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荒廃の大地より愛欲を込めて  作者: 蓮見燐
1章 最強と少女
12/44

11:常人は寝すぎるとまあまあ体調が不安定になる

「異世界の少女というのは此処に居るかァ!!!!!!」

「っ、ぶ、ん!?」

「こいつマジで本当にさあ……!?」


 ドバァン!!!と大声と共に凄まじい勢いで扉を開け放って男が部屋へ入ってくる。

 その音と声で深い眠りより目を覚まさせられるネネカ。ふわふわと浮きながらその手に紙束とペンを持ち、自身の傍に火、水、風、土の魔力を構えるヴェルサス。

 混乱極まるネネカは、不意に覚醒させられたために軽く身体の怠みを覚えながら、混濁する意識を何とか音と声の主へ向ける。


「仮にも乙女の部屋にノックも無しに入るんじゃねーです!つーか仕事はどうした!?」

「ンなモン放って来たわ!それよりも異世界の少女とやらはどんな奴だ!?」

「それよりじゃねーです!?アンタ皇帝舐めとんのです!?」

「舐め腐ってなければ今の俺は無いわ!!!」

「言い切りやがりましたよコイツ!!!事実だけど!!!」


 向ける、が、そこではヴェルサスと声の主の男がせめぎ合うのみ。状況も何も分からない。

 ヴェルサスは四つの魔法を男に向けて放っており、男はそれを透明な光る障壁によって防ぎ続けている。

 ヴェルサスの繊細な魔法によってか、室内にも拘らず他に一切の影響が無いのは見事だが……それ以上に状況も男の正体も何も分からないネネカには、混乱を加速させる要因でしかない。


「メイドはどうしやがりました!?毎回案内させるよう言ってるんですけど!?」

「毎回顔パスでいいと俺からも命じているからな!この国に居る以上は俺のが偉いわ!」

「職権乱用にもほどがあるでごぜーますよ!?つーか毎回メイド共の客人案内が雑な理由テメェでござりまするか!!!」


 ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる二人。

 雰囲気的に気の知れた仲ではあるのだろう。基本的には冷静で丁寧だったヴェルサスが、こうも感情を露わにしているのだから。

 ただそれを差し引いても、この世界の事すらまともに知らぬネネカには、混乱の種にしかならない。完全に蚊帳の外。俗に言う、置いていけぼりである。


「して?そのベッドの上の女が異世界の少女か?紅茶を寄越せ」

「話聞けよ。あと自分で入れやがれでございます。……まあハイ。彼女の状況と情報から様々な推測の果てに、それが確実だと」


 と思いきや一瞬で静まり、自分の話題となる。

 その緩急に、ネネカは未だ残る睡魔も相まって、全く以ってついていけない。


「成程なあ。あと紅茶くらいケチケチするな。我皇帝ぞ?」

「我最強ぞ???」

「それは禁止カード」

「知ったこっちゃねーです」


 バサッとヴェルサスは部屋の机に持っていた書類を置き、未だ混乱の渦中にあるネネカの傍へ座る。


「グッモーニン、ネネカさん。よく眠れましたか?」

「……眠れたような、眠れて無いような」

「む、それはいかんぞ。不眠は美容の大敵である」

「快眠を阻害しやがった張本人がなにか喚いてやがります」


 ヴェルサスは今までと同様微笑んでいるが、その裏には何やら隠し切れぬ苛立ちが混ざっているように見える。というか、そうにしか見えない。


「起きて早々で申し訳ないのですが、一応紹介しておきます。バカ皇帝です」

「はっはっは、処されたいか?まあ良い。我が名はヴァメル・ヴォイド・オルテーザ・ウルグリム!!!ウルグリム皇国皇帝、覇皇ヴァメルとは我の事よ!!!」


 ヴェルサスの紹介を受け、男は仰々しくしかし派手に機敏に様々なポーズを取りながら名乗る。

 ウルグリム皇国皇帝。それ即ち、この国の最も偉い人。

 ネネカはその情報を受け止め、混乱し……


「バカ皇帝で良いですよ」

「処されたいか???ん???」

「処刑の刃って通るんですかね、私。首も腹も竜の牙すら通らないんですけど」

「無敵かコイツ」


 即、ヴェルサスとのやり取りで混乱が吹っ飛ばされる。

 尤も眼前の混乱が吹っ飛ばされただけで、別の混乱に苛まれることには変わりないのだが。具体的にはそんな口を聞いていいのかとか。


「まあともかく、これがうちの国の一番のお偉いさんです。いずれは紹介するつもりでしたが、想定外に早く関わることとなりましたね」

「異世界の人類が来たなどという愉快……愉悦……違うな。とにかく面白そうなことに我が動かんはず無いだろう?」

「今私の耳がおかしくなってなければ、愉悦とか聞こえたんですけど。……まあ、面白そうなことに首を突っ込んでくるのはいつもの事か……」


 はぁ、と何やら疲れた様子のヴェルサス。

 流されるまま、状況をイマイチ理解出来ないネネカは、ベッドの上から視線をヴェルサスと皇帝の間でうろうろさせることしか出来ない。


「あ、眠かったらもうちょっと眠ってても大丈夫ですよ。いざという時はコレ黙らせるので」

「コレやめろ」

「え、っと……起きてるので、大丈夫……です?」


 自分でも何が大丈夫かいまいち分からないネネカは、疑問そうに肯定する。

 一方のヴェルサスと皇帝ヴァメルは、上下関係が本当に在るのか分からないほど、何やら雑に無言で取っ組み合いを始めていた。


「体調はどうですか?丸一日眠っておりましたが」

「大丈夫……え?そんなに寝てたの?」

「唐突に眠りに落ちた要因が要因なのも有りますが、それ以上に余程疲れが溜まっていたのでしょう。ぐっすりと眠っておりましたよ」


 取っ組み合いながら至って普通に話してくるヴェルサスに若干の困惑を混じらせながら、ネネカは出来る限り普通に応対する。

 このままでは永遠に話が進まないと感じたが故。


「……あ、そっか。私ヴェルサスちゃんの血を飲んだら……」

「なんだ?お前の血、ついに睡眠作用まで齎すようになったのか?」

「出来なくはないかもしれないけど効果入れてねーです。睡眠薬ですよ。どうやら馬鹿メイド共が、料理に睡眠薬入れてたようで」

「なんでお粥に睡眠薬」


 眼前の現状以上のツッコミどころの出現によって、思わず素のテンションでツッコミを入れるネネカ。

 それに対し心底同感といった様子のヴェルサス。


「大前提として客人に出す料理にヤバいもん入れないでほしいのですがね。で、その作用と私の血の作用が混ざって、こういった結果に。すみません、本当に」


 片手でヴァメルを抑え込みながら、ぺこりと頭を下げてくるヴェルサスにネネカは慌てる。

 仮にも凄まじく偉い人物であるヴェルサスが、自身に直接の非があるわけでもないのに自分に頭を下げている事に、わたわたとどうしたものかと慌て。


「なんだ?睡眠薬にすら抵抗が無いのか異世界人は?」

「ヒューマンの癖して訳分からん生態してるおめーと一緒にするんじゃねえです」


 横からの皇帝の言葉に明らかに疲れを滲ませ、下げた頭からジトっとした視線だけが横野皇帝に突き刺さる。

 当の皇帝は、そんな視線を明らかに意にも介していないのだが。


「とにかくそういう経緯でして。本当にごめんなさい、既にメイドたちはシバいておいたので」

「ああ、えっと。気にしないから大丈夫。むしろ休み過ぎてごめんなさい」

「お気になさらず。保護すると言った手前、この程度はさせて貰わねば」


 しれっとメイドたちがシバかれたことは確実のようだが、それを全力で無視するネネカ。

 この屋敷のメイドに些か問題があるのは既に身を以って知っているので、相応の罰は下されたのだろうと適当に考え思考の外へ追いやる。


「で。次はコレの事を説明しなきゃですよね……」

「コレ言うな」


 頭を上げたヴェルサスが、更に疲れたように横の人物を見ながら億劫そうに呟く。

 横の人物。言わずもがな皇帝ヴァメルだ。


「……え、えと。皇帝様、お目にかかれ……」

「む、臣下の礼は不要である。貴殿は異界の者、故に我が国土に在れども、我が国の民ではないが故にな!」

「そうでなくてもコレに基本敬語等は不要ですよ。ああ勿論、公的な場では相応にはしてほしいですが」


 ベッドの上からでも出来る限りかしこまろうとしたネネカを、他ならぬヴァメルがそれを不要と言い、ヴェルサスが思いっきりよそ見してそこらの書類を纏めながら補足する。

 まあ当然、ヴェルサスの補足は皇帝に対してはアレなものであるため、ヴァメルは呆れたようにヴェルサスを見ながら言う。


「貴様は仮にも我が臣下なら敬語を使え」

「使ってますよ。私なりに。時と場合と場所を選んで」

「その時と場合と場所を把握した上で普通に敬語を使わんだろうが。使ってるとかどの口で言っとる」

「私のこの口にて」

「張り倒すぞ……?」


 ネネカからすれば、ヴェルサスの素の口調が時折崩れるとはいえ基本敬語なので、それで良いのではと思ったりもするが。

 しかし当人らには譲れぬ何かがあるのだろうと思い、とりあえずは何も言わない事にした。


「まあとにかく。こんなんですけど一応この国一番のお偉いさんです。ただ同時に国一番の自由人でもあるので、まあ公的な場以外では雑に接していいと思いますよ」

「雑に接されても困る時はあるのだがな?しかし公的な場以外で畏まられても面倒なのは事実。そなたも普段通りに話すが良い。我もこの通り、普段通りに話す」

「あ、普段通りでその尊大な口調なんだ……」

「ですね。デフォでコレです。痛い人ですね」

「痛い人言う必要あったか???」


 無かった気はする。


「まあ良い。して異界の者よ!貴殿の名はなんという?」

「えと、ネネカです。黒土寧音花……じゃない、ネネカ・クロツチです」

「?逆……ああ、いや。北西風の名か。まあそういうこともあろうな」


 ネネカの名に、一瞬ヴァメルは疑問そうな表情を浮かべるが、即座に名の法則性に気付きそれを受け入れる。

 異世界の住人をこうも容易く受け入れる辺り、この世界の人類は随分と柔軟なんだとネネカは考えたが……恐らくこの二人が柔軟過ぎるだけだと思い直す。

 人の上に立つ者の資格ではあるのだろうが、それにしたって柔軟過ぎると思ったが故に。


「ともあれネネカ!我が認め、我が許す!元の世界で得る筈の幸福も、我が国にて存分に堪能するが良い!国を代表して、貴殿の来訪を歓迎しようぞ!!!」


 ヴァメルは腕を組んで仁王立ちの上で、ネネカに真正面からそう言ってのける。

 それはまさに、この世界最大の国、その皇帝たる者の器量を表した姿と言葉。

 他の者に一切の異論を許さぬ、国の総意たる者の言葉であった。


「……ま、下手なことになるよりかはマシですかね」


 ヴェルサスは書類を纏めながら、軽くため息混じりに呟いていた。


「ところで貴方、マジで何しに来たんです?まさか単なる異世界の人類ってだけのネネカさんに会いに来ただけ、というわけでもないでしょうに」

「サボりに来た」

「コノヤロウ」

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