第54話 中国4千年の歴史を舐めると痛い目見るアルよ
「なっ⁉ 強固な結界を張っているはずなのに、どうして!?」
ヴィゼが驚いて、部屋の入り口の方を振り向く。廊下の明かりが逆光になって判然としないが、女性らしき人影が見えた。メグミーヌ?
「私だって、夜這いするのを必死でガマンしてるのに! この売女あぁ!!」
「だ、誰が売女よ!! どうやって、結界を解いたか知らないけど、人間の女1人、丸腰でどうしようっていうんだい⁉」
「二度と腰が振れない体にしてやるわぁ!!」
そう叫ぶとメグミーヌは、羽織っていたガウンとズラを豪快に投げ捨てる。次の瞬間、オレの目の前には、拳法着を着たスキンヘッドが仁王立ちしていた。クリ〇ンにしては、身長高過ぎないか? って、ツッコんでる場合じゃないな。相手は四天王だ。そんなオレの心配をよそに、メグミーヌは荒ぶる鷹のポーズを決めると、盛大に決めゼリフを吐いた。
「太極拳の神髄、その身で味わうがいい!!」
「捨て身のボケはいいから、オレに構わず逃げろ! そんな健康体操でどうにかなる相手じゃないぞ!!」
せっかくのサキュバスサービスに水を差すんじゃないよ。空気読めよ、ハゲ。しかし、逃走チャンスを与えるつもりなど無いヴィネは、不敵な笑みを浮かべながら、ベッドを降りてメグミーヌへと近づいて行く。
「この姿を見られたからには、生かしちゃおけないね~。それに、女は楽に死なせないよ。っていうか、その頭、オカマ? 私、女は嫌いだけど、オカマはもっと許せないのよね~」
ニタニタ笑いながら、メグミーヌとの距離を詰めるヴィゼ。右手には濃い紫色の魔力の塊を浮かべている。一方、メグミーヌはあっさり構えを解いてうつむくと、プルプル震えだした。おいおい、今頃ビビったのか? だから、早く逃げれば良かったのに。仲間が殺されたら、さすがにオレも後味悪くて、お楽しみのドキドキ腹上死を堪能できないだろうが。
「さっきまでの威勢はどうしたの、おかまちゃん。恐怖で足がすくんじゃった? 今度生まれてくる時は、男か女かはっきりしなさいよね~」
「誰が……」
「ん?」
「誰が、オカマじゃ、ボケェー!!!!」
メグミーヌは絶叫するや否や、渾身の右の掌底をヴィネのみぞおちに叩き込んだ。
「ウゲェッ!!」
耳をつんざく悲鳴をあげながら、ヴィネの体がくの字に曲がる。
「ばっ、ばかな!? 幾重にも施した対物理防御障壁を……」
「アータタタッタタタタタタターー!!!!!!」
ヴィネの中二病的説明を聞く耳皆無のメグミーヌは、間髪入れず、上下左右あらゆる角度から拳の弾幕を放ちまくる。スタープラ◯ナもしくはケンシ〇ウばりの激しいラッシュが止まらない。
「ブベッ! ブベラッ! ボグァ!! ボッ、ボウヤメ⋯⋯」
「ホワッチャーー!!!!」
窓際に追い込まれたヴィネに、メグミーヌがとどめとばかりに凄まじい回し蹴りを放つ。巨人が振り回す戦槌のような重い一撃を受けた哀れなセクシー悪魔は、窓ガラスもろとも無惨に吹っ飛び、階下に墜落した。騒ぎを聞いて駆け付けたエムエルが、お尻を突き出して地面に突っ伏したまま、ピクリとも動かないヴィネを呆然と見つめる。
「ダーリン、大丈夫!! 痛いことも、エッチなこともされてない⁉」
「……」
驚愕のあまり、言葉を失うオレ。メグミーヌは何事もなかったように、ズラとガウンを身に付けると、にっこりと微笑んだ。……命の恩人に対して悪いんだけど、正直オレ、あなたが怖くてオシッコちびりそうです。
説明しよう。朝公園で老人集団がやっているのは簡化太極拳。メグミーヌが使ったのは、実戦的な忽雷架式太極拳に魔力を込めて威力を増大させたものなのだ。
ちなみに、アル中のホームレス老師から手ほどきを受けたという裏設定があるのですが、作者のやる気と需要があればスピンオフで書くかもしれません(笑)




