第27話 『つのだ☆ひろ』の☆ってなんだろうね
「何かお飲みになる?」
「あ、じゃあ、コーヒーでも」
「何言っているの? アルコールオンリーに決まってるじゃない。コニャックかブランデーかワインか好きなものを選びなさいな」
アルハラ上等ですか。会社の飲み会でも最近は誰も口にしなくなったセリフなんだけどな。如月さんもとい、メグミーヌの前世は昭和なのだろうか?
「じゃあ、白ワインで」
「そうね、爽やかな朝だもの。フレッシュな白ワインも良いわね」
爽やかな朝から酒を飲む趣味はないが、ここは合わせておこう。メグミーヌが足の長いクリスタルグラスをテーブルに置き、そこに並々と白ワインを注ぐ。
「では、君の瞳に」
「かんぱーい!」
とりあえず、昭和のオッサンとの飲み会で培った条件反射でノリを合わせた。メグミーヌはオレのリアクションに満足そうに笑みを浮かべると、風呂上がりの牛乳のように腰に手を当てて、グラスのワインを一気に飲み干した。おいおい、なかなかゴーカイジャーだな。
「プハー。日の高いうちに飲むお酒は最高ね! 朝寝朝酒朝湯が大好きで~♪ とは良く言ったものよ」
やはり彼女の前世は昭和で、しかも中身はオッサンなのではないだろうか? まぁ、いいや。郷に入れば郷に従えだ。オレも一口白ワインを口に含む。フルーティーな香りが鼻に抜ける。渋みも少なくて飲みやすい。
「美味いですね。このワイン」
「でしょ? 異世界だから、白ワイン風なんだけどね。色々と調べて美味しいお酒をかき集めてるのよ」
会話しながら、すかさずお酌するのは社会人の嗜みだ。この手の人に手酌なんかさせたら、何を言われるかわからないからね。
「あなた、前世では何してたの?」
「一応、ブラック企業の平社員でした」
「ははは。まぁ、私も似たり寄ったりの会社だったわ。営業職で入社したのに、お茶くみやコピーばかりやらされて。『バリキャリ目指してるのに、何でこんなことに!』って1人酔いつぶれてたある日、目が覚めたらこの世界に放り込まれてたの」
「それは、災難でしたね」
「最初は頭抱えたわよ。でも、ピンチはチャンスって言うじゃない。それから、ガムシャラにやってきて、やっとこの小さなお城を手に入れたのよ。まだまだ行くわよ! 夢はサンバルトンのポンパドゥール夫人よ!!」
そう意気込むと、またワインを飲み干した。すぐさま空になったグラスをワインで満たす。なんだか自分がししおどしになった気分だ。カコーン。
「ところで、あなた悪魔に転生したって聞いてたんだけど、全然それっぽくないわね」
「ああ、これはベルハルトさんの化粧品で変装してまして。帽子を脱ぐとほらこのとおり」
ポーラーハットを脱いで、『どうですか?』って顔をしてみたが、メグミーヌはキョトンとしている。
「何? 別に変ったとこないけど」
「えっ? あれ、おかしいな」
慌てて、頭のツノを触る。ちゃんとツノがある。あ、そうか! フロラの加護魔法で見えなくなっているんだな。
「すみません、魔法で見えなくなってるみたいで。ここ触ってください、ここ」
「ん? この辺?……ほんとだ! ツノがある! ツノだツノ!」
メグミーヌがツノを見つけて、子供のようにはしゃいでいる。
「てなわけで、転生したら悪魔だったんですよ」
「私は人間のままだったから良かったけど、色々大変だったでしょう」
「まぁ、色んな方のサポートのおかげで何とかやってます。あ、皮膚も本当は青いんですよ、見てください」
そう言って、白手袋を脱いで青い手を見せてみた。
「きゃー! 青い青い! ア〇ターみたい!」
「ですよねー。それが、ベルハルトさんのファンデのおかげでこうなりました」
「へー。見事に隠れるもんね。それ落ちないの?」
「落ちません。昨夜お風呂に入ったし、今朝も顔を洗いましたが、全くメイク崩れしません」
「すばらしい! これで肌荒れしなければ夢の化粧品ね。『オールで遊んで、そのまま会社に行けちゃいます♡』ってね。では、お客様、私のチート魔法で元の青鬼に戻して進ぜましょう」
いうや、メグミーヌの両手が水色に輝く。オレの両頬を挟むようにそのオーラが顔全体を包むと、ミン〇ィアを嚙んだような清涼感に包まれた。あぁ、爽やか~。
「どう、さっぱりした? はい鏡」
「ありがとうございます。……お、元に戻っている! っていうか、肌の色ツヤが良くなってる気が?」
「そりゃそうよ。メイク落としの魔法だけじゃ、食っていけないでしょ。独学で勉強して、肌の保湿やエイジングケアの効果も合わせて付与できるようになったのよ」
「メグミーヌさん、努力家なんですね。独学でこれだけの魔法を。しかも金の匂いがプンスカ……」
「わかってくれる! これが、女性には大人気でね。上手く財務大臣の娘さんを顧客に出来たときは、心の中で、カズダンスを踊ったわよ!」
やはりセリフの端々から漂う古の香りに、メグミーヌの年齢が気になってしょうがないが、女性に年を聞くのは野暮というものだ。年齢なんてただの記号だ。うん、そう思い込むことにしよう。
「それで、あなたのピヨカン栽培は順調?」
「いや、それがピヨカン大脱走の巻的な展開もありまして、なかなかです」
「まぁ、簡単に収穫できるなら高級フルーツにはならないしね。でも、反抗的なら潰しちゃえばいいのよ。ジュースやゼリーとかの加工品にするとか、化粧品の香料にするのも手よね。まあ、完品じゃなくても使い道は色々あるわよ」
「なるほど。言い方はちょっとアレですが、市場に出せないようなピヨカンにも、有効活用の方法があるってことですね」
「ぞうきんは、水の1滴まで絞り出さないと。うん! なんだか楽しくなってきたわ。もともと、できる範囲で協力するつもりだったけど、積極的にこのプロジョクトに参加してもよろしくてよ」
「本当ですか! 是非、お願いします!! メグリーヌさんのような銭ゲバ……もといアドバイザーがいてくれれば、大変心強いです!」
「大船に乗ったつもりでいなさいな! 2人でこの世界にバブル景気を巻き起こすわよ!!」
やがて弾ける景気を望むのは、フラグになりそうなのでやめて欲しいが、とりあえず、タナトス・ファーマーズに心強い仲間が加わったようだ。




