第25話 はじめてのおつかい
「では、気を付けて行ってらしゃーい! あっ、お土産は気持ちだけでいいですよ!」
本音がスケルトンな社交辞令を口して、笑顔で手を振るフロラに見送られながら、オレは一路、ウォールダム王国を目指して出発した。しばらく街道を進むと森を出て、見晴らしの良い草原地帯になった。遠くに中世ヨーロッパ風の城が見える。あれが、ウォールダム王国か。フロラの言った通り、わりと近いんだな。目的地を見据えながら、テコテコ歩いて、夕方前には早くもウォールダム王国の城下町に入ることができた。
「うわー。ニンゲンがいっぱいだ」
目の前には、あっちを向いても、こっちを向いても人人人。人間の国だから、当たり前なのだが、よく考えて見れば、転生してこの方、魔族やら亜人やらとは触れ合っているが、人間とはほとんど話していないのだ。軽く感動を覚えつつ、とりあえず、ベルハルトの知り合いの商人を訪ねてみることにする。
「あのー、すみません。『魔道具の地獄めぐり』って店を探してるんですが」
「あー、それなら……って、あらイイ男! 旅の方?」
「ええ、まぁ」
「身長もあるし、スタイルいいわね。モデルさんかしら?」
どうやら道を聞く人を間違えたらしい。恰幅の良いおばちゃんのボディタッチが止まらない。
「ちょっと、お母さん! いい男見るとすぐセクハラするのは、やめてちょうだい!」
「いいじゃないの、減るもんじゃないし」
「それ、オッサンのセリフだから!」
悪魔と知らずにボディタッチを続けるおばちゃんに、娘らしき赤毛の若い女性が説教している。彼女は言う事を聞かないおばちゃんもとい、母親の手を引っ張って、オレから引き剥がした。
「ごめんなさいね、旅の人。探している店なら、すぐそこだから案内するわ」
「ご親切にどうも。自分はタナトス。しがない旅のものです」
「私はアマンダ。この町で宿屋をやってるの。泊まるとこ決まってないなら、安くしとくわよ」
「それは助かります」
アマンダの案内で『魔道具の地獄めぐり』に到着した。木の板に赤いペンキで店の名前を書いている。ペンキが垂れて血がしたたるように見えるのは、きっと狙ってのことだろう。お化け屋敷なら良いが、この怪しい看板で客が来るのだろうか。
「私の宿屋はそこの先を右に曲がって3軒目だから。看板代わりにトーテムポールを置いてるから、すぐわかると思うわ」
「ありがとうございます。この店で用事を済ませたら寄ってみます」
トーテムポール? 前世でもあんまり聞かないワードだが、これも如月さんの入れ知恵だろうか。後で見てみよう。とりあえず、古びた木製のドアを押し開けて店に入ってみた。薄暗い店内は窓から光が差し込んでいて、空中を舞う埃がチラチラ光って見える。辺りにはひび割れた大きな壺や錆びついた金属製の小道具など、一見ガラクタにしか見えない物が乱雑に置かれていた。
「ごめんください」
「へいっ、らっしゃい! 今日は何をお求めで?」
「自分タナトスと言いまして、ある人を探してウォールダム王国に来ました。ここには、ベルハルトさんに紹介されて来たんです。手紙を預かってきました」
「ベルハルト様から? どれどれ」
初老の眼鏡を掛けたドワーフはオレから手紙をひったくるなり、フムフムとザっと目を通した。
「なるほど。小豆を買い占めろか。さすが、大将、見立てが違うぜ」
なんだ、『タナトスをよろしく』とかじゃなくって、普通に業務連絡なのな。一通り手紙に目を通した店主は手紙を封筒に戻し、背中側の棚に置いた。
「で、人探しだっけ? 誰を探してるんだ?」
「名は如月恵。人間の女性です」
「なんだ恵のことか。今、エステティシャンとして売り出し中で、結構有名人だぞ」
「そうなんですか」
「最近、財務大臣に気に入られて、王城のそばに屋敷を構えているよ。宮中御用達って触れ込みで、金持ちの商人や貴族相手に人気らしいぜ」
へぇ。上手くやってるんだな。
「今は、一般市民はなかなか面会も難しいが、オレはベルハルト様から頼まれて、彼女がこの街に来た時から色々世話を焼いてるからな。今でも日用品なんかを納品にちょこちょこ顔を出している。あ、そうだ。近々、ポーションの空き瓶を2ケースほど持っていく便があった。良かったら、ワシの代わりに持って行っていくれないか? いい面会の口実になるだろ」
「ありがとうございます。是非、そうさせてください」
体よくガキの使いにされた気もするが、この場合はウィンウインだ。もう日が暮れるので、今晩は宿屋で1泊して、明日の朝に如月邸に向かうことにしよう。
その後、訪ねたアマンダの宿屋のトーテムポールは、顔がへのへのもへじだったそうな。




