだけにしては、大体察しているものもあるが。


「あいつどんな教育方針にしてんだろうな」

『まあ手探りなのかもしれませんし。……魔法性質は、言葉通りに出力された魔法に様々な性質を入力するものです。例えば……そうですね』


 エリーゼはネネカの横へ移動して、右手の人差し指を赤い結界の壁へと向ける。

 移動が瞬きの間に行われたことに関しては、流石にそろそろ纏めてツッコむべきか少し悩んだネネカだったか……一先ずは現状を優先することにした。

 エリーゼは指の先に、先程のネネカと同様に魔弾を作る。

 魔弾はネネカのものと同じく、もやもやとした曖昧なそれだった。


『はい。これが先ほどのネネカさんの魔弾です』

「サラッと再現できる辺り凄いんだなあって思う」

『私はこれでも真似事が得意ですので。……この魔弾に、私が習得している魔法性質で……どうしましょうか』


 エリーゼは少し悩んだ末に、ふむと一息ついて左手の指を鳴らす。

 すると曖昧だった魔弾は、あっという間に凝縮されていき。

 ネネカが驚く間に、ビー玉程度のサイズまで圧縮された。


『今、指を鳴らすと同時に、【凝縮】の魔法性質を魔弾へ付与しました』

「あー。魔法性質が有れば、精密な魔力操作の代用とか、特殊な諸々が出来るのね」

『その通りです。理解等が早くて助かります』

「早すぎる気もするけどな。元の世界にもあったのか?」


 エリーゼは素直に感心していたが、クルーベルは感心しながらも少し疑問気だった。

 まあ二人からすれば、まだネネカがスパイの可能性等も完全に消えたわけではないので、仕方なくはあるのだが。事実、驚異的な身体能力も相まってネネカも不可能ではないと判断しているので。


「ンー。元の世界でそういう風な……全く同じじゃないけど似た原理とかが出てくる世界観の創作物がちょこちょこ有ったのと、元々私がそういうのに触れてた方だからっていうのと……あと追加義肢とか機構義肢で実際にそういうの有ったからかな」


 思い出しながら語るネネカだが、同時にふと思う。

 追加義肢等でも、流石に此処まで非現実的なものは稀だったかもしれない、と。


『創作物ですか……どういったものなのでしょう?気になりますね』

「なーんかちょこちょこ危ねえ世界の気配するんだが大丈夫か……?」


 危ない世界かどうかは分からないが、創作物は様々あったのでいつか色々こちらでも広めてみたいなと思ったネネカだった。


『まあともあれ。こういった形で魔弾を含む魔法に特殊な性質等を付与するのが魔法性質です。ですが、魔法性質も魔法の行使においては重要な要素ではありますが、私たちとしては基礎の魔力の操作から習得することを奨めます』


 これぐらいは出来るようになってもらいませんと、とエリーゼは指先の魔弾をふよふよと浮かばせ、自身の周囲を自由自在に動かしてみせる。

 彼女の言うこれぐらいというのは、そうして動かしている状態だけでなく、魔弾の状態の事も言っているのだろう。

 なんとなくだがネネカも分かる。エリーゼも、そこで見ているだけでのクルーベルも、この程度は魔法性質が無くとも呼吸をするより平然とできる、と。……ヴェルサスはまあ、考えるまでも無かろうが。

 いくら莫大な才能が有ろうとも、修練や努力を怠れば落ちぶれるは道理。魔法においても例外は無いだろう。

 なによりネネカの眼前に居る二人やヴェルサスは、確実に方向性は異なれどもネネカ以上の才能を持った上で、ネネカがまだ想像も出来ない修練と経験を積み重ねた末に、各々が最強の二字を得ているのだ。

 そんな彼女たちが基礎の修練から奨めるのだから、今はそうするべきなのだろう。


「……魔力の収縮とかってどうやれば……」

『ネネカさんは……正直、魔力の収縮等の技術面よりも、自らの魔力に対する認識を改めることを推奨します』


 エリーゼは魔弾をふっと消しながら、再びそう言ってくる。

 それほど自分の魔力の認識が重要なのかと、ネネカは思わず視線で問いかける。


『まあ今は分からないでしょう。……ネネカさんの場合、魔力を操る技術自体は及第点以下ではありますが急ぎで解決しなければならない問題と言うほどではないんです。勿論、未熟な点はありますが……一般的な魔法使いの方々と比較した場合、次元違いと言えるほどに才能が有ると言えますし、才能を加味しても極めて優れていると言えますから』

「一般的な魔法使いじゃ、魔弾を形成するまでに平気で魔力覚醒直後から練習し続けても1年以上かかるからな。世間一般で才能があるって言われてる奴でも、平気で半年かかるし」

「すっげ私天才だ」


 一般で1年以上かかるものを、魔力の扱いに多少ではあるが慣れていたとはいえ、学んでその場で行使する。

 成程それは天才の所業だろう。これを天才と呼び、自称もしなかったのなら、そうでない者たちは一体なんと呼べばいいのか。


「……ちなみに一応参考までに聞くんだけど、二人やヴェルサスちゃんはどれくらいで出来たの?」

「ヴェルサスは境遇が異常極まってるから分からんが、俺は覚醒後に面白くて暇潰しで魔力を弄ってたら出来たな」

『そう言われると私も、魔法に関しては学んで習得していないような……初めて使った魔法が、魔力覚醒させたその日に光属性の魔法を行使させられたことですし……』

「すっげ、案の定ではあったけどやっぱ天才だこの二人」


 学んでから出来たネネカと、学ぶよりも早くできた二人。

 さらりとネネカとこの二人との間にも、凄まじい才覚の差が有る気がした。


「とりあえず私が魔力操る能力は結構いいのは分かったけど……魔力の認識ってそんなに大事なの?」

『っと、そうでしたね。……簡単に言ってしまうと、同じイメージで出力される魔力が桁違いになってしまうので』


 エリーゼの言葉が良く分からず、思わず首を傾げるネネカ。

 意味合いは薄っすらと察している部分もあるが、詳細説明が無いので殆ど実感が湧かないのだ。

 エリーゼもそれを理解しているからか、くすりと微笑んで説明を続ける。


『ヴェルサスさんより聞いたのですが、ネネカさんは主に水の流れのイメージで魔力の流れを認識しているそうで』

「うん。駄目だった?」

『いえ。認識のイメージは人それぞれですから構いません』


 ヴェルサスよりはまともだしな、とぼそりと呟くクルーベル。

 ちらりとネネカがクルーベルを見ると、遠い目をしていた。

 何が有ったのかは分からないが、エリーゼも僅かに苦笑いを浮かべているので、相当アレなイメージをしているらしい。

 それも気になったが、精神衛生的にも聞かない方がよさそうだとネネカは直感的に思った。忘れてはならないが、ヴェルサスは淫魔だ。


『イメージ自体は問題無いのですが、イメージと自身の魔力で認識齟齬が発生していると、イメージの中では少しだけのつもりでも莫大な量の魔力が流れていることが有るんです。膨大な魔力を持つ方に良く発生する事象ですね』

「そいつもヴェルサスも、膨大の桁が違い過ぎるけどな」


 クルーベルの言う通り、ネネカもヴェルサスも世間一般との魔力量の差が膨大過ぎる。

 それ故に認識の違い一つで大きな違いもあるだろうと、ネネカも自覚してはいる。

 が。これほどとは思ってなかったのだ。

 何しろネネカのイメージでは、今までの魔力に関する行いの全てが本当に、水で例えるのなら水滴程度でしか無いのだから。


『例えるとですね。一般的な魔法使いの方の魔力を150としまして』

「…………………………」

「今絶対低いなあとか思ったろ」


 ネネカは黙秘することにした。

 一応以前に一度だけ、一般的な魔力数値については聞いていたので、そこまで驚きはない。異常なのは自分やヴェルサスだと理解している。

 ただどうしても、数値の比較で考えた場合。

 五桁終盤から見れば、三桁という時点でどうしても見劣りするのは致し方ない事だった。


『まあ……平均値は150ですので。才能のある、高い魔力を持つと言われている方の魔力を200としまして』

「こうして考えると1の差が凄い大きそう」

『かなり大きいですよ。……ネネカさんが水のイメージだとのことですが、詳細なイメージが分かりませんので私なりに例えますと、150の方と200の方が同じ小川の流れをイメージしたとします』


 実際のネネカのイメージとしては小川どころでは無いのだが。


『異なる魔力値の方が全く同じイメージで魔力を出力した時。たった1の違いでも、莫大な違いが発生します』


 エリーゼはそう言って、右の手と左の手をそれぞれ結界で覆った後、魔弾を作る。

 右の魔弾は手のひらサイズだが、左の魔弾は人の頭ほどは有った。


『実際に、150の魔力と200の魔力に限定し、全く同じ出力イメージを行いました。先程の例で言うのなら、どちらも全く同じ水量と勢いの小川のイメージです』

「……差、でかー……」

『はい。このように、魔力の数値が異なるだけで、同じイメージによる出力でも明確な差が発生します。これが、ネネカさんの魔力で引き起こされている事です』


 ネネカは理解できた。

 魔力の出力方法は問題無い。むしろ優れている方なのだろう。未熟な点はあるが、そこは時間をかけての修練次第。

 イメージも問題はない。どうイメージするかは人それぞれであり、人に合ったイメージを掴めばいいだけ。正解不正解など無い。

 問題は、ネネカの魔力という世界で二番目に巨大な魔力を、正確に認識出来ていない事。

 本当に直近の最大の問題は、言われた通りの事でしか無かった。


『とはいえネネカさんはこの世界へ飛ばされて日は浅く、元の世界で魔力というものが無かったそう。数値でただ示されただけでは、正確な認識が難しいのは致し方ない事です』

「環境や比較対象が悪いのもあるしな。自分以上の魔力を持つヴェルサスと、そのヴェルサスの魔力を受け続けて問題無い魔道具の山。加えて俺らだ。世間一般ってもんを知らないも同然だからな。無理もない」


 二人が理解すると同時、ネネカもその理解を共有する。

 こればかりは、時間と環境が解決する問題だ、と。

 環境についても、この世界の良識がまだ無いも同然な最強クラスの力を持った存在なぞ狙われて当然。この不安定なウルグリム皇国、それも最強のヴェルサスに関する存在であれば猶更。結局はこちらも時間をかけて良識を学びつつ、世間の状況が善くなることをヴェルサスの近くで待つしかない。

 やるべき事をやる、という当然は必要なものの……今ネネカに必要なのは時間なのだと理解し、三人揃って軽くため息を吐く。


「……そんでもって。これまた世間一般から離れる要因のような事も起きそうだな」

「?」


 クルーベルは近くの風竜の亡骸に座りながら、彼方の空を見ていた。

 エリーゼも、魔弾や結界を瞬きの間に消し、同様に彼方の空を見る。

 そしてネネカも気付く。凄まじいスピードで迫ってくる、自分以上の魔力を持つ生命体に。

 北の空より圧倒的な圧力を放ちながら飛んできたその存在は、あっという間に自分たちの真上へと到達し。


「ヴァメルミサイルッ!!!」

「アボルボスッ!!!???」


 ……何故か。その手に持っていた皇帝ヴァメルを、地面へ向けて凄まじい勢いで射出した。

 流石にネネカたちへは当たらなかったが……そのすぐ近くへと放たれたヴァメルは頭から着弾し、結構な土煙を起こす。


「よし。ヴェルサス、ただいま戻りました」

「よしじゃないが???」


 スタッと着地したヴェルサスと、頭からギャグマンガの如く地面にめり込んでいるヴァメル。

 クルーベルの困惑十割の言葉が全てであった。

 余談だが、ミサイルという単語はネネカが教えたものである。魔道具の一つが似た形状があり呟いたところ、興味津々で問い詰められ教えた結果ヴェルサスも憶えてしまったのだ。

 ……使い方は、大分アレであるが。

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