表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【1万PV感謝】レベル5デスの使いどころがありません!  作者: 角乃とうふ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/79

第16話 越後屋、そちも悪ようのう

 ミスランへは歩いて丸1日はかかるらしいので、野営をしないですむよう、夜明け前に出発することにした。


「ピヨカンの栽培は準備しておくから安心するだよ。チャンスがあれば商談してくるといいべ」


 まだ出来てもいないピヨカンを売りつけるのは、違う意味での架空請求に当たるのではないだろうか。まぁ、たられば前提なら、機会があれば名刺代わりに話してみてもいいか。


「社長、見て見て! このハイヒール! それこそ、この前行商に来たドワーフから手に入れた最新モデルよ!」


 自慢のスラリと伸びた白い美脚に、真っ赤なピンヒールを履いたエミリールが得意げに自慢する。どこぞの貴婦人が被るであろう、つばの長い白い帽子をかぶって、体のラインに沿った綺麗なシルエットのワンピースを着ている。


「あのなぁ。ちょっとそこまで舞踏会へって訳じゃないんだぞ。丸1日歩くのに、そんな靴で行けるわけないだろ」

「せっかくの婚前旅行だから、おめかししないと! 歩けなくなったら、社長がお姫様だっこしてくれるんでしょ?」

「妄想にふけるのは勝手だが、ゴブリンやオークに襲われても知らないぞ」

「やだ! 社長ったら! あの運命の出会いの再来を期待してるの? このシケベ!」


 はぁ。バカの相手は疲れるなぁ。黙っていれば、文句なしのスレンダー美女だが、どれだけ中身がポンコツなのだ。とりあえず、タナトス・ファーマーズと背中に刺繍(ししゅう)したオサレな農作業着と長靴に着替えさせようとしたら、『そんなの酷い! バツゲームじゃない!』と激しく抵抗された。しかたないので、比較的歩きやすそうな編み上げブーツとサファリファッションにしてもらうことで、お互いに妥協した。


「まぁ、悪くないわね。さっきの服は向こうで歓迎パーティーに出席するときのお着換えに持っていくわ」


 誰が誰に歓迎されるんだ? そもそも、向こうは誰もオレ達のことなんか知らないだろ。大体、旅はなるべく荷物が少ない方がいい。帰りにお土産とかも買うだろうし。魔界から逃げ出すとき、部屋から持ち出した金貨を握りしめながらそう考えるオレに、『女の子はね、色々と準備が必要なのよ!』と言いながら、バカでかいトランクに荷物をパンパンに詰めて、必死でフタを閉めようとエルフが1人もがいていた。『こんなのはエルフじゃないブヒ。あの尖った耳はきっと付け耳ブヒ』以前、エミリールを襲ってきたオークのセリフを思い出す。行きがかり上、瞬殺してしまったが、来世ではオレ達分かり合えそうな気がする。


「何よ? 私の耳をじっと見つめて」


 エミリールが不思議そうに小首をかしげた。


 結局、わがままエルフのおかげで、夜が明けてからミスランに向けて出発することになった。ほかのエルフの皆さんも見送りに来てくれたが、妙に祝福ムードなのは、あることないことエミリールが言いふらしたからに違いない。

 一応、サナエちゃんが地図を書いてくれたが、道に迷うことはなかった。ミスランへの道は一本道だったし、エルフとも交易があるおかげか、狭いながらも街道が整備され、ところどころ、矢印のついた案内板も立っていたからだ。なので、ここまで順調に進むことができたのだが……。


「ちょっ、社長、重たい! リヤカー引くの代わってよ」

「嫌だよ。全部お前の荷物じゃないか。だから、旅は身軽にと言ったんだ」


 リュックを背負って軽快に歩くオレのあとに、エミリールが例の巨大トランクとその他の荷物を満載にしたリヤカーをゼイゼイ言いながら引いていた。その姿は、夜逃げしているようにしか見えないぞ。


「こういう時は手を差し伸べるのが紳士でしょ!」

「いや、自分悪魔ですから」

「都合のいい時だけ悪魔(ずら)するなー!」


 そうプンスカしたヒステリックエルフだったが、あれあれ、その場にヘタリ込んでしまった。まずいな。このままだと日が暮れる。


「しょうがないな。オレがリヤカーが引っ張ってやるから、エミリールは後ろから押してくれ」

「さすが社長! 一生付いていきます! ついでに私もリヤカーに乗っていい?」

「一生付いてこなくていいから、リヤカー押してくれ」

「もう、仕方ないわね。社長ったら私がいないとダメなんだから!」


 あれ? なんでオレがダメになってるんだ? 理不尽な返しに呆然(ぼうぜん)としながら、リヤカーを引くオレ。後ろからは『初めての共同作業~♪』とご機嫌なエルフの鼻歌が聞こえた。


 それからしばらく、ゼエゼエ言いながら悪魔とエルフが必死に()を進めていると、日没ギリギリにやっと、ミスランの関所が見えてきた。石造りの高い壁に囲まれた、威風堂々とした門構え。『こりゃ、儲かってまんなぁ』と感心していると、バトルアックスを肩に担いだ門番が声を掛けてきた。幼稚園の年長さんくらいの背丈しかないのに、髭面のオッサン顔は、絵に描いたようなドワーフである。


「こりゃ、珍しい組み合わせだな。悪魔とエルフか。ん? リヤカー引いてるが、ひょっとして避難民か?」


 そうなんです、オレ達戦災から命からがら……ってすぐバレるウソは良くないよな。と思っていると、エルフ印の瞬間湯沸かし器が沸騰した。


「失礼ね! 婚前旅行よ!!」

「婚前旅行? まぁ、この街はハネムーンに来る客も多いけど、男は悪魔だろ?」

「これだからドワーフは! 頭が化石なんじゃないの? 今は多様性の時代なのよ!」

「なんだとババァ! 生きる化石のエルフが何ぬかしてやがる!」

「ムキー! うら若き乙女に向かってなんたる暴言! これでもエルフではピチピチの若手よ!!」


 若手はピチピチとか言わないと思いますが。二人のやり取りをこのまましばらく眺めたい気もするが、いい加減くたびれた。早く宿に入りたいので、間に入ることにした。


「あー、ごめんください。自分は悪魔ですけど、ちょっと農業してまして」

「悪魔が農業? そりゃ、初耳だな?」

「えぇ、最近はじめたもので。それで噂に名高いミスランで商売できないかと、はるばるこの街を訪ねてきたわけです」

「なるほど。ここはサンバルトンでも有数の交易都市だからな。商売やるにはうってつけだ。ただし、そのためには領主様の許可がいるぞ。紹介状は持っているのか?」

「いえ、そんなものは」

「それじゃあ、順番待ちで何日待つか分からんぞ」

「なんとかなりませんかね。これはほんの気持ちです」


 下卑(げひ)た笑みを浮かべながら、門番に金貨を1枚握らせた。


「おっ、これはこれは! なかなか話が分かる悪魔じゃないか。よし、今日はもう遅いから、いい宿をワシが紹介してやる。領主様にはワシから連絡をとっておくから、段取りができたら宿に報告にしてやるよ」

「ご親切にありがとうございます。首尾(しゅび)よく行きましたら、またお礼をしますので」

「ホッホッホー! 悪魔大好き! 大船に乗ったつもりで待っておれ!」


 がっちり握手した小悪党2人が高笑いする様子を、ジト目で見ていたエミリールが(つぶ)いた。


「社長、悪い人……。でも、そこにシビれる! あこがれるゥ!」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ