第38話 結局、世渡り上手が出世する
その日、サンバルトンの各地で天に輝く十字架が目撃された。すぐさま、学者達の分析により、150年前、先代魔王と三英雄の決戦の際、ハイエルフの大賢者モーリスの放った炸裂魔法と断定された。ほどなく、大賢者復活! 魔王軍瞬殺! の報はサンバルトン各地を駆け巡ることとなる。慌てたのは魔王ガレスである。
「ヤバイヨヤバイヨー! 大賢者、怖いよ~!」
「魔王様、落ち着いて下さい!」
「んなこと言ったって、あの鬼ツヨだった、オジキをフルボッコにした三英雄だぞ! エルフは長命とは聞いていたけど、最近なりを潜めてたから、もうボケてると思ってたのに……」
魔王城では、ガレスが肩を震わせ怯えていた。いつものジャイアニズムはどこへやらである。それもそのはず、戦闘力だけは信頼していたラトロルと1,000人近い鹿男討伐隊が、空に光の十字架が発生した後、忽然と消息を絶ったからだ。配下の魔法兵団に調べさせたところ、すぐにモーリスの仕業と判明した。ガレスはまだ幼い頃、その鬼神のような戦いぶりを子守唄代わりに聞いて育った。そのせいで、逆に全然寝付けなかったビターな思い出を抱えている。
「そういや、エムエルちゃんは?」
「それが、あの十字架が発生したあと、ラトロル達と共に連絡が途絶えました。もしかしたら、ラトロルの加勢に出掛け、あの爆発に巻き込まれたのかもしれません」
「なっ! お、おのれー鹿男!! ケモミミだけに飽き足らず、オレのオキニのエムエルちゃんまで毒牙にかけるとは! 許せん!! ギッタギタのバッコバコにしてやる!!」
「あの、ガレス様、モーリスの仕業では……」
「いや、その名は口にするな。あの大量破壊兵器とは関わりたくない……。オレの敵は鹿男なのだ! うん、鹿男がすべての元凶だ!! そうに違いない!」
現実逃避も甚だしいな。大丈夫かな、この人。今や四天王でただ1人の生き残りとなった、ドキュエルは心の中でそう嘆息した。得意のヨイショでこの地位まで上り詰めたが、四天王を一度に2人も失い、ガレスも恐れる大賢者復活となれば、魔界を取り巻くサンバルトンのパワーバランスが崩れることは、火を見るより明らかだ。下手をすれば、各国が連合軍を組んで、魔王城になだれ込んでくる可能性もある。早急に体制を立て直さねば。
「魔王様、今や四天王も私1人。まずはその補充のため、リクルートを始めましょう」
「んなこと言ったって、お前、当てがあんの?」
「実は、サッキュバスやセイレーンの村で、ガレス様好みのルックスで、かつ魔力の高い候補が何人か……」
「心の友よー! さすが、四天王筆頭! さっそく面接の準備を整えろ!」
「かしこまりー!」
笑顔で答えながら、『何が四天王筆頭だ。もうオレしかいないだけじゃん』と内心毒づきながら、我が身を守るためにも、魔王軍の再編成を急がねばと決意を固めるドキュエルだった。
「ハッ、ハックッシュン!」
「タナトス大丈夫? 風邪引いた?」
「あー、大丈夫、大丈夫。誰かが噂話でもしてるんだろ」
急にくしゃみをもよおしたオレの顔を、エムエルが心配そうにのぞき込む。あれから、オレの城に一緒に住むようになって、エムエルから以前のよそよそしさが無くなった。それは良かったのだけど、終始べったりで距離が近いぞ。
「ちょっと、あんた! いつまで自分のターンでいるつもりなの! そういう気分を味わいたいなら、1人でスゴロクでもやって、好きなだけサイコロ振るいなさいな!」
「何言ってるかわかんないんだけど」
メグミーヌ女史がおかんむりである。対して、エムエルはきょとんとしている。
「あんたの気の毒な身の上話は大方聞いたわ。私も女だから同情はするけど、その男はあなたが好きだった男の抜け殻なのよ。例えるなら、見た目は昔好きだったクラシックカーでも、中身はEVなの! あなた、それで良いの?」
「相変わらず、何言ってるかわかんないけど、今のタナトスの中身も好きよ」
「まぁ、なんたる腰軽! ダーリン、こんな軽薄な女、相手にしないほうがいいわよ!」
「まぁまぁ、マダム。所詮、オレなんかオリタナさんが見つかるまでの繋ぎに過ぎないからさ。いきなり振られてしょんぼりな心構えは出来てるよ」
「そんなこともないんだけど……」
エミエルはボソッと小声で呟いた。というわけで、痴話ゲンカの回数は倍増したものの、タナトス農園に再び平和が訪れたのだった。疎開していた住民も笑顔で戻って来た。それどころか、新しい移住者も連れてきて、人口が増加中である。大賢者モーリス復活す! のニュースを聞きつけた連中がやってきたようだ。あの、じいさん、すごい人だったんだな。その一報を受けたベルハルトの動きは素早かった。さっそく、ドワーフ国王を伴って表敬訪問にやってきたのだ。なんでも、国王の父親が、モーリスの仲間の三英雄だったらしい。現国王も、子どもの頃にモーリスと遊んでもらったことがあるそうだ。
「モーリス様、お久しぶりでございます! 私を覚えておいででしょうか?」
「もちろんじゃとも、バルク! 立派になって!」
「それ、誰ですか……」
「あぁ! すまんすまん、ルドルフじゃったな! 息災であったか?」
「あ、惜しい! それ、親父です」
ん-、だいぶボケが進行しているな。あれだけ派手な大立ち回りをしておいて、『ん、何が起こったんじゃ?』とか、とぼけたこと言ってたもんな。ケモミミを取られると思ったクライシス感が、火事場のバカ力を発動したらしい。というわけで、大賢者モーリスは眠れる獅子に戻った。まぁ、ケモミミ娘のピンチと聞けばまた覚醒するだろうけど。
ドワーフ国王はモーリスのボケ具合に最初は困惑していたけど、話しているうちに、多少ボケてはいてもモーリスに違いないと納得してくれたようだ。何かあったら、今度はドワーフ国が援軍を出すとまで言ってくれた。これも、ベルハルトが根回ししてくれたおかげだ。やれやれ、これで一安心かな。




