収支と一年
「一年の収支を出しました」
桐谷 凛がノートPCの画面を瀬川 湊と白石 楓に向けた。四月の半ば、三人が事務所に集まっている。桜は散って、新緑が窓の外を明るくしている。風に乗って若葉の青い匂いが入ってくる。
「四月から今月まで。十二ヶ月間の収入と支出。赤字です」
「知ってます」
「知ってるけど、ちゃんと数字で見ようと思って」
凛がスプレッドシートの画面を拡大した。
「初期資金百二十万。月の固定費が六万。年間の固定費が七十二万。機材の初期投資が十五万。衣装差分が合計五万八千円。オリジナル曲の制作費が二万。花よみさんの企画バナーが八千円。吸音材が六千八百円。その他雑費が三万。支出合計——九十九万二千八百円」
「約百万」
「約百万。で、収入。観光協会の月三万が十ヶ月分で三十万。プラス春企画の十五万。外注のマージンが——湊、累計いくら?」
「事務所のマージン分だけなら、十二件分で約十万八千円です」
「十万八千円。あとShortsの広告収入が年間で約二千円。合計——五十六万」
「収入五十六万、支出百万。赤字は——約四十三万」
「口座残高は——」
「七十六万七千円。初期資金百二十万から赤字分を引いた残り」
三人で数字を見つめた。赤字。だけど、百二十万が一年でゼロになったわけではない。七十六万以上残っている。
「月の赤字幅は縮小してるんですよね」
「最初の半年は月五、六万の赤字。後半は月一、二万。四月に入ってからは——ほぼ均衡。観光協会の春企画と外注三件が効いてる」
「つまり——二年目は、黒字化できる可能性がある?」
「可能性はある。外注が月三件を維持して、春企画が終わった後も観光協会との関係が続けば。それと——」
「収益化」
「そう。千人と四千時間。今の登録者は四百人ちょっと。再生時間は約二千時間。まだ遠いけど——確実に近づいてる」
楓が口を開いた。
「私——数字の話、前は苦手でした。九月に凛さんが教えてくれるまで、お金のこと全然わかってなかった。でも今は——この数字が、私たちの一年間だって思える」
「いいこと言うね」
「凛さんに教えてもらいましたから」
凛が缶コーヒーを飲んだ。微糖。いつもの味。
「数字は冷たいけど、嘘をつかない。七十六万残ってるってことは——まだ戦える。二年目もやれる」
三人で頷いた。




