第51話 探偵の仕事って実際は地味らしいよ
「もう! どうして起こしてくれなかったのよ! 私も王女様に会いたかったのに!!」
翌朝、赤エルフから白エルフに戻ったエミリールがプリプリ文句を垂れた。『うるせーな。お前が勝手に酔いつぶれたんだろ』などと紳士なオレは言わない。
「フッ。エミリール君の寝顔が余りに幸せそうだったので、素敵な夢路の邪魔をしたくなかったのさ」
「社長、なんて思いやり深い人⋯⋯。ハグしてあげる!」
「いや、酒臭いので近寄らないでください」
二日酔いエルフを適当にいなすと、オレは作戦会議を開いた。
「リリア王女の話だと、エーデル・ヴァレイに王子様も来てるってことだよな」
「そうみたいね。でも、この別宅は使わずに、街の宿屋にお忍びで滞在しているらしいわ。その時点で、怪しさ満載よね」
「マダムは王子に会ったことあるの?」
メグミーヌに尋ねると、苦虫を潰したように顔をしかめた。
「王宮で一度ね。初見でプロポーズされたわ」
「すごいじゃん! 玉の輿確定だ!」
「いや、あの人ちょっと綺麗な女見ると、すぐ求婚するのよ。結婚指輪がポケットに常に十数個ジャラジャラ入ってるって噂よ」
「うわぁ……。でも、プロポーズ受ければ、夢の左団扇生活が約束されるんでしょ?」
「今は、王様におこづかい減らされてるから、そこまで羽振りは良くないわよ。それに、日頃の悪評のせいで、リリア王女に王位を継いでもらった方が良いって声も高まってるし、下手すりゃ泥船ね。それに一番重要なのは……」
「重要なのは?」
「顔が全っ然好みじゃないのよ! ていうか、生理的に無理!!」
「そ、そんなに酷いお面なの?」
「世間一般的には、普通にイケメンよ。ただ、何かムカつく顔してるっていうか、虫酸が走るというか」
「言い方⋯⋯。ま、好みじゃないんならしょうがないね」
「今はダーリン一筋だから、安心して!」
メグミーヌがオレに好意をもっているのも、イミフだけどね。同じ転生者という親近感はあるにしても、彼女のズラの秘密を共有したのが事の発端とは、縁は異なものなり。
「ま、とりあえず街に出て、王子様を探してみますか」
「街! 街に行くの⁉ 私、オシャレなカフェに行きたい!!」
「話を聞いていたのかな、エミリール君。これはリリア王女から勅命を受けた大事な調査だ。遊びではないのだよ」
「わ、わかっているわよ! バカにしないでよ! 小粋なエルフジョークよ!」
エミリールさん、目が泳いでいますよ。
「うわぁ。うまそうなパフェだな!」
「パフェパフェ♪」
とりあえず、街に出たオレ達は、腹ごしらえも兼ねて手近なカフェに入った。そこで、当店看板商品という、デラックス・スペシャルパフェを1つ注文してみたのだ。男は大人になると、こういうものは頼みづらくなるが、ここは異世界。人目を気にする必要はない。大ぶりの深皿に盛られたボリューム満点のパフェを前に、さあどこからつつこうかと、エミリールと2人、スプーンをぶらぶら揺らしていると、呆れたメグミーヌが聞いてきた。
「ねぇ、さっきこれは遊びじゃないんだとか言ってたのは誰だっけ?」
「え? そんなこと、誰が言ったんだ? それに昔から良く遊び良く働けとかいうじゃない」
「そうよ、メグミーヌさん! これが良い仕事に繋がるのよ!」
エミリールが合いの手を入れるが、もちろんメグミーヌには全く響かない。
「まぁ、パフェくらい好きにすればいいけど。……ところで、あなたはいつまでその恰好でいるつもりなの?」
そう問い掛けられたエムエルは、昨夜の執事姿のまま、足を組んでブラックコーヒーをすすっていた。
「……この格好が気に入ったから、エーデル・ヴァレイ滞在中はこれで通すわ」
あ、やっぱり気に入ってたのね。かくいうオレは、鹿マスクは被っているものの、半袖シャツにショートパンツといった、ラフなリゾートファッションに着替えている。テーブルを挟んで向かいに座っていたエミリールは、パフェをしばし観察した後、上目遣いにオレに尋ねてきた。
「ねぇ、社長。私のこと好き? 大好きよね?」
「エミリール君のことは嫌いじゃないが、そのチョコプレートは渡さないぞ」
「何よ、ケチ! レディファーストって言葉を知らないの?」
「今の時代は男女同権なんだよ、エミリール君」
などと、チョコプレートを2人で取り合っていると、後方から歓声が聞こえる。振り向くと、あり得ない高さにモリモリに盛られたパフェが斜め後ろのテーブルに運ばれていた。
「お待たせしました! 特注された、エクスカリバー・パフェです!」
「まぁ、素敵! でも、こんなに食べられないわ~」
「ハッハッハー! こういのは出オチみたいなもんだからね。ちょこっと食べたら、後は全部残してもいいんだよハニー」
夜のお店から出てきたような、太もも露わな露出度高いお姉さんに、白銀のメタルプレートに身を包んだ金髪騎士が笑いかける。ケッ、いけすかねぇ。お前ら、もったいないお化けに呪われちまえ。そう思っていると、耳元でメグミーヌが囁いた。
「ダーリン、あれがユリウス殿下よ」
それが、王子との出会いだった。
そういえば、最近スイーツ男子って聞かなくなったよね。




