第34話 三日天下
その後、ピヨカン小学校には第2期生が迎えられ、正式に校長に任命したエミリールが、またまた張り切っている。単に面倒ごとを次々丸投げしているだけなのだが、『私はデキる女』という自己肯定感で本人は満たされているようなので、きっとこれも一種の善行だろう。今度のピヨカンが収穫できるのはまだまだ先のため、当面は、他の野菜やくだものの出荷に注力している。最初のピヨカン出荷によるブランドイメージ向上のおかげか、最近『デイア&デイアー』の農産物は、他のモノより2割ほど高値で取り引きされている。エミリールの育てはじめた花類もウォールダム王国やエルフ達の間で好評のようだ。しかし、なんといっても、稼ぎ頭はメグミーヌである。市場に出せないB級ピヨカンを使った高級化粧品や健康食品を商品化し、富裕層に売りまくっていた。最近は、美魔女セールス軍団を組織したらしく、熱血指導を行っている。
「いいこと! これはただのビジネスじゃない。人生を変える夢への扉なの! まず、何が何でも誰かに売る。次に、その誰かにも、この商品の素晴らしさを広めてもらうの。そして、教えられた人がさらに他の人に伝えれば……」
「マダム、ちょっといいですか?」
「何よ、ダーリン。今、取り込み中なんだけど」
メグミーヌを手招きして、セールス軍団から少し離れた場所で小声でたしなめた。
「違法な商売はやめましょうね」
「失礼しちゃうわ! ねずみ講は違法だけど、マルチ商法はグレーよ! しかも、商品の品質はホンモノだから、みんなハッピーになれるのよ。ウィンウィンよ!」
本当かなぁ? 異世界の法規制の甘さを突いているだけのような気がするが。メグミーヌはセールス軍団の指導に戻ると、今度は、自分の王都での贅沢な暮らしをマシマシで語りだし、最後に拳を突き上げ、『You can do it!』と絶叫した。その瞬間、講習会の参加者から、スタンディングオベーションが巻き起こる。中には顔を紅潮させ、涙ぐんでいる者さえいた。怖っ! この人、そのうち新興宗教の教祖様にでもなるんじゃないかな。悪は栄えたことがあるかもしれないが、悪徳商法はやがて世界〇天ニュースのネタになるのが世の常。せっかく、軌道に乗り出した商売がコケないように、メグミーヌの動向には要注意だ。
しかし、そんな心配をよそに、その後、進撃の美魔女セールス軍団は、破竹の勢いで売上を伸ばしていった。どうやら、本当にメグミーヌ開発商品の品質は確かだったらしい。おかげで、タナトス・ファーマーズは莫大な利益を上げることに成功したのだった。というわけで、
「タナトス・ファーマーズ、四半期決算大成功を祝って、乾杯!!」
タナトス城で、大宴会が催された。オレは例のケモミミ姉妹、どんたんとぽんたんに酌をさせつつ、耳を撫でている。背後では、鼻息荒いモーリスが『よいのう、よいのう』を連呼しながら、尻尾を愛でていた。
「鹿男様、おかわりをどうぞ」
「うむ、くるしゅうない」
メグミーヌが取り寄せた山海の珍味がテーブルに山と積まれ、目の前で繰り広げられる、エルフの美しいダンスと演奏。両手には、キツネとタヌキのケモミミ娘。この世の春とはまさにこのこと。ヌハハ、いい気分だ。
「ちょっと、社長! 獣人の娘にセクハラばっかりしてないで、私の相手もしなさいよ!」
「そうよ、ダーリン! 誰のおかげで贅沢三昧できてると思っているのよ!」
小姑みたいな2人が絡んできた。せっかくの良い気分に水を差すんじゃないよ。まぁ、でも鹿マスクもそろそろ脱ぎたいしな。一応、2人の労も労ってやるか。
「どんたん、ぽんたん。この怖~いお姉さん方と大事なお話があるから、少し席を外してくれるケーン」
「かしこまりました。私達の耳や尻尾が入り用でしたら、いつでもお声がけくださいね」
かわいいケモミミちゃん達が部屋から出るまで手を振っていると、口を尖らしたエミリールが噛み付いてきた。
「何がどんたんぽんたんよ! 変なあだ名まで付けて。社長ってば、私とかメグミーヌさんとか超絶美形がそばにいるのに、どこまで強欲なの⁉」
「超絶美形とか、自分で言わない方がいいぞ。あと、小さい頃、ずっと犬か猫が飼いたかったんだよ。だから、ケモミミは別腹だ」
「そうじゃぞ、エミリール。お前も校長となったからには、動物愛護の心を学ばねばならん」
「もう騙されないわよ! スケベ悪魔にエロじじい!」
「まっ、英雄色を好むって言うしね。正妻ポジションさえ不動なら私はかまわないわよ」
「さすが、マダム。よっ! 太っ腹!」
「レディに向かって、腹出てるとか言うんじゃないわよ!」
「ちょっ、メグミーヌさん! 私まだ正妻ポジションを譲ったわけじゃないんですけど……」
などとじゃれ合いながら、被り物を脱ぎ捨てて、気分良く鼻歌なんか歌っていると、1匹のコウモリが血相変えて飛び込んできた。
「キュッキュッー!」
「あれ? お前はエムエルの使い魔じゃなかったっけ? 慌ててどうした?」
見ると、手紙を咥えている。なんだ、商売繁盛のお祝いメッセージでも送ってくれたのかな? 浮かれ気分のまま手紙に目を通した途端、一気に酔いが醒めた。
「おい、タナトス!? ちょっと見せてみろ」
腰が抜けて、放心状態のオレから手紙を奪い取ったベルハルトの手元を、エミリールとメグミーヌが顔を突き出して覗き込む。そこには、こう書かれていた。
「獣人族誘拐罪により、魔王領で鹿男討伐隊が編成中。5日後にはそちらに到着の見込み。早急に対応を検討の事」
それは、唐突なジ・エンドのお知らせでした。




