第55話 罪を憎んで悪魔憎まず
久々のバトルも、メグミーヌの圧倒的破壊力であっさり終了。さーて、断罪の時間ですよ。
「こんばんわー。お届け物でーす」
「だ、誰だ⁉ こんな夜中に! 出先で通販なんか頼んでないぞ?」
ユリウスの寝所に乗り込んだオレ達は、目の前に、荒縄でぐるぐる巻きにしたヴィゼを転がした。すかさず、エムエルが部屋の明かりを付けてやる。ベッドから身を起こし、寝ぼけまなこで目をこすっていたユリウスは、薄暗がりの中、変わり果てたヴィゼを見て、絶叫した。
「なんじゃこりゃー!!」
「それは、ユア・スイート・ハニーだよ」
「な、何言ってるんだ! 僕のハニーは今も隣に……あれ? なんだこの抱き枕?」
ユリウスの傍らには、ピンクの円筒型の抱き枕が転がっている。
「幻影魔法を見せられていたのね。私もまんまと騙されたわ」
エムエルが悔しそうに呟く。
「幻影魔法って……。彼女は普通の町娘だぞ⁉」
「王子様。普通の町娘に、こんなしっぽは生えてませんぜ」
オレはそう言って、ヴィゼの黒いしっぽをつまんで見せた。
「な、なんだそれは! ……ひょっとして、悪魔?」
「ご名答。オレも、さっき危うく殺されかけたところだよ」
信じられないといった表情で青ざめるユリウス。そこで、先ほどエムエルが最低限の回復魔法を掛けたヴィゼが目を覚ます。
「……っ痛。いったい何が起こって……。そうだ! 私、オカマゴリラにボコられて……」
「ホワター!!」
セリフを言い終わる前に、メグミーヌの延髄切りがヒットして、ヴィゼは白目をむいてまた気を失った。
「ちょ、メグミーヌ! また回復させるの超手間なんだけど!!」
「悪魔死すべし!」
エムエルの抗議に、全く取り合わないメグミーヌは、腕組みしてフンっと顔を逸らした。ため息をつきながら、エムエルが再びヴィゼに回復魔法を施す。
「……っ痛。いったい何が……。そうだ、私、またオカ……ムググー!!」
「無限ループが続くから、とりあえず黙りなさい!!」
メグミーヌの殺気を感じたエムエルが、ヴィゼの口を両手で塞ぐ。
「どういうことなんだ、これは……」
「まぁ、端的に言えばハニートラップってヤツっすね。詳しいことはまだ聞いてないけど、彼女、魔王の四天王みたいですよ」
「そ、そんなバカな!! ぼ、僕の純愛が……」
ユリウスがガックリと膝をつき、さめざめと泣き出す。オイオイ、お前ホントに勇者かよ。まぁでも、失恋は誰にでもクリティカルヒットだからな。しかも、相手はサキュバスだ。さぞ、いい夢見せてもらったんだろ。羨ましいぞ、コンチクショウ! ……じゃなくて、天国から地獄への急降下には、同じ男として同情を禁じ得ないな。などと自問自答に耽っていると、ムームー言ってたヴィゼが、何やらアイコンタクトでエムエルに伝えようとしていた。
『あなた、エムエルでしょ⁉ 生きてたのね! 私よ、私、ヴィゼよ。魔界の魔法学園で一緒だった……』
『それ、口に出したら殺すわよ』
『エーン。同期のよしみで命だけは助けてよ~』
『ダメ。あなた、私の大切な人の命と貞操を奪おうとしたでしょ』
『そんな~! サキュバス的本能に従った、出来心だったのよ~。あなたの大事な人って知ってたら手なんか出さないわよ~』
涙目のヴィゼの口を押える手に力を込めるエムエル。Sなのか? ドSなのか? ま、それはさておき。
「というわけで、あとはお願いしますね、王子様」
「待ってくれ! 私1人でどうしろというのだ⁉ 助けてくれ!!」
「いや、一応、魔王の刺客からすでに助けてるんですけどね。これからの尋問だか処刑だかは、お国の法律やら王子のさじ加減次第でしょうし」
「そんな冷たいこと言わないでくれよ~! 僕と君との中じゃないかー!!」
昨日、散々ディスりまくったオレの腰にすがって、ユリウスが泣きべそをかく。さすが、悪役王子。見事な手のひら返しだ。
「ねぇ、マダム。どうしたもんかね」
「死刑一択! 即刻処刑!!」
鼻息荒く、メグミーヌが即答する。まぁ、オカマゴリラ呼ばわりされては、お怒りもごもっともだな。
「ムー! ムー!」
エムエルに猿ぐつわをかまされたヴィゼが、必死に目で助けを乞う。縛り上げられ、床に横たわるそのなまめかし姿は、ソフトMのオレと言えど扇情的に映る。ウム、悪くない。敵ながらあっぱれだ! チラッとユリウスを見ればこちらも若干、頬を赤らめて鼻の下を伸ばしている。アナタモスキネー。
「王子はどうしたいんですか?」
「えっ⁉ えーっと、ま、罪を憎んで人を憎まずって言葉もあるしな……」
「おっしゃる通り、憎しみはさらなる憎しみを生むだけだと思います。それに、彼女からは魔王軍の情報を聞きだしたり、ともすれば、魔王との交渉の道具に使えるかもしれません」
「そ、そうだよな! さすが獣人、いや、鹿男さん! そうだ! そのとおりだ!!」
相手が男だったら瞬殺のところを、スケベ心でもっともらしい話の流れを作るオレ達。出会いは最悪だったが、やはりオレ達は同じ穴のムジナだな、ユリウス。一方、話の流れに不満を隠し切れないメグミーヌが口を挟んだ。
「だけど、仮にも四天王よ。脱走でもされたら、面倒じゃない? まぁ、私が見つけたら、今度はどてっ腹に風穴空けてやるけど」
「ムー!!」
『やめてー!』とばかり、ヴィゼが首をフリフリ拒絶する。けしからんな、その言葉ぜめ。いいぞ、もっとやれ。しかし、この場で唯一まともな性格のエムエルが、憐憫を込めた眼差しをヴィゼに向けたあと、ため息をつきながら提案した。
「魔力を封じる魔道具があるわ。それを装着すれば、この悪魔はただの女よ」
「!!」
我が意を得たりと、オレとユリウスは目を合わせる。ただのエロいサキュバスが捕虜。最高じゃないですか! オレとユリウスは心が通じ合ったと、どちらかともなく右手を差し出し、がっちりと握手した。
「鹿男さん! 見事な裁きだ。今までの非礼、心よりお詫びする。あなたとは、良き友人になれそうだ。これからもよろしくご指導ください!」
「こちらこそ、よろしくお願いします! とりあえず、先ほどの大立ち回りで破壊した部屋の修繕費を頼みます!」
「お安い御用です! ……って、今月豪遊し過ぎてピンチなんだよな。家主に相談して、来月までツケにしてもらよう頼んでみるか……」
ユリウスはそう呟くと、ロダンの『考える人』のようなポーズで金策に耽りだした。事情を知らない人が見たら、魔王討伐作戦を真剣に練っている勇者のよう見える。かっこいいぞ、王子!
みんなも、おこずかいの利用は計画的にね。




