第17話 悪魔も30歳まで童貞だったら、魔法使いになれるらしい
ドワーフの交易都市ミスランに到着したタナトスさんとエミリール。銭ゲバな門番に紹介された宿屋を訪ねてみると……。
「社長、これって……」
「みなまで言うな」
門番に紹介された宿屋に来てみると、思いっきり日本式の旅館だった。玄関には屋台か居酒屋と勘違いしたのか、赤ちょうちんをぶら下げている。いや、オレ温泉好きだけど。そんでもって、温泉といえば旅館かもだけど。ここ異世界だよね。さっきドワーフと話したし、今も横にエルフいるんですけど。と、玄関から赤さび色の着物をきたドワーフの少女がちょこんと顔を出した。
「こんばんわ。いらっしゃいませ。あ、タナトス様2名様ですね! 門番さんからお話は伺っております。早速、お部屋へご案内しますね」
ドワーフの仲居さんに導かれるまま、旅館の暖簾をくぐった。館内のホールには漆黒の巨大な柱が何本か立っていて、金のドラゴンのレリーフがとぐろを巻くように彫り込まれている。奥には日本庭園らしきものも見える。あっ! 今、池から跳ねた魚、人面魚だ! と、キョロキョロ辺りを見回すと、ところどころ外国映画で描かれた日本のような違和感は感じるが、ベースはやはり日本の旅館そのものだ。
「変わった建物ですね」
「初めてのお客様は皆そう言われますね。当宿泊施設は、ドワーフ国の文化遺産にも認定されています。かのサンバルトン三名工の1人として名高い、デンキチ様の作になります」
うん、そうだと思ったよ。金のドラゴンが好きとか、作風がオレの城と一緒だもん。デンキチさん、元気かなぁ。また一緒にはさみ将棋したいな。
「こちらが本日のお部屋、花びら大回転の間になります」
部屋に案内されたオレは固まった。部屋のネーミングセンスもさることながら、室内は薄暗いピンクの照明で照らされ、正面には巨大な丸いベッドが置かれている。デンキチさん、何作ってるんだよ。まるっきり昭和のラブホじゃねえか!
「お部屋の説明をいたしますね。この部屋は近年、オーナーの趣味によりリニューアルした、スイートルームになります。この壁の赤いボタンを押すと、ムーディーな音楽とともにベッドが回転します。回転の速度はこちらのダイヤルで調整できますので……」
「いや、その説明はもういいよ……」
「何言ってるの社長! ちゃんと説明聞きましょ! はぁ……。それにしても、何て素敵な部屋なの。エルフの美意識がくすぐられるわ」
エルフの美意識とは何ぞや? しかし、ラブホを知らないこの世界の人にとっては、これはこれでアリなのかもな。ていうか、これを作ったオーナーって何者だ? 明らかにラブホの知識があるとしか思えないのだが。
「こちらが、内風呂です。地下から天然温泉を引いております。そして、このボタンを押すと微細な泡が噴き出ます」
「社長! お風呂から泡が出ているわよ! どんな魔法使ってるのかしら!?」
うん。ジェットバスだな。仕組みが魔法を応用しているかどうかは知らんが、なかなかドワーフの技術力はあなどれない。
「そして、このスイッチを切ると、室内の照明が落ち、浴槽の中の水中照明が灯ります」
「……はぁ、なんて素敵なの。私、ドワーフの見方が変わったわ。こんなハイセンスな感性の持ち主だったなんて」
浴槽の底で紫色の水中照明が怪しく明滅している。うん。オレも同感だ。ドワーフは生真面目な職人肌のイメージを勝手に持っていたが、ラブホ好きのスケベオヤジだったんだな。
「ちなみに、この部屋は当宿泊施設で最高級の部屋ですので、お代も最高額になります」
「普通の部屋にチェンジでお願いします。あ、あとシングル2部屋で」
「ちょっ! 社長! 何言ってるの! こんな最高の部屋を見ておいてお預けなんて、どれだけサディストなの! そこはちっともシビれないし、憧れないわよ!」
「エミリール君、今日のところは下見だけにしておこう。こういうものは、特別な日のお楽しみにとっておくものだ」
「えっ! それって、プロポーズ!?」
「あくまで一般論です」
「塩対応にも程があるわよ! しかも、せっかく美女と2人きりなのに別室なんて、ムフフな展開を期待している読者に申し訳ないと思わないの!」
「ちょっと何言っているのか分からないが、エミリール君にはもっと自分を大事にして欲しいんだ」
「社長……」
「あとオレ、1人じゃないと寝れないし」
「このクソ悪魔!! 駆逐してやるー!!!」
「おっ、落ち着け! ほら、仲居さんもオロオロしてるじゃないか!」
どうにかこうにかエミリールをなだめて、シングルルームに押し込んだオレは、自分の部屋に入るや、とりあえず頭からベッドにダイブした。ふーっ、やれやれ。オレの中身は、10代男子のような、荒ぶる性獣ではないからね。毎日の残業に疲れ果て、自家発電する気力もない、くたびれた社畜ですから。
さて、気を取り直して一息ついたら、エミリールのご機嫌取りがてら、館内をうろうろ見て回ろう。そのあとは、夕食を頂いてから、ゆっくり温泉に浸かって、旅の疲れを癒やすとしますか。
いくら枯れオヤジだからって、据えエルフ食わぬは悪魔の恥ですよ、タナトスさん。




