第二章 9、難敵招来 お前を守りたい!
約一千の兵は徐々に速度を上げながら吉ヶ平の雨生ヶ池目指して行軍していく。
咲良達は最後尾に付き駄馬隊(荷物を運ぶ部隊)と共に続いた。
途中、奇っ怪な妖怪やらが漂っていたが、危害を加えるようなモノノ怪はおらず、おそらく影虎の指図で危険な妖怪の類は、みな討伐しながら進んでいるに違いない。
そのうち、第三隊につけていた山吉が鍛冶ガール一行を気にして最後尾に取り付いた。
「どうじゃな? 少しは馴れたかな?」
茜や軍司を気にしての言葉と思えた。咲良は既に乗りこなしているように見えたし、まこと、栞菜、姫子はお手のものだったからだ。
「助さんのお陰で、な、なんとか……」
「俺も格さんの先導がうまいから、まぁまぁ。馴れて来たっすよ!」
どうやら2人にも助・格の補助も手伝ってか、少し余裕が出てきたようだ。
「そうか。それは重畳! 先程な、殿から伝令があって、外敵に充分注意するように。とのお達しじゃ。我が軍も、ちょくちょく斥候(敵や地形などを秘密裏に探索する部隊)は出しているが、一応は用心してくれよ!」
「敵って、ここは山吉さんが治めているんじゃないんですか?」
まことは即座に質し、山吉は現状を説明。
「五十嵐川をかなり遡上してきたでな。そろそろ山に入る。嵐蔵殿らの姫小百合の郷も近いが、この辺には野武士やら山賊やらもまだまだいると聞く。布陣は完璧じゃが、おぬしらを影虎様が心配しての」
「まぁなんて優しいお気遣いでしょう! また惚れてしまったわぁ」
お花畑栞菜が顔を覗かせ、一行は苦笑いを浮かべたか。
長閑な風景が次第に木々が鬱蒼と繁る山々に入って行く。杉の大木が行く手を阻むようであったし、段々と道幅も狭まり、様々な野鳥の鳴き声と、川原づたいとはまた違った妖怪が顔を覗かせたか。
カポカポとゆっくり前進しながらも、茜が気になっていることを咲良に問いかけた。
「ねぇ咲良、出発前に黒鐵が光ったじゃない? あれなんだったんだろうね?」
「んー………わっかんないけど、影虎くんのあの派手な刀と黒鐵がおんなじ鉄で出来てるとかかなぁ?」
その会話を聞いたまことが合点がいった風に続いた。
「なるほど! それだわ咲良ちゃん! きっと影虎さんの刀も神鐵から造られているってことよね!? てことは初代巌鉄斉様の作品なんだわ!」
「なるぼどね、一理あるわね。ねぇ山吉さん、影虎様はどこであの刀を?」
栞菜の質問に姫子もぶりっ子全開で興味深くウンウンと頷き、問われた山吉は思い出そうと空を見上げた。
「あぁあれの! あれは栃尾城の戦いの翌日、刈谷田川のほとりで拾ったんじゃよ! あれには曰くがあっての、鞘から抜けぬのじゃ。ワシは何度もそんな刀を帯刀せぬが宜しかろうと忠告申し上げたのじゃが、相当気に入ったようでなぁ。肌身放さず持ち歩いておるのだ。危険極まりない! 万が一、敵に襲われたらどうするつもりなのだか…………」
「みんな火花のイヤリングの時みたいにそれぞれの色で光っていたけど、影虎さんの竜口は咲良と同じで赤く光ってたわよね?」
「そうそう! 始めてみんなの色を確認出来たよね! てことは何か関係があるのかな?」
「どうなんだろ? 全然わっかんない!」
そんな会話をしていた、まさにその時だ。
杉やら松の枝枝がざわめき、鴉が騒然と飛び立ち、色めき立って泣き喚いた。
山吉は不意な殺気に気付き、命令を下す。
「各自、行軍停止! 盾をかざし敵の攻撃に備えよっ! 鍛冶ガールを囲むように用心せよっ! 来るぞっ」
山吉の命令に即座に兵が防衛線を展開。
藪から喚声が上がり、武装した騎馬が突如として攻撃をしかけてきた。一瞬にして空が幾針もの矢の雨で視界を遮るかのように。
長尾軍は急襲に浮き足だったが、応戦。
だが次々に隊列を崩され咲良らに危険が及んだ。
(なんじゃ!? この軍勢は! 酷く戦馴れしておるではないかっ! まさか殿はこやつらの存在に勘付いていたからこそ、再三再四と注意を促がしておったのか!?)
と、山吉は防戦しつつ考えていた。
「ま、まずいわよ! 私達、武器なんて持ってないもの!」
急な実戦に慌てふためいた栞菜は、悲鳴に似た叫び声を発したが、それは虚しく響いたか。
「長尾軍を信じるしかないわ! 私達は邪魔にならないように固まっていましょ!」
まことの言葉で全員が集まるが、木刀を構えた軍司は茜の静止を振り切り敵と対峙したか。
「俺が守ってやらぁ!」
「軍司ダメよ! 危ないでしょっ!」
「平気だって! 俺がお前を守るってんだよ!」
思わず本音が出てしまった軍司に、距離をとった敵の弓兵が狙いをさだめる。
「もらったっ」
敵の弓兵は不気味な笑みをつくると、必殺の一矢を放った。
その矢は軍司目掛けて高速で走った。
「危ないっ!!」
山吉が叫んだが助けられる距離にない。
(くっや、殺られる!)
軍司がそう直感して顔をしかめ、目を固く閉じたその時だ。
「ダメェーーーッ!!」
咲良の叫び声に呼応したかのように突如として黒鐵から赤い火柱が登り、鍛冶ガールを守る盾のように矢を遮ったのだった。
次回 10、咲良、覚醒!




