第52話 アンガーマネジメントができたら大人の仲間入りさ
なっ⁉ あれがオレのソウルブラザーだと? メグミーヌに告げられたオレは、ユリウス王子をしげしげと観察する。年の頃は20歳前後か。2mはありそうな上背にガッチリとした立派な体躯。見るからに重そうな西洋甲冑を身に纏い、左の腰にはゴテゴテした装飾のついた長剣をぶら下げている。金髪のパーマ頭を人差し指でやたらとクルクルする仕草が、何気にイラつく。しかも、リリア王女に似て、顔立ちが綺麗に整っているのが、余計癪に障るぞ。一方、お連れのセクシーお姉さんは、濃紫のスリップドレスに同色のアイラインを引いた、厚化粧なミッドナイト仕様。黄金の輪っかを首と右手首に巻き付け、けだるい表情で細長いタバコを吸っている。真昼間のカフェに、これほど不釣り合いなファッションも無さそうだ。人を見た目で判断してはいけないとは言うが、彼女のルックス的に絶対ユリウスは騙されていると、オレのセブンセンシズが囁く。と、ガン見し過ぎたせいか、ユリウスがこちらの視線に気が付いた。
「なんだ、お前ら? あ、そこにいるのはメグミーヌじゃないか!」
「お久しぶりでございます、殿下」
メグミーヌがコンマ数秒、眉間にしわを寄せたが、すぐに完璧な営業用スマイルでユリウスに近づく。
「最近、田舎に引っ込んだと聞いていたから心配してたよ。しかし、王都を離れても、君の美しさはいささかも衰えていない。まさに、枯れないバラだな!」
「相変わらず、お上手ですこと」
「ハッハッハー! だけど、君ももったいぶって、僕のプロポーズを保留にしたのはまずかったね。その間に僕には素敵なハニーができたのさ。まぁ、第2夫人で良ければ席は空いてるけどね」
「ちょっと、王子~。他の女を口説いちゃだめよ~」
「ハッハッハ! 社交辞令に決まっているじゃないか、ハニー」
そう言われたハニーもといセクシーお姉さんは、勝ち誇ったような薄ら笑いを浮かべる。
「とってもお似合いですわよ、殿下。私などの出る幕はございませんわ」
「さすがに審美眼は確かだね! ……でもないか。なんで、臭い獣人なんかとつるんでるんだ?」
失礼なやつだな。獣人が聞いたらキレるぞ。まぁ、オレ偽獣人だから怒らないけど。メグミーヌは若干、目をつり上げたが、平静を装って、オレを事務的に紹介した。
「この方は、ディア&ディアー代表の鹿男さん。私のビジネスパートナーですの」
「お初にお目にかかります、殿下」
メグミーヌを真似て、オレもとりあえず偉い人向けの挨拶をしてみたが、ユリウスは汚物を見るような嫌悪感のある視線をオレに向けた。
「獣人の分際で、何勝手に僕に話かけてるの? やさしい僕じゃなかったら、不敬罪で打ち首だよ。ん? あぁ、あのピヨカン農家か! あれは良かったよ。これからも、土と汗にまみれてウォールダム王家にせっせと献上に励むが良い。そうすりゃ、僕の足の裏でも舐めさせてあげるよ。獣人は舌長いからペロペロが得意なんだろ。ほらぁ、ペロペロ~」
「もう! 王子ったら、ウケる~!!」
不敬な2人が指差して、オレをゲラゲラ嘲笑った。メグミーヌも愛想笑いを浮かべてはいるが、両の拳を強く握って怒りに震えている。当のオレは、『かなり屈折してるなー、この王子。一度心の闇を覗いてみたいもんだ』と他人事のようにぼんやり考えていた。オレも伊達に前世でブラック企業に揉まれていない。お前に食らった程度の罵詈雑言はデンプシーロール並みに日々受けていたからね。そんな蚊トンボパンチじゃ、オレの不感症のハートは傷1つ付かないぜ。などど、鹿マスクの下でドヤ顔していると、エムエルがさっと前に進みでた。
「恐れながら、ユリウス殿下。ウォールダム王国では獣人も人族と平等の権利を与えられているのでは?」
「なんだ、お前は? ちょっ、下手したら僕よりイケメンじゃないか⁉ ……じゃなくて、なんだ、獣人の権利? あぁ、父上が昔、そんな王令出してたような気もするけど……」
「王子たるものが王令を無視した言動をなさるのはいかがなものかと。周囲の目もありますゆえ」
「な、なんだよ! ちょっとした冗談だよ。な、獣人!」
「はいケーン」
オレは愛想よく答えてやったが、ユリウスは明らかに動揺して辺りを伺う。さすがに、店内でデカイ声でディスってたら、そらみんなに聞こえるでしょうよ。他の客が白い目でユリウスを見ている。中には屈強そうな熊の獣人もいて、丸太のような腕を組んで大層ご立腹の様子だ。
「な、なんか、興が削がれたなー。ハニー出ようか」
「え~、パフェ全然食べてないんだけど~」
「こんなとこより、もっといい店に連れて行くからさ!」
しぶるお姉さんの手を引いてユリウスが鎧をガチャガチャさせながら、店外へと出て行く。お姉さんがエムエルに一瞬鋭い目線を投げかけた気がしたが、メグミーヌが頭を下げるのに倣って、オレとエムエルも頭を垂れる。2人が去って、店内が静けさを取り戻したあと、不意にメグミーヌがオレを抱きしめた。
「ムホッ⁉」
「ダーリン! よく耐えたわね! あの王子、バカだとは思ってたけど、あそこまで脳みそスポン〇ボブだとは思わなかったわ!!」
「まぁ、あれくらいの悪口なんて挨拶みたいなもんだから、気にしてないよ」
「タナトスが気にしなくても、私は気にする」
エムエルも怒り心頭のようだ。おいおい、背中のどす黒い瘴気は抑えましょうね。
「周りに人がいなかったら、消し炭にしてやってたわ」
「そのわりには、スマートに場を収めたわね。おかげで、私も殴りかからずに済んだわ」
「鹿男様の執事として当然の責務です」
エムエルはニヤリと笑い、緊張の解けたメグミーヌもやっと笑顔を見せた。『あぁ、何気に良い仲間に恵まれたなぁ』とジーンとしていたオレは、そういえば、もう1人仲間がいたことを思い出した。自分達のテーブルに目を戻すと、さっきまでの騒動そっちのけでパフェを貪り食っている、意地汚いエルフと目が合った。
「な、なによ! チョコプレートは私のキュートなお腹の中よ。いいでしょ、別に!」
「チョコプレートどころか、パフェほとんど全部食べちゃってるじゃんか」
「だって、美味しかったんだもん! パフェと地頭には勝てぬって言うでしょ!」
言わねーよ。ていうか、なんでエルフが地頭なんてワード知ってんだよ。と、ツッコミどころは満載だが、残った僅かな生クリームまで食べ尽くそうと、必死でスプーンをかき回すエミリールを見てると、なんだかどうでも良くなってきた。こういう能天気な奴も、ハンバーグ定食の付け合わせのニンジンみたく、1人くらいいてもいいか。
「すみません、お客様。ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません」
カフェの店主が恐縮した面持ちで、オレに謝罪にやってきた。
「マスターが謝るようなことじゃないですよ」
「いえ、せめてお詫びに何かサービスさせてください」
「じゃあ、さっきのお客さんが手を付けずに帰った、巨大パフェをそのままいただいていいですか?」
「そんな! 新しく作り直します」
「オレの故郷では、そんなことするともったいないお化けがでるんですよ。それでいいです」
それからオレ達4人は長い時間を掛けて、エクスカリバー・パフェと楽しく格闘を繰り広げたのだった。
みんなで食べるスイーツは美味しいよね。




