第15話 ドワーフ温泉の泉質は硫黄泉です
「ヒャッ、ヒャナトシュしゃんが、かわいそうでしゅ!」
「あーあー、そんな泣かないでください、フロラ様。オレも泣きましたけど」
エムエルとのやり取りをフロラに報告すると、ギャン泣きされた。
「だって、だって! ピュアな2人の恋路を邪魔するなんて、女神の私が許さない!」
「いや、そもそも、どこぞの神様の手違いが原因なんですが」
「はっ! ……すみません。神の一員として恥じ入るばかりです」
「まぁ、誰でも間違いはありますし」
人間ならね。あんたがた、神様だかんね。
「で、元のタナトスさんの魂はどこ行ったんでしょう?」
「確かなことは、魂は消えないってことです。ほら、ところてんって、あるじゃないですか?」
「いや、わかりますけど。この世界で、そのワードを再び聞けるとは思いませんでしたが」
「あれと同じです。魂がところてんだとすると、新しい魂が入ったことで、元のタナトスさんの魂は体から押し出された」
「にゅる~っポンッと」
「そう! にゅるぽんとです」
「で、にゅるぽんと出た魂はどこ行ったんですか?」
「可能性は色々あります。同じ世界で別の体を求めて、生霊として彷徨うこともありますし、異世界に転生することもあります」
「え、じゃあ、ひょっとすると、そばにいたりとか……」
「ヒッヒッヒッ、オレの体返せ~」
「ヒェッ!」
「いや、いませんよ。いたら、私が気付かないわけないじゃないですか」
「脅かさないでくださいよ、フロラ様!」
「てへ。ちょっぴりお茶目しちゃいました」
オレの大好物、てへぺろを今日もありがとうございます。しかし、さっきまで泣いてたのに、感情の起伏が激しい女神様だなぁ。
「その魂が今どこにいるか、調べられないですかね。当分、先だと思うけど、上手くいってオレが再転生したら、この体をタナトスさんに返せたらと思うんです」
「ニュータナトスさんも優しいですね。その行動も善行になると思いますよ。オールドタナトスさんの行方調査はフロラが受け承りました!」
「いつもすみません。なんか頼んでばっかりで。あと、オールドタナトスさんはあんまりなので、オリジナルタナトスさんでお願いします」
「オリタナさんですね!あ、調査のことは気にしないでください。こういう、探偵みたいなこと、一度やってみたかったんです」
フロラはキラキラした目で両腕を曲げて、振り子のように横腹に向けて何度か動かした。
「そう言ってもらえると、気が楽になります。オレは、そろそろまじめに農作物の販売について考えてみます」
「いよいよですね! お互い頑張りましょう! エイエイオー!」
「エッ、エイエイオー……」
顔が熱くなるのを感じながら、オレもフロラにお付き合いして、小さく右手を挙げた。
「というわけで、これから作戦会議を行う。作戦名は『オペレーション・ガッポガッポ』だ」
「……その作戦名必要?」
次の日、今後の農販計画を考えるべく、関係者による話し合いをすることにした。参加者はタナトス・ファーマーズCEOのオレ(社長よりカッコよさそうなので、CEOにした)、ツッコミ役兼美人秘書兼エルフ族代表代理のエミリール、農業指導員兼よろずや兼お母さん的存在の農業ゴーレムサナエちゃんである。
「一応、作戦名とかあった方が気分出るだろ」
「まぁ、社長がいいなら好きにすればいいけど」
「エミリール君、今後は社長ではなく、CEOと呼んでくれといったじゃないか。そこは大事なところだ」
「嫌よ! 社長って私だけに許された呼び方でしょ! みんなはCEOって呼べばいいじゃない!」
どっちにしても、そう呼んでくれそうなのはエミリールだけなんだが。と、サナエちゃんが、右手を挙げて発言を求めた。
「サナエ指導員、どうぞ」
「なぁ、タナちゃん。あの火球使いのボンキュッボンな姉ちゃんはどこさ行った?」
「ん? あぁ、エムエルのことなら魔界に帰ったよ。また、そのうち遊びに来るんじゃない?」
「それは残念だべな。あれは、なかなかいい炎使いだったべ。焼畑農業の素質アリだわさ」
「焼畑農業のことはしばらく忘れようか、サナエちゃん」
ゴーレムと悪魔の二人がエルフの森をヒャッハー! といいながら燃やしている凄惨な光景が目に浮かぶ。違う違う、そんなことを考えたかったわけじゃない。気を取り直して、サナエちゃんに問いかけた。
「それはともかく、そろそろ販売用の作物も作ってみたらと思うんだけど。何がいいかな?」
「そうさね。くだものもいいけど、花も人間は喜ぶべよ」
「お花! 私も大好き! 花にしましょう。そして社長と私の城を綺麗な花で埋め尽くすの!」
何やらお姫様気取りだが、お前はほかのエルフ達と同じで、城に仮住まいさせてるだけの、ただの同居人だぞ。
「あー、でも、花は魔族とドワーフはあんま興味ないかもだベ」
「エルフはみんなお花好きよ! ねぇ、社長、二人で秘密の花園を作りましょうよ!」
「そうかぁ。そうなると販路が限定されるな。サナエちゃん、ちなみに、くだものはみんな好きなのかな?」
「ちょっと、社長! 私の話聞いてる!?」
「くだもの嫌いなやつなんか、サンバルトンにはいないべよ。実は、前から挑戦してみたかった、とっておきの柑橘があるだよ」
「サナエちゃんまで無視しないでよ!」
「柑橘? みかんとかオレンジとか系?」
「はいな。その名もピヨカンだべ」
「ちょっと二人とも! 無視するなー!!」
「ピヨカン?」
「ちょいと暴れ馬なフルーツだけど、果肉の甘みと芳醇な汁気がたまらない、王族や貴族御用達の高級品だべ」
「暴れ馬なフルーツっていうあり得ない二つ名が気になるけど、それって、ここで作れるの?」
「ワタスを誰だと思ってるべ」
サナエちゃんが腕組みをして、自信満々に頷いた。若干、いや、かなり悪い予感はするのだが、金の匂いには抗えない。
「じゃあ、とりあえず、そのピヨカンでいってみよう。無事に収穫出来たら誰に売ろうかな?」
さてさて。まず、魔族はないだろう。魔王に居場所がバレたら命に関わるからね。誰か営業マンでも別に雇えばどうにかなるかもだが、後回しでいいだろ。かといって、人間も悪魔相手だと簡単には信用してくれそうにないだろうな。エルフなら話しできそうだけど、日頃お世話になってる分、高級品を売りつけるのは、ちょっと気が引ける。となると……。
「なぁ、エミリール。ドワーフって魔族のこと、どう思ってのんの」
「……私は空気ですー。いらない子なんですー」
エミリールが机に突っ伏してグジグジ言ってる。訳の分からないこと言ってるのでガン無視してたが、やり過ぎたか。
「ごめん、ごめん。サナエちゃんとの話に夢中になってしまってね。だが、エミリール君。私には秘書の君の力が必要なのだよ。社長と秘書は一心同体だからね」
「一心同体! それってプロポーズ……」
「あ、全然違います」
「もう! 社長ったら! ツンデレなんだから!」
デレている要素は皆無な気がするが、いつものテンションに戻ったみたいだから、まぁいいか。
「で、なんだっけ? ドワーフ? あの人たち毛深くて基本エルフとはあんまり性が合わないけど、ビジネスライクな連中だから、自分たちにメリットあるなら悪魔と付き合うこともあるわよ」
「ほう。それは商談相手としては悪くないな」
それに、せっかく異世界に来たのだ。ドワーフにも会ってみたいぞ。そう思ってたところに、サナエちゃんからキラーパスが送られた。
「ここから西にドワーフの交易都市、ミスランがあるだよ。様々な商品と人種が入り混じっているべ。有名な温泉もあるし、視察がてら、一度行ってみたらどうだべ」
「温泉!? さなえちゃん温泉って言った?」
「ゴーレムに二言はないべ。ミスランの温泉って言えば美人の湯で有名だーよ」
「行く! 社長、私行く!」
「エミリール君。珍しく気が合うな。何を隠そう、私は温泉同好会の会員なのだよ」
「社長! 婚前旅行よ! レッツゴー!」
「あ、全然違います」
エミリールは、『またまた~。ツンデレも大概になさいよ!』とか言いながら上機嫌だが、面倒くさいのでほっておこう。それにしても、エルフと一緒にドワーフの温泉に行くことになるとはね。転生前には夢にも思わなかったなぁ。




