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【1万PV感謝】レベル5デスの使いどころがありません!  作者: 角乃とうふ


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最終話 ありふれた異世界の片隅で

 気が付くと、昼の光が満ちるタナトス城の居間にいた。ベランダから差し込む陽光は、まるでオレの帰還を祝福するかのように、室内を明るく照らしている。突然現れたオレの姿を見て、さっきまで血気に(はや)っていた仲間達は、石化されたように呆然と固まった。


「オイッース!! 呼ばれて飛び出てジャジャジャーン!」


 (いにしえ)ネタのダブルコンボで明るくおどけてみたが、その場は逆に絶対零度のように冷え込んだ。やっちまった! ――出落ちで完全に滑った。その静寂を切り裂くように、メグミーヌが乱れた前髪を揺らしながら、胡乱(うろん)な目でツカツカとこちらへ歩み寄ってくる。


「ダーリン……」

「やぁ、マダム。ごきげんよう」

「何がごきげんようじゃ、ボケェー!!!!」

「ブベラ!!」


 アントン先生も真っ青の痛烈なビンタをお見舞いされたオレは、目の前にお星様が明滅する中、その場を竜巻のようにくるくる回って、仰向けに倒れた。『ウソ、また死んじゃうの?』本能が命の危機の非常サイレンをけたたましく鳴らす中、馬乗りになったメグミーヌに胸ぐらを掴まれたオレは、勢いよく上体を引きずり起こされた。

 吐息を感じるほど顔を寄せた彼女は、血がにじむほど唇を嚙みしめ、肩を震わせている。怒りと安堵が入り混じった黒い瞳は、涙で濡れていた。


「バカー!! ダーリンのバカァー!!!! 本当に死んだと思ったんだから!! 婚姻前に死なれたら――私、喪主もできないじゃない!」


 メグミーヌはオレの胸元に顔を埋め、堰を切ったように泣き崩れた。プロポーズの言葉だとしたら、斬新過ぎるぞ。しかし、無粋なツッコミができる雰囲気じゃないのは、空気を読めないオレでも、さすがに分かった。


「メグミーヌ。……心配かけてごめんね」


 オレは震える彼女を抱きながら、指先でその艶やかな黒髪を優しく()かしてやった。――これ、質が良いズラだな。


「タナトス!!」


 今度は、背後からエムエルがオレの首筋を抱きかかえるように、細い腕をギュッと巻き付けて来た。背中越しに、彼女の心音が早鐘を打つように脈打っているのが伝わる。


「良かった……。本当に……」


 安堵の声を呟きながら、彼女もまた小さく震えていた。


「エムエルにも心配かけたね。あっ、元のタナトスさんのことだけど――」

「もう、いいの。貴方がいればそれだけで……」


 そういって、涙を流しながらエムエルはオレに頬ずりする。えーと、そうなるとオリタナさんの立場は……。まぁ、本人が愛玩動物としての第2の人生を選んだんだから、良しとするか。


「エーンエーン! 社長が生きてたー!!」


 不意に、鼓膜をつんざくような叫び声が上がった。

 振り向くと、エミリールが迷子の子供みたいにギャン泣きして、立ち尽くしている。その目から溢れる涙が、日本古来の水芸のように止まらない。何魔法それ? 張り詰めていた空気が一気に弛緩した。

 メグミーヌも、エムエルも、そしてオレも。誰からともなく、吹き出すように笑い声を上げた。そんなオレ達を、サナエちゃんとデンキチさんが穏やかに見守っている。無機質なはずのゴーレムの目に、確かに温もりが宿っていた。


 ――あぁ、そうか。当たり前だと思っていたけど、みんなと笑えるって幸せなことだったんだな。なんで、こんな簡単なことに気付かなかったんだろう。


 小春日和の昼下がり、居間の空気を温かく感じるのは、気温のせいだけではないだろう。胸の奥がじんわりと熱くなる。笑い続けるオレの頬には、いつしか一筋の涙が伝っていた。こうして第三次魔人大戦の勃発は、未然に防がれたのだった。

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