第21話 眼鏡美人など存在しない。眼鏡をかけた美人がそこにいるだけだ
「いくらなんでも買い過ぎじゃないのか?」
「そんなこと言ったって、ダイスとチップにあげたら、スロットだけ何もないわけにはいかないし……とか考えてたら、こうなったのよ!」
カジノ臭漂う名前ばかりなのはさておき、オレの城に仮住まいしている仲間全員にお土産を買ったようだ。意外な心遣いには感心するが、巨大な風呂敷を背中に背負ったその姿は、古典マンガの泥棒のまんまだぞ。
「なぁ、口元に泥棒ヒゲ描いていい?」
「優しい私でも、いい加減ぶっとばすわよ」
せっかく、泥棒コスの完成度を上げてやろうというオレの親切心が理解できないとは、残念なエルフだ。
「ベルハルトさんが帰りの馬車を用意してくれなかったら、その重い荷物をどうするつもりだったんだ」
「そりゃ、社長が」
「みなまで言うな。聞いたオレが悪かった」
「そん時はオレに任せろ。美しいエミリールに重いものなど似合わない。君に似合うのは大輪の真っ赤なバラさ」
「おっと、勝手にオレのセリフを捏造するのはやめてもらおう」
現在、オレ達は呑気に軽口を言い合いながら、馬車の荷台にゴトゴト揺られている。あの後、今から自分の城に帰ると日が暮れるし、もう1泊しようか迷っていたら、ベルハルトが『ちょうど知り合いの商人が、これからエルフの里に行商に行くから、荷台で良かったら乗せてもらえるよう話をしてやろうか?』と言ってくれたのだ。
おかげで、荷物も持たないですむし、歩かないですむし、夕方には我が家に帰れるだろう。あー楽ちん楽ちん。
「あ、そういやミスランでいいものを見つけたんだ。エミリール君にこれをあげよう」
「何これ? 眼鏡? 私、視力8.0だけど」
「お前はマサイ族か!」
「何言ってるのか分からないけど、エルフは狩猟民族だから、基本みんな目が良いのよ」
「まるで人間双眼鏡だな。でも、これは伊達メガネだから、度は入っていない。かけると敏腕秘書に見えるすぐれものだ」
「今でも十分敏腕の自覚はあるけど……。これでいい?」
銀縁のザーマス眼鏡をかけたエミリールは、思ったとおり良く似合う。敏腕秘書じゃなければ、高慢PTA会長だ。
「いい! 実にいいよエミリール君! 次は指し棒も買ってあげるからな」
「やだ、社長ったら! 急にプレゼント攻勢? ホントは指輪とかネックレスとかがいいけど、愛がこもったプレゼントなら、いつでもウェルカムよ!」
愛の形はいろいろだから、エルフに秘書コスプレさせたいという気まぐれも、きっと1つの愛のカタチなんだろう。うん、そうに違いない。
「ただいまー。サナエちゃん」
「あれま、タナちゃん。もう帰ってきただか?」
予定通り、夕方に愛しのマイキャッスルに帰ったオレたちは、サナエちゃんと久しぶりに再開した。といっても、昨日の朝別れたばかりだけど。
「領主様の知り合いの馬車に乗っけてもらえてね。ピヨカンも、収穫できたら言い値で買ってくれるってさ」
「さすが、タナちゃん。手回しが早いべ。こっちは、フロラちゃんに頼んで、ピヨカンの苗木が手に入ったところだーよ」
「へぇ。これがピヨカンの苗木か」
サナエちゃんは、早速ピヨカン用の畑を耕していた。エルフの皆さんも総出で手伝っているらしく、早くも畑はほぼ出来上がっている。はじめて見るピヨカンの苗木は、ドワーフの背丈近くの高さがあった。すでに何個かオレンジ色の実もなっている。
「ピヨピヨ」
「げっ!? ピヨカンがしゃべった!」
「何当たり前のこと言ってるべ。ピヨカンはピヨピヨ鳴くものだべよ」
「いや、呆れ顔でそう言われましても。喋るくだものは初めてなもので」
「この子らは、優秀な小学校からやってきた6年生なんで、特に良く鳴くべ」
「ますます意味不明です……」
「ピヨカンはちゃんとした苗木を育てるまでが一苦労だべ。ワタスも本当はピヨカン小学校の建設から始めたいところだども、それだと時間が掛かりすぎる。そんで、フロラちゃんのコネで、各地のピヨカン小学校から、卒業間近の優等生を特別に呼び寄せてもらったべよ」
「完全に脳内がカオスなんだけど、フロラ様パねえってこと?」
「パねえべよ。ワタスも何度かピヨカンの苗木は見てきたが、色艶といい、鳴き声といい、この子らは間違いなく特級品だべよ。通常は植樹から収穫まで2、3年は必要だけんども、これなら、ほんの数か月もあれば収穫できるべ」
「良く分からないままだけど、オレもできることは何でも手伝うよ」
「はいな。これからが忙しくなるべよ」
「よろしくね。ピヨカンちゃん」
「ピヨピヨ」
鳴き声に若干オレを見下したニュアンスを感じるのは、きっと気のせいだろう。この時はそう思っていました。




