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【1万PV感謝】レベル5デスの使いどころがありません!  作者: 角乃とうふ


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第39話 してもしなくても後悔するのが結婚

「エミリール。そろそろ結婚してはどうかの?」

「ブー!!」


 平常運転に戻ったタナトス農園の昼下がり。エムエルの焼いてくれたドーナツを頬張りながら、みんなで優雅にティータイムと洒落込んでいたら、モーリスが唐突に爆弾発言を投下した。返す刀で鉄砲魚のような勢いで、エミリールが口に含んでいた紅茶をモーリスの顔面にぶちまけた。


「ちょっ、おじいちゃん! ボケるのも大概にしないと施設に放り込むわよ!!」

「ホッホッホ。エミリールや、それは世間では老人虐待というんじゃぞ。しかし、ボケではない。マジじゃ」


 モーリスは紅茶まみれの顔をタオルで拭きながら、にこやかに続けた。


「ワシがはしゃぎ過ぎたせいらしいが、今回の報復に魔王軍がいつまた攻めてくるとも限らん。抑止力を高めるためにも、この農園とエルフ族との結びつきの強固さをよりアピールした方が良いと思うんじゃ」

「えっ! つまり、私と社長が結婚⁉」

「めでたいのう」


 驚きと喜びが入り混じった表情で両手で口を押さえたエミリールに、モーリスが優しく微笑みかける。イイハナシダナー的ムードに浸っている二人だが、それは世間では政略結婚と言うんだぞ。お前ら、それでいいのか?


 そのあと、エミリール抜きの幹部会でモーリスが今回の結婚について改めて説明した。最初、メグミーヌとエムエルはモーリスを抹殺しかねない勢いでブチ切れていたが、話を聞いて、オレ含め全員『そういうことなら、ま、いいか』と納得したのだった。


 その夜のこと。天守閣の縁側で1人、月見酒を楽しんでいると、エミリールがモジモジしながらやってきた。


「社長、ちょっといい?」

「あぁ、いいよ。エミリールも見てごらん。月がとっても綺麗だよ」


 エミリールは、オレの横にちょこんと座った。


「あの、おじいちゃんが言ってた結婚の話、社長はいいの?」

「あー、その話か。いいんじゃない」

「軽っ!? 私と結婚するのよ。本当にいいの?」

「難しく考え過ぎだよ。なんだかんだでエミリールとは付き合いも長いし、憎からず思っているからさ」

「社長……。私、幸せです」


 エミリールが大粒の涙をポロポロこぼして、満面の笑顔を見せた。潤んだ淡い水色の瞳に吸い込まれそうになる。静かな夜、かすかな風の音だけが聞こえていた。月光に照らされた柔肌は透き通るように白く輝き、艶やかな亜麻色の髪が、風に揺れるたび絹糸のように(きら)めく。ドギマギしていることがバレて、後々マウント取られてたまるかと、酒を(あお)ってその場をごまかした夜だった。


 それからというもの、善は急げと急ピッチで結婚式の準備が進められた。出席者はタナトス農園在住のエルフやら獣人やらお馴染みの皆さん。メグミーヌとベルハルトに頼んで、ウォールダム王とドワーフ王からお祝いメッセージを送ってもらう手筈(てはず)も整えた。あと、衣装はメグミーヌ、ウエディングケーキはエムエルが担当し、2人とも楽しそうに準備を進めている。当のエミリールは、2人に申し訳なさそうにしていた。


「すいません。メグミーヌさん、エムエルさん、私……」

「何? こっちも楽しんでやってるから、気にしないで。それにしても、エルフの和装も悪くないわね。ブライダルのビジネスにも手を出そうかしら」

「ん? あぁ、ウエディングケーキは張り切って8階建てにするからね! 当日は楽しんでね!」

「私、2人のこと誤解してました! 良かったら、これからも仲良くしてください!」


 エミリールが子供のようにオイオイと泣き出す。ポカンとしたメグミーヌとエムエルは『あらあら、マリッジブルーかしらね』と声を上げて笑っていた。


 結婚式はフロラ神社で行うことにした。というわけで、一応、女神様にも結婚のご報告だ。フロラはこの神社が気に入ったようで、最近は(ほこら)よりも、こっちに入り浸っている。


「オレ、エミリールと結婚します。あれ? フロラ様、女神に似つかわしくないドス黒いオーラが背中に……」

「見た目に騙されて、結婚しないとか言ってたのに! 神を(あざむ)いた報いを受けてもらいます!」


 オレの報告にかぶせ気味に、フロラが青筋を立てながら、何やらやばそうな呪文を唱え出したので、『タンマ! タンマ!』と慌てて事情を説明したところ、


「ですよねー。もちろん、分かってましたよ。神ですから」


 と、ぎこちない笑顔で詠唱を止めてくれた。『いや、絶対分かってなかったでしょ』とはツッコめない、ヒリヒリした緊張感がまだその場に(ただよ)っている。そんなに怒んなくてもいいじゃんかよ。


 そして、ついに迎えた結婚式当日。神社が会場なので、神前式で行うことにした。白無垢を着たエルフはなかなかレアだ。対するオレも紋付羽織を身につけている。新調した鹿マスクを(かぶ)って。


「ちょっと、せっかくの晴れ舞台なのに、なんで鹿男なのよ!」

「え? モーリスさんから聞いてないの? お前が結婚するのは悪魔じゃなくて鹿男だよ?」

「どういうこと?」

「どうもこうもねえよ。大体、オレが悪魔ってのは内部秘だろ。対外的には代表は鹿男なんだからさ。獣人とエルフは昔から親和性もあるらしいから、この結婚も不思議じゃないし、獣人族とエルフ族の結束も強くなるだろ」

「それって……」

「まあ、偽装結婚っていうか、仮面夫婦っていうか。鹿男の時だけ夫婦のフリしてたらいいから。だから、あんま気にするな」

「社長のバカー!!」


 涙目で本気ビンタをブチかましてきた新婦を、オレは華麗なスウェーバックでやり過ごした。


「危ねーな! ケモミミちゃんも見てるんだぞ! (かぶ)り物が取れて悪魔ってバレたらどうするんだ!」

「うるさい!! よくも乙女心を弄んだわね! この鬼畜ー!!」


 新妻改め鬼嫁に変貌したエミリールから逃げ惑うオレを、参列している皆さんが『新婚早々、じゃれ合って。見せ付けてくれるねぇ』などと、ニタニタして見守っている。いやいや、そんなほのぼのした状況ではないですよ。ていうか、今回はモーリスのアイデアに乗っかっただけで、オレのせいじゃないぞ。ともかく、一応、エルフ族との強固な同盟関係アピールには成功したみたいです。

 というわけで、あえなくエミリールさんのターンは終了です。

 ちなみに、夏目漱石大先生が『I love you』を『月が綺麗ですね』と和訳したのは有名な話ですが、もちろん、タナトスさんはそんなこと知りません。

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