第53話 願わくば 花の下にて春死なん
ゆっくりパフェを食べてから、街をブラブラ散策した。あれだけ目立つカップルだから、尾行するまでもないだろう。案の定、ちょっと聞き込みしただけで、滞在している宿屋はすぐに見つかった。思った通り、エーデル・ヴァレイの1番良い宿の、そのまた1番良い部屋にご宿泊だった。分かりやす過ぎるぞ、ユリウス。本当に忍ぶつもりはあるのか? とりあえず、オレ達も同じ宿の本館2階スタンダード・ルームにチェックインする。もちろん、オレの安眠のためシングル4部屋だ。王子達は離れの別棟を貸し切りにしているらしい。昼間にパフェを食べ過ぎたので、軽めの夕食を取りながら、王子の張り込みについて相談すると、エムエルが寝ずの番を買って出た。1人は大変だから、交代で見張りに立とうと提案したが、
「王子はともかく、連れの女が少し気になってね……。ここは、私に任せて頂戴」
と、かたくなに譲らなかった。『エムエルもあのお姉さんに興味あるの? ひょっとして、両方行けるクチ?』
と言おうとしたが、オレのほっぺに派手な紅葉が張り付きそうなので、やめておいた。まぁ、せっかくなので、今夜はじっくり惰眠を貪ろう。やっぱ熟睡したいときは1人部屋に限るよねっと、部屋に向かおうとするとオレを、メグミーヌが呼び止めた。
「ねぇ、ダーリン。寝る時は鹿マスク脱ぐのよね」
「そりゃ、そうだよ。こんなの被ってたら寝苦しいだろ」
「何か嫌な予感がするの。寝込みを襲われても身バレしないように、人間メイクをしておいてあげる」
「えー! 寝る前にメイクするなんて、お肌にケンカ売ってるようなもんじゃん!! それに、フラグが立つような不吉なこと言うなよ。ただでさえ、誰かさんのせいでラックの値が芳しくないんだから……」
そういいながら、隣のエミリールを見ると、我関せずと、食後のショートケーキ3個目に突入中だった。こいつ、どれだけ食べるんだ……。
「明日、ちゃんとスキンケアしてあげるから! あと、何かあったらすぐに呼びなさいよ!」
姉御肌のメグミーヌにしては、やけに心配してるな。仕方なく、されるがままに人間メイクしてもらい、ツノ隠しに、ス〇夫のようなナイトキャップを被った。ま、色々あったけど、とりあえず、これでやっと寝れますな。昨夜は豪華部屋に興奮して、眠りが浅かったこともあり、ベッドインするやいなや、オレはダストシュートを滑るように、深い眠りへと落ちて行った。
「ねぇ、坊や~。私と良いことしない~?」
「します!!」
誰かの甘い囁きに、オレは条件反射でガバっと身を起こした。時間は分からないが、真夜中なのは確かだろう。目を凝らすと暗闇の中、怪しいオーラに包まれた人影が現れた。
「昼間、カフェにいた人よね~。被り物で変装してたみたいだけど、私の目はごまかせないわよ~」
勝ち誇ったように笑うのは、昼間ユリウスの隣にいたセクシーお姉さん。あぁ、ごまかせて良かった〜。メグミーヌが心配してたのはこういことか。オレの正体が悪魔ってバレたら、色々面倒だからな。しかし、お姉さん、夜はさらにエロエロな格好になってんな。漆黒のボンテージに身を包み、お尻には尻尾なんか生やしちゃって⋯⋯。しっぽ?
「気付いたようね〜。私、悪魔なの。王子様との仲を邪魔する悪い子には、消えてもらうわ〜」
「えー、ちょっと待ってください。メガネ、メガネと」
普通に目が悪い風を装って、ゴッドグラスを掛けてみる。お姉さん、レベル58。なんだよー、またしてもタイトル回収話か。……仕方ない、逃げるか。
「坊や、逃げようと思っても無駄よ〜。この部屋、ガチガチの結界張っといたから」
「なるほど、詰みですね。では、せめて楽に逝かせてください」
設定温度16度の冷房並みにクールなオレは、ベッドの上で丁寧にお辞儀した。
「あ、あなた、諦めが良過ぎなくて⁉ もうちょっと、抵抗とか、助けを呼ぶとかあるでしょ?」
「まぁ、オマケみたいな余生なもんで。眠るように逝けるなら、無しよりの有りです」
「へ、変な奴⋯⋯。でも、見た目はわりと良い男ね。特別サービスで快楽に溺れながら、昇天させてあげても良くってよ?」
「そんなこと、出来るんですか?」
「そりゃ私、サキュバスだから」
「なっ!?」
あのエロマンガ御用達のサキュバスパイセンですと! これは、全スケベオヤジが夢に見る腹上死チャンスでは!? いかん、これから殺されるかもしれないというのに、ワクテカが止まらない!!
「よろしくお願いしまーす!!」
「そ、そんなに期待されると逆にやりづらいけど、まぁ、いいわ」
にじり寄るお姉さん。オレはベッドの上で大の字になった。もう、煮るなり焼くなり好きにしてください。お姉さんは、恍惚とした表情を浮かべてオレに馬乗りになった。
「あの、最後にお名前を伺っても、よろしいでしょうか?」
「フフッ、坊や。私の名はヴィネ。魔王軍新四天王が1人よ」
「ヴィネさん……」
こういうのは、名前を知っておいた方が、燃えるもんね。オレは高まる鼓動を感じながら静かに目を閉じた。その時だった。ドッガァーン!! 盛大な炸裂音とともに、部屋の扉が吹っ飛んだ。




