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太田の罠

机に突っ伏すように昏倒する牛川を冷たく見つめる克典に震える声で多田昌也は呟くように問いかける。


「……克典さん そいつも殺すつもりですか?」


克典は締め落とした牛川を床に下ろしながら冷たい目で呟くように言った。


「こいつも、か。もうあと1人殺そうが2人殺そうが一緒だろう? か弱い女相手にも法外な金利で借金を取り立てるクズだ。ついでに殺しておこう」


嗜めるように首を振りながら多田昌也は懇願するように言う。


「……克典さん そいつを殺すのは違うんじゃないですか?」


昌也をじっと見つめ牛川に視線を戻すと鼻を鳴らし克典は言い切った。


「何が違うんだ? 昌也くん。俺たちは今まで4人殺ってきた。同じ悪人同士同じベッドに並べてやろうじゃないか。まあこいつは例の場所でミンチにして焼いて捨てようか」


牛川さえ殺そうという夫に流石に戸惑った様子の容子は嗜めるように口を開く。


「ねえ、あなた。ただの借金取りのその人とどうしようもないダークキッドを同じように扱うのは違うんじゃないかしら」


克典は首を振りため息をついた。


「……君までそんなことを言うのか もういい。こいつは俺1人で処理しよう」


もはや止められない克典に容子と昌也は唖然として息を呑む。


「あなた……」


「……克典さん」


その時、店のシャッターを叩く音が室内に響き、全員がその身をすくめた。


「畑中さーーん! すみませーーん! 警視庁の太田です。このようなお時間にすみません。少し聞きたいことがありまして」


ダンダン、とシャッターを叩く音が更に店内へと響く。

声色から克典は事件を捜査中の太田という刑事だと判断した。


「すみませーーーん! あれ? おかしいな? お店の明かりはまだついてますよねー!」


太田の呼びかけに舌打ちしながら克典はシャッターの方へと近づく。


「……くそっ! なんなんだこんな時間に! よりにもよってあの刑事か!」


「克典さん! どうしますか⁈ こんなところを見られたらアウトですよ!」


「……あなた」


戸惑う2人に克典は落ち着いた様子で指示を出す。


「おちつけ。 ……無視するわけにはいかないだろう 俺が対応しよう。牛川はそこのロッカーにでも詰めといてくれ」


「わ、わかりました」


牛川に手際よく猿ぐつわを噛ませ手足を拘束して、無事ロッカーに詰め終えると克典はシャッターを開けて太田を店内へと迎え入れる。


「こんな時間にすみませんね、畑中さん。ですが私の知り合いがこちらにお邪魔しているそうで呼び出しを受けましてね」


迷惑そうに眉を顰め克典は太田に着席を促した。


「太田さん…… 勘弁してくださいよ、こんな時間に。我々はもう帰って休むところなんですよ。知り合いですって? 誰のことですかね。ここへは誰も来てはいませんが」


太田は店内を見回し、わざとらしく首を捻った。


「そうですか、おかしいですねえ」


その刑事の様子に容子と昌也は密かに背筋を凍らせる。

克典は淡々と太田に質問を投げかけた。


「今日は小林さんはご一緒ではないので?」


「警察とはいえこの時間に女性を連れ回すわけにはいきませんからね」


「そうですか。忙しいのです。他にご用件が無いなら失礼ですがお引き取りを」


克典は腕を組み冷たく言い切り太田の帰宅を促した。

容子もその言葉に追随する。


「先ほど言った通り、ここにお客なんて来てませんから」


しかし、ポリポリと頭をかきながらシャツの汚いこの刑事は気にする事なく辺りを見回し質問を続ける。


「いえね、借りていたものを返そうと思いまして。本当に誰も来てませんかね?」


「知りませんたら。帰ってください」


苛立ちなら克典は冷たく答える。


「本当に?」


「しつこいですね‼︎」


克典は思わず声を荒げ机の端をドンと叩くがとぼけた様子の太田は尚も帰る気配がない。


「変ですねえ…… 彼の車が駐車場にありましたが」


内心で舌打ちしながら克典はスラスラと答える。

これくらいのトラブルは織り込み済みだ。


「ウチの駐車場は広いですからね。無断で停めている人は多いんですよ。とにかくこの時間にウチに来た客はいません」


「そうですか…… 磯山奈々さんがここで働いていることを彼に教えたのも私なんですがここへ来ていませんか」


とぼけた様子で言い放つその言葉に克典の頭の血管が沸騰する。

何を言っているのだこいつは。


「は?」


「なんですって?」


容子も呆気に取られ思わず失言する。

頭に血の昇った克典は椅子から立ち上がり太田へと詰め寄った。


「…….アンタ 今なんて言った⁈」


「どうしたんです? 血相変えて」


ますますとぼけた様子の太田に克典は声を荒げ思わずその襟首を掴んだ。


「ウチの従業員……磯山奈々のことを借金取りに教えたのはアンタだって⁈ それでも刑事か‼︎ 何を考えてやがる⁉︎ この税金泥棒が‼︎」


「……そうですか やはり牛川さんはここに来たんですね」


ここで克典は己の失言に気づくが時すでに遅し。


「……クッ‼︎」


口角をヒクヒクと上げ不快感を露わにする克典に太田は無表情で言い放った。


「話してもらいましょうか、牛川さんの行方とあなたたちのした事を」

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