第13話 アリエールとエリエールは全然違います
「これ全部畑? あの要塞といい、ずいぶん派手にやってるわね」
午前中の野良仕事を終え、みんなで一休みしていたところ、空からふらっとエムエルが舞い降りた。彼女は魔王四天王の紅一点で、背中に立派な翼のある褐色の美人さんである。ちなみにタナトスの幼なじみらしいが、残念ながら、その記憶は引き継いでいない。魔王から逃げ出す際、彼女のアドバイスに従ったおかげで、今のんきにお茶をすすっていられるので、そういう意味では命の恩人といえるかもしれない。
「いずれは高級フルーツ農園も作る予定だよ。あと、お城は大工さんの趣味。それよか、今日はどうしたの?」
「どうしたとはご挨拶ね。心配して覗きに来てあげたのに」
「それは失礼しました。見ての通り、なんとか自給自足でやってるよ」
「ふ~ん。なかなかいい生活してるじゃない」
「ところで、魔王様やっぱ怒ってる?」
「そりゃ、最初はね。『アンニャロウ! ギッタンギッタンのバッコバコにしてやる!』って怒鳴り散らしてたわ」
「ひょえぇ」
「だけど、私が『魔王様、そろそろ新しいオモチャに変えたほうが楽しくないですか? 違うタイプの面白キャラ、私知ってるんです』って言ったら、さっと真顔になって、『詳しく』って。あとは、適当な悪魔を四天王に推薦してあげたら、今は喜んで新しいターゲットを袋叩きにしてるわ」
色んな意味で笑えない。自分の身代わりになった、哀れな新四天王さんに幸多かれと祈るばかりである。
「まぁ、ツッコミたいところは色々あるけど、かばってくれたんだよな。ありがとう」
「あなたを助けるのは昔から慣れっこだから、気にしないで」
エムエルが天使のように微笑んだ(悪魔だけど)。オレもつられて微笑む。暖かな空気が2人に間に流れる。記憶はないけど、きっと昔から、この頼りない悪魔に何かと世話を焼いてくれたんだろうな。そんないい雰囲気に、冷たい視線のエミリール秘書が水を差した。
「ちょっと、社長。誰よ、その人」
「あぁ、彼女は魔界にいた時の同僚でエムエル。オレの幼馴染だよ」
「お、幼馴染?」
「あなたエルフよね。この近くに住んでるってのは聞いたことあるけど、悪魔とは犬猿の仲なんじゃ……」
「ふふん。そりゃ普通はね。だけど、私と社長は運命に導かれた固い絆で結ばれているの! そんな、種族間のイザコザなんか関係ないのよ」
「へ、へーそうなんだ」
エムエルが若干引いている。そりゃそうだろ。
「あ、社長ってのは私だけ、ワ・タ・シ・ダ・ケの特別な彼の呼び方なの」
ん。間違ってないけど、間違っているぞ。全部オレのせいだけどね。エムエルがはぁ~っとため息をついて、オレに冷たい視線を向けた。
「あなた、昔から変な女にだけモテるのよね。私という許嫁がありながら」
「許嫁!!」
エミリールとユニゾンで絶叫してしまった。そんなオレを見て、エムエルが目を見開く。
「タナトス!? まさか、あなた忘れたわけじゃないでしょうね?」
「いやいやいや、もちろん覚えてますよ、覚えてますとも!」
いや、最初から知らんがな。でも、そんなこと言える雰囲気じゃない。と、『許嫁、許嫁……』と地面に突っ伏してブツブツ言っていたエミリールが、突然ル〇ン三世のように額に手を当てて笑い出した。
「ヒャヒャヒャー! 許嫁とか言って忘れられてるじゃん! どうせ、オムツつけてた頃の約束を後生大事に信じてたんでしょうよ! お可愛いこと。おあいく様、社長は大人になったのよ! ピーターパンの時間は卒業よ!」
最後は何言ってるのかわからないが、人をイラつかせる技は大魔導士クラスだなコイツ。と、背筋に強い悪寒を感じた。見れば、真っ黒い瘴気を纏ったエムエルが、暗く刺すような目でこちらを睨んでいる。しかも、右手には赤い火球を浮かべているではないか。あ、これヤバイやつだ。
「ターナートースー……」
「ち、違う! エルフの戯言に耳を貸すんじゃない! 話せばわかる!」
「ちょっ! 正体を現したわね性悪女! 社長に手出しはさせないわよ。大体、名前からして私と被ってるのよ。パチモンは返品するのでお帰りください、シッシッ!」
「おまえはちょっと黙ってろ! いい加減空気読め!!」
「……わが前に立ち塞がるもの、灰燼に帰せ。地獄の業火!」
「ごめんなさいー!!」
またもエミリールとユニゾンで絶叫しながら目をつむると、後ろで派手な爆発音が聞こえた。……振り返ると、なんということでしょう! あの日当たりの悪かった天守閣が、屋根のない開放的なリビングになっているではありませんか。
「アワワワワワワ……」
さっきまで好き放題言っていたエミリールは、カニのように泡を吐きながら、白目になって気絶している。
「……タナトス。少し2人で話しましょうか」
「はい! 話しましょう! 朝まで語り合いましょう!!」
できればオレも一緒に気絶したかったです(泣)




