*04*
朝、目が覚めるとまだフレンディの世界にいた。
鏡を見れば私が長時間悩んで作り上げたアバターがいる。
程よく肉付きがよく、くびれるところはくびれた姿のアバター。
もっともこの世界の村人のほうが胸は大きいし腰はくびれてるしでスタイルのいい人たちがそろっているんで、私のスタイルはこの世界ではきっと並だ。
顔だってカナンさんのほうがよっぽど美しい。
それでも少しでも見れるような姿でいたい。
ほんのり化粧をして、動きやすいシンプルな装飾の服装を選んで着替える。
簡単に朝ご飯を済ませ、夕方用の仕込みをして、各部屋に清浄魔法をかけて私は玄関を開けた。
家を出て朝一番にすることは郵便チェックだ。
結構大事なお知らせとかイベントの案内があるので、郵便チェックは必須である。
一通目はカナンさんから。
改めて今夜の招待状だった。気軽に来てね、というご案内。
読めない文字だと思ったけれど、自動翻訳されて理解できるからチート能力だと思う。
もう一通は、武器・鍛冶屋のベルクさんから、鉱石が足りないのだが持っていないかというお伺いだった。
必要な素材は鉄鉱石が10個とオリハルコンが5個。
鉄鉱石は入手しやすいけれど、オリハルコンは少し貴重な鉱石だ。
といいつつ、やりこみ魔の私。オリハルコンですらチェスト単位で在庫を持っている。
というわけで倉庫からとってきてベルクさんに届けることにしよう。
最後の一通は料理人のゼッフェさんからだった。
こちらも材料の調達依頼だ。
たまごが5個と、大きな風船かぼちゃ2個、それからほろほろジャガイモ10個。
たまご以外、すべて季節外れの野菜だ。だから入手できなくて困っているらしい。
もちろんこれらも私のチェストにはたくさんある。
私は手紙をインベントリにしまうと地下倉庫に向かった。
鉄鉱石10個とオリハルコン5個、たまご5個に大きな風船かぼちゃ2個、そしてほろほろジャガイモ10個。
私はチェストから必要な材料と、ほかにもいろいろ細々したものを取り出しインベントリに入れると、村に向かった。
私の居住区から街中は少し離れている。
谷間を抜けて草原地帯に出たときに「バウ」という鳴き声が聞こえた。
そちらを見ると真っ白な狼獣のフィンが私を見つけて駆け寄ってきた。嬉しそうに飛びついてくる。
なんだかものすごく可愛いんですが!
「おはよう、フィン!」
ずっと触ってみたかったもふもふのフィンを本当に触ることができて私は嬉しくなった。ぎゅうっとお日様のにおいがするフィンを抱きしめていると
「なんだろう、フィンに嫉妬してきたんだけど」
あとからゆっくり来たカナンさんが困ったように笑う。
「カナンさん、おはようございます。今朝手紙を見ました。今夜楽しみにしてますね」
私が言うとカナンさんはくすぐったそうにフフッと笑った。
いや本当、この人丸くなったよ。
初期のころなんて挨拶も最低限だったものね。
ああ、神様ありがとう。
あのころからのやり直しじゃなくて本当によかった。
「村に行くのか?」
「ええ。ベルクさんとゼッフェさんから相談を受けたので」
「まったく。みんな君の資材に頼ってるなぁ」
カナンさんはやれやれと息をついた。
「私はお役に立ててうれしいですよ。実際に使いきれないほど資材をため込みすぎてますし」
私は肩をすくめた。
「ちなみに一番多い資材で言えば、どれくらいあるんだい?」
聞かれて私は在庫を思い浮かべた。
一番多い資材は木材と石材だ。「そうですね。石材だけのラージチェストと原木だけのラージチェストがどちらも満杯で30個ずつあります」
私が言うと、カナンさんがぶふっと咽た。
「……それはそれは、うん。なかなか使い切ることはないだろうね」
「でしょう? 村からこのあたり一帯石畳にしてやっと半分くらい使えるか、ぐらいですもんね」
私たちは笑いながら村に向かった。
カナンさんは村長のところに税金を納めに行くんだって。
税金、私も請求が届いていたけれど、すぐに支払っているので終わってる。
ちなみに支払期限は今月末だったはず。
だから時間的余裕は十分だ。
「じゃぁまた夕方」
カナンさんは私の頭にキスをして村長の家のほうに歩いて行った。
私はベルクさんの武器屋のほうへ歩いていく。
カランコロンとベルを鳴らしながら店を開けると、ベルクさんの奥さんで隣のフロアで道具屋を開いているキャプトさんが鉢植えに水やりをしていた。
「おはようございます、キャプトさん」
「おはよう、アイル。何か欲しいものがあるのかい?」
キャプトさんはドワーフ族で見た目がっしりとした肝っ玉母さんだ。旦那さんのベルクさんもドワーフなので、とてもがっしりしてる。
「今朝、ベルクさんから素材の依頼を受けたの」
「ああ、ああ! もう持ってきてくれたのかい? ちょっとお待ちよ」
キャプトさんは水やりの手を止めると、居住区に続く扉を開けて「あんた! アイルが来てくれてるよ!」中に向かって大きな声で呼びかける。
中から、おお、というベルクさんの声が聞こえて、ほどなくしてベルクさんが出てきた。
「今朝の手紙なのに早いな」
「在庫があったからね」
私は頷いて鉄鉱石10個とオリハルコン5個をベルクさんに渡す。
「だからってオリハルコンだぞ? そうそう採れないのに」
「たまたま鉱脈見つけてね。だから在庫があったんだよ」
私は頼まれていた品をちゃんと納品した。
ベルクさんも確かに、と頷いておさめてくれる。
「報酬は月末に銀行に入金しておくよ」
私は頷いた。
キャプトさんがお駄賃だよって飴の瓶をくれた。
色とりどりの飴が入っていてかわいい。
私はお礼を言ってそれを受け取った。
二人にスコーンとベリーのジャムをプレゼントして店を出る。
キャプトさんとベルクさんはこのゲームを始めたとき、真っ先にお世話になる世話役の夫婦だ。
基本動作や採取の仕方、レベルの上げ方などを丁寧に教えてくれる。
この村で一番頼れるお父さんとお母さんみたいな二人だった。
このゲームでは住人にプレゼントを渡す。友好度を上げる手段として用いられるのだが、すでに私と村人たち全員の友好度は最高値に達している。もう必要ないかもしれないけれど私は習慣として出会った人たちにいろいろプレゼントをしていた。
次にレストランを営むゼッフェさんのもとに向かった。
レストランが開くにはまだ少し早いのだけど、カウンターで村長の娘のアザレがニコニコしながらカフェラテを飲んでいた。
「おはよう、アイル」
「おはよう、アザレさん。ゼッフェさんに今朝頼まれたものを持ってきたんだけど、いる?」
私が尋ねると、奥で作業していたゼッフェさんが顔をのぞかせた。
「おはよう、アイル。今朝頼んだの、もう持ってきてくれたのか?」
「おはよう。うん、これ。たまご5個に大きな風船かぼちゃ2個、そしてほろほろジャガイモ10個」
私がインベントリからそれらをひょいひょいと順番に出すと
「やっぱさすがだな。アイルに頼んで揃わなかったやつ、これまでまったくないぞ」
ゼッフェさんは嬉しそうに言って、それらをホクホクしながら確認した。
「確かに受け取った。ありがとう。報酬はまた振り込むな」
序盤だと納品ごとに報酬の物々交換があるのだけれど、一通りの物々交換が終わった今、対価はお金で支払われるようになった。
おかげで私の口座の額も結構やばい。
それはさておき。
「ゼッフェさんにプレゼント。アジの開き10枚」
私が乾物の魚を渡すとゼッフェさんはお礼を言って嬉しそうにそれを片付けた。
「アザレさんにはハンドクリームをどうぞ」
かわいらしい小瓶に入った私の自信作を渡すと彼女も嬉しそうに頬を染めた。
二人は顔を見合わせて嬉しそうにやり取りする。
この二人は仲良しカップルだ。見ていてほほえましい。
とか言いつつ、この二人も恋愛モードになったら攻略対象になるので、このゲームの恐ろしいところだ。
こんなに仲良いのに、私が二人を引き裂くことになるんだよ?
しかも、物分かりよく別れちゃうの。
そんなの絶対嫌だ。だから私はなるべく恋愛モードを起こさないように動いていた。
村での用事も終わり、道に落ちてる資材を採取しつつ家に戻る。途中で村人に会えばその人が喜びそうな手持ちのものを見繕ってプレゼントに渡して、話をして。
お昼前に私は自宅に戻った。
家の中に入る前に畑の収穫作業や家畜の世話、ガーデニングの見回りをしてから中に入る。
中に戻れば地下倉庫でインベントリの片づけをして、台所に入る。
私は保管庫から朝作ったサンドイッチを取り出すと簡単に食事をした。
食べ終えて片づけをした後、改めてキッチンに立つ。
朝仕込んで発酵させていた天然酵母のパンをガス抜きして分割して、成形して。天板に並べて最終発酵をしてやる。
天然酵母なので、現代人の私の感覚から言えば多少時間がかかるけれど、表面がパリパリになっておいしそうなんだ。実際美味しい。さっき食べたサンドイッチのパンだって最高だった。
発酵待ちの間に、ゆで卵を作って、ブロッコリーとカリフラワー、アスパラ、パプリカにズッキーニ、それにひよこ豆をそれぞれ蒸してやる。レタスは手でザクザクとちぎって水洗いし、ざるにあげて水切りして。蒸しあがった野菜たちを一口サイズにして、ざく切りにした玉子とオイル煮して解したツナとあえて、レタスの上にのせれば、見た目の彩満点なサラダの出来上がりだ。
フィンには味をつけてやれないけれど、私たち用にドレッシングも作って持っていく。
出来上がったサラダは私のインベントリに収納し、デザートのタルトを仕上げる。
朝のうちにタルト台を焼いて、カスタードクリームとクリームチーズを合わせたものを塗って冷蔵保管庫で冷やしていた。
その上に昨日カナンさんからもらったアーフを切って美しく並べる。
「うん、おいしそう!」
私は出来上がったそれに満足した。
最後に発酵が終わったパンをオーブンで焼き上げる。
高温で一気にばりっと焼き上げて、私は熱々のうちにインベントリに収納した。
もちろんフィン用に丸鳥のゆでたものもインベントリに入れた。
おかげでおいしいスープができた。冷蔵保存庫に入れているので、しばらくいろんなものに活用できる。
私は忘れ物がないことを確認して、台所に清浄魔法をかけた。
家を出る予定の時間までにはまだまだ十分時間があったので、簡単にお風呂に入って、髪を乾かし、服を着替える。
動きやすくてなおかつちょっとおしゃれな服に着替えて、インベントリに防寒着も念のため持っていく。
そうこうしていたら程よい時間になったので家を出た。




