第57話 所変われば品変わる
最近、存在感ステルスだった食いしん坊エルフのことを思い出したタナトス達。宿屋に迎えに行ったのは……。
「えーん!! 私を置いてけぼりにするなんて、ヒドイよー!」
「あー、ヨシヨシ」
宿屋にエムエルが迎えに行くと、フロントの隅のイスに座り込んでいじけていたエミリールが飛びついてきた。なんでも昨夜は、宿屋の壁に大穴を開ける程の大騒動があったこともつゆ知らず、スイーツ食べ放題の幸せな夢の中だったそうだ。昼前に『お客様、チェックアウトのお時間が来ておりますが……』と、従業員に催促されて渋々、部屋から出てフロントに行くと『お連れ様は、だいぶ前に出発されましたよ』と聞かされ、魂が抜けたように、ここにずっとへばりついていたらしい。
「それで、社長とメグミーヌさんは?」
「あっ、それは……。事件の事後処理があるとかで忙しいみたいよ。それで、私が迎えに来たのよ。2人が帰ってくるまで、何か甘いものでも食べに行きましょうか?」
「あ、甘いものって言えば私が納得するとでも思っているの! ……でも、エムエルさんの顔も立てないとね。エムエルさんのために! そうと決まれば、オススメの店を聞かなくっちゃ!」
あっさり機嫌を直した甘党エルフは、嬉々としてフロントの従業員に聞き込みを開始した。まさか、タナトスとメグミーヌは『エミリールのことは任せたよ。何、甘いものでも食べさせとけば、どうにかなるから』とエムエルにお守りを押し付けて、トキメキデートに出掛けましたとは、悪魔のエムエルでも口にするのを憚られる。『知らぬが仏とはこういうことね』エムエルは、心の中でため息をつきながら、まぁ、今回ばかりは大活躍のメグミーヌのために、骨を折ろうと覚悟を決めたのだった。
「いやー、いい眺めだな! 風が気持ちいい!」
「でしょ! この丘はエーデル・ヴァレイのちょっとした穴場スポットなのよ」
エムエルにエミリールのことを押し付け、もとい任せたオレ達は、小高い丘の上に立つ、千草色の三角屋根が可愛らしい、北欧ログハウスのようなレストランに来ていた。建物の周囲は綺麗に刈り揃えられた芝生が敷き詰められ、ポーチからは、エーデル・ヴァレイの美しい街並みが一望できる。ゆったりとしたひじ掛け付きのガーデンチェアに腰を沈め、高原野菜の前菜をつまみながら、白ワインで2人乾杯する。考えてみれば、昨日の晩からずっと飲んだくれているが、悪魔の肝臓はビクともしないのだ。正直、オレの強いところって、アルコール分解能力だけのような……。ちなみに、本日のオレは、鹿マスクの代わりにストローハットを被って、人間メイクを施したイケメン仕様となっている。
「しっかし、マダムがあんなに強かったとはね。黙っているなんて、人が悪いよ」
「隠していたつもりは……あるわ」
「え、なんで?」
尋ねたオレに、メグミーヌは両の手をギュッと握りしめながら叫んだ。
「モテたいんや!」
「は?」
「モテたいんや!!」
大事なことなので、2回言ったのか? ていうか、関西人じゃないだろ、お前。
「勘違いしないでよ! 私、結構モテるのよ! 大体、ズラなの知ってるのはダーリンだけだしね」
「確かにその秘密を知らなければ、マダムはパーフェクト・ウーマンだよね」
「もう! 本当のことでも照れるじゃない!! でも、男って、弱い女が好きでしょ。なんなら、強がっててて、ちょっと腕に覚えがあるけど、中ボス程度にピンチになって、『くっ! 殺せ!!』とか言ってる女騎士とか」
「何なの、無駄に細かいその設定……。でも、異世界に毒された男子は大体そういうの好きですね」
「けど私、半端じゃないから! 何なら、くっころとか言ってるヤツは、望み通り瞬殺しちゃうから! 可愛くないわよね、そんな女……」
「可愛いか可愛くないかで言えば、可愛くない」
「やっぱり、そうよね……。ダーリンも幻滅した?」
「だが、それがいい」
「!!」
自嘲して、うつむいていたメグミーヌがハッと顔を上げる。いや、ズラって分かった時から、お前に普通なんか求めてねえよ。それよか、このまま、どんどんオモシロ属性増やしてくれよ。正直、その方が好感度が増すってもんだ。
「やっぱり、私の惚れた男ね! こんな私を受け入れてくれるの?」
「まぁ、今回のことはびっくりしたけど、普通なんてつまんないじゃん。せっかく、お互い異世界転生したんだしさ。これからも、自然体で好き放題やっていこうぜ!」
「ダーリン!!」
メグミーヌがオレの首元に抱きつく。さ、酒くさ~。息を止めて、ジェントルにメグミーヌを椅子に戻すと、オレは話題を変えた。
「ていうかさ、マダムもそんだけ強かったら、魔王を討伐しようとか思わなかったの?」
「そんなこと、考えたことも無かったわ」
「え? どして?」
「最近はあの色魔がダーリンに夜這いかけたり、脳筋モンスターが農園に殴り込んだりしてきたけど、以前は、魔王軍が魔界を越境して、人間達に危害を加えたりしてなかったから」
「え、そうなの? オレの記憶が確かなら、転生直後に、魔王に全力で人間の村へ襲撃命令された気が……」
「ダーリンの転生が、この世界に何か変化をもたらしたのかもね」
「いわゆる1つのバタフライエフェクトってヤツか」
でも、オレのせいじゃないからね。オレだって、ゴッドエラーの被害者だぞ。
「それに、魔族にもエムエルとかセーレとか、まともな娘もいるじゃない。それを思うと、正義だ悪だの言ったって、置かれた立場で変わるかもしれない。だから、よそ者の私が、軽率にこの世界の運命を決定づけるような行動はしたくないのよ」
「なるほどねー。そういうところは、結構ドライなんだ」
「ま、この世界のかじ取りはこの世界の人に任せるわ。私は私の半径1mの幸せを守れればそれでいいのよ。もちろん、ダーリンに危害を加えるつもりなら、魔王だろうが魔神だろうが全力で叩きのめすわ!!」
「うっ!」
「ど、どうしたの、ダーリン?」
「どうしよう? マダムがカッコ良くて、マジで惚れちゃいそうなんだけど」
「やだ! もう、遠慮なく惚れちゃいなさい!!」
メグミーヌがさして酔ってもいないのに、顔を真っ赤にしてオレの背中をバシバシ叩く。正確には、異性としてというより、男が男に惚れる感じだけどね。オレも考え方が近しいせいかもしれない。気心が知れた仲間とワイワイガヤガヤ楽しく日々を過ごせたら、それでいいやと思う。何となく親近感を深めたメグミーヌと良い雰囲気になっていると、オープンテラスの少し先の崖の手前で、キャンバスを広げて油絵を描いている女性が視界に入った。あれ? さっきまで、あんなところに人いたっけ?
今のところ、このラノベには登場しませんが、筆者もくっころは大好物です(笑)




