第24話 メイク落とさず寝落ちすることもあるよね
「タナトスさん! 大丈夫ですか⁉」
フロラの呼び声に目を覚ます。やれやれ、我ながらあわてんぼうのサンタクロースだ。同じ過ちで、2度も死にかけたぞ。
「あ、フロラ様、お久しぶりです」
「『お久しぶりです』じゃありません! 何回黒焦げになれば気が済むんですか! 神と言えど、蘇生魔法は結構気を使うんですからね」
「すみません。すっかり忘れてました。ていうか、黒焦げにならずに祠に入る方法教えてもらっていいですか」
「あ、それもそうですね。そうだ、合言葉を決めましょう。祠の前にタナトスさんが立ったら、私が『王様の耳は』と聞きます。そうしたら、タナトスさんは『ロバの耳に念仏』と言ってください」
「ひねってきますね」
「簡単すぎると、セキュリティが脆弱になりますので」
まぁ、黒焦げにならないならなんでもいいや。ていうか、お土産の野菜は無事か? アセアセとリュックをまさぐる。なんとか、お土産のデラトマトは無事だった。
「良かったー。はい、フロラ様、大好物のデラトマトです」
「タナトスさん……。確かにデラトマトは好きですけど、自分の心配より野菜の心配ですか?」
「オレに何かあってもフロラ様が助けてくれると信じてますが、野菜まではと心配になったもので。前においしそうに食べてたんで、背負えるだけ背負って持って来たんですよ」
「……ありがとうございます。実は私、サンバルトンの担当なのに、この世界での認知度が低いんです。信者の数とその信心が神の力の源だったりするから、いつまでも下位の女神のままで……。だから、タナトスさんが私を信じてくれて嬉しいです!」
「そうなんですか? こんなに美人で親切な女神様なのに。プロモーション不足ですかね。プロマイドでも作って売りましょうか?」
「もう! アイドルじゃないんだから!」
そう言いながらも、まんざらでもなさそうに女神様がはにかむ。フロラ信者のオレが熱く激写すれば、露出度低めでも結構売れると思うんだけどなぁ。
「ところで、ミスランで同郷の転生者の話を聞いたんです。今、ウォールダム王国にいるとかで、これから向かおうと思ってるんですが」
「それなら、北西に街道が整備されています。今から出発すれば、夕方には着きますよ」
「意外とここから近いんですね」
「でもタナトスさん、ご存知とは思いますが、今悪魔ですよ。歓迎されないですよ」
「それについては、少々考えがありまして」
オレはリュックからリキッドファンデを取り出す。ベルハルトから預かった、絶対に落ちない化粧品シリーズの試作品だ。如月さんに会ったら渡してくれと頼まれているが、ちょっくら拝借して、これで変装してみよう。首筋と顔に塗り塗りすると、青い顔がみるみる人間っぽい、自然なオークルに変わっていく。仕上げに手には白手袋、頭の角隠しにポーラーハットを被ってみた。
「どんなもんですか? 人間に見えます?」
「タナトスさん! イケてますよ! きっとウォールダム王国でもモテます!! ぶっちゃけ、好み……いや、なんでもありません!」
フロラが赤面して首をフリフリしている。マジか。若干、皮膚呼吸が苦しいけど、ずっと、このままでいようかな。
「ただ、万一ってこともありますので、悪魔をカモフラージュする加護魔法を付与しておきますね」
「いつもお世話になってばかりで、すみません。あ、ピヨカンできたら差し上げますんで」
「楽しみにしてます! あっ、それはそうと、元のタナトスさん、オリナタさんのことですが、調査の途中経過を報告します」
「何か分かりましたか?」
「分からないことが分かりました」
「分からないことが分かりましたの意味が分かりません」
「他の異世界を手当たり次第に当たってみたんですが、どこにもオリタナさんの魂が転生した形跡がないんです。未確認のとんでもない異世界に転生している可能性もゼロではないですが」
「というと、どこいったんですかね、オリタナさん」
「可能性として高いのは、このサンバルトンのどこかで彷徨っているってことです」
「ここのことなら、フロラ様分かるんじゃないですか」
「神だからって、全知全能なわけじゃないんですよ! 分からないこともあります」
フロラが若干プンスカしている。神様にも得手不得手があるのか。さっきも加護魔法とかかけてくれたし、わりと何でも屋のイメージなんだけどな。
「今後は、サンバルトンを中心に、引き続き調査を続けます」
「よろしくお願いします!」
「お任せください!」
なんとなくノリで、右手をおでこに当てて敬礼したオレに、フロラもノリ良く敬礼で返してくれた。オリタナさん、今頃どこで何してるんだろうなぁ。




