107 湿原の蛇と梨狩り
十四層への階段はこれまで登った斜面を下りきる様な程に長い物だった。
一輪車の上と下で支えて不満を言いながらも下りきったところでは、他の探索者が休憩していた。
「「「こんにちはー」」」
「おぉ、こんにちは嬢ちゃん達。大荷物抱えて何カチカチ言わせて歩いてるんだ?」
「あぁ! 忘れてた爪靴外すの」
「ん。上の階層地面が滑るから付けてた」
「そうだよ。階段降りる前に気付くんだった」
「そっか、それで降り辛かったんだ」
「そうなの? 一輪車のせいじゃ無かったの?」
五人は一斉に爪靴を外し始めた。
声を掛けて来たのは鷲人族の男性で水筒片手に干し肉を齧っていた。
他の六人の男女も鳥人族ばかりの集団で、五人に興味深そうに耳を傾けていたが直接話そうとはしてこずに、鷲人族の男性に任せているような感じだった。
「その、なんだ? その台車は?」
「あぁ! これ、魔法鞄なんだよ。沢山入る優れもの! 階段は大変だったけど……」
「魔法……鞄? ああ、台車に乗せて使ってるってわけか! なるほど、そりゃいいが、階段は大変そうだな」
階段を下って来た時のことを思い出して耳を萎れさせるラウリーを見て、男は便利なのか不便なのか測りかねてしまったのだ。
「ん? 乗せてない、一体化してる」
「最初のは乗せて使ってたけどね」
「そんな物、どこで手に入れたんだ? ここらじゃ見たこと無いんだがな」
「うちが作った!」
「そして、リーネが改造手伝ったんだよね」
「ん」
話しているうちにすぐに出発する気も起きず、休憩の準備を始めることにした。
コンロで湯を沸かし、卓に軽食を広げて、カップにスープの素を入れてお湯を注いで一息入れる。
「なんか、良いもん食ってんな……なぁ、ナサレナ、探索中の料理とか………そうか、すまん! 俺が悪かった!」
ナサレナというらしい鷹人族の女性に声を掛けると、「誰があんたの分なんて作ると思ってるの!」と、お怒りの言葉が返されていた。
「ねぇ、お兄さん? 魔法鞄に入れておけば数日くらいは料理ももつよ?」
「話に聞く高性能なやつか! なかなかこっちまで回って来ないんだが、よく手に入れられたな」
試しに触らせながら他の魔導具も合わせて説明をしたら、お礼の言葉と帰ってからの購入を相談し始めたのだった。
「そろそろ行こうか?」
「「「おー!」」」
荷物を片付けてから扉の先の様子を確認すると、なだらかな丘陵地の様になっており小高い丘には樹々が、低地は草が生い茂っていた。
草をかき分け進んでいるとだんだんと足元から湿った音がするようになる。
「うわぁー……、ここはここで足元が良くないねー」
「ん。できるだけ丘を進むようにしよ」
遠回りになることが判っていても、ぬかるんだ地を行くよりは危険が少ないだろうと進路を変える。しかし、扉周辺から丘陵地の間にはどの方向へ行っても湿地が広がっているために双子達はいつもよりもゆっくりとしか進むことができなかった。
パパシュッ!
「ん。回収してくる」
「気を付けてね、リーネ」
湿地帯を歩くのが嫌になったリアーネは『浮揚』の魔法を維持したままで移動して、進路から少し外れたところに現れた魔物を仕留めた時に、回収するのを引き受けていた。
「リーネどうしてあんな高さ移動してるんだろ?」
「さぁ……って、魔物の反応がある!」
「どこ!?」
「見つけたの! リーネの向かった先、魔石の反応が消えてるのっ!?」
シャァァァァァァァーーッ!!
パシュッ!
先程仕留めた魔物の魔石を飲み込み、近付いて来たリアーネを威嚇する様に蜷局を巻いて頭を持ち上げたのは、黄色に黒の縞模様のある体長二十五メートル、胴回り一メートル程あるだろう黄縞蛇だった。
リアーネが五メートル程の高さから足元へと向かって射撃したが、雷をまとった黄縞蛇の体表近くを滑る様に銃弾がそれて行った。
「ん。みんな、近付くと危ない! バチバチしてる」
「ボクが決めてあげるよ!」
「私だって居るの!」
カンッ! パシュッ!
放たれた矢と銃弾は先に到達した銃弾をそらして、矢だけが突き刺さった。
「やっぱり銃より弓矢だよね! っと!」
カンッ! パパシュッ!
今度は矢がそらされ銃弾二発が着弾し、その威力に身を倒す様にして黄縞蛇は雷光をパチパチと弾かせながらルシアナ達へと接近し始めた。
「距離とって! 近付かれたら痺れるよ!」
「言われなくても!」
「さっきの感じだと、銃も弓も関係ないんじゃないか?」
「多分だけど、立て続けには逸らすことはできないの!」
距離を取りながら一斉に射撃を加え、少しずつ傷を付けて行きようやく倒した時には扉を出てすぐの湿地との境目辺りまで戻って来ていた。
「近付けない魔物って面倒臭ーい!」
「ん。お肉残ってたけど、美味しいのかな?」
「はぁー……。また、ここからかー」
「ちょっと休憩して行こうか」
「賛成なの」
素材の回収を済ませ、溜まったうっぷんを晴らす様に行動食という名のお菓子を食べて気分を入れ替えてから、丘陵地に向けて歩き出した。
その後は順調に魔物を狩りながら領域を越え、いつしか湿地も無くなって森の中を進んでいた。
「リーネリーネ! 大っきい梨だよ!」
「ん! 採るべし!」
大きく広がった枝ぶりの木には頭ほどもありそうな大きな梨の実が沢山生っていた。
幹に取り付き登って行って次々に採っては腰鞄に回収していく。
さすがに細い枝の先に生る物までは採取は難しいと諦めるラウリーだったが、リアーネは『浮揚』で浮かび上がって採取を続けるのだった。
そんな五人が採取を始めて四半刻が過ぎた頃、先に地に降り周囲の警戒をしていたレアーナが声を上げたのだった。
「魔物の反応! 数三!」
すぐさま周囲へと目をやり確認するが反応のある場所に姿が見えない。
「居ないの? もしかして透明になってるの?」
「ん? このゴーグル『透明看破』もできる様になってるよ」
「えーと……反応のある所に攻撃すれば、何かわかるでしょ……トォーッ!」
ラウリーが勢いよく踏み込んで薙ぐ様に短剣を振り抜けば、低木が慌てた様に飛び跳ねて薄れて消えた後には、発達した二本の後肢で立っている一メートル程はある光陰蜥蜴が現れた。
「蜥蜴なの!」
「とりあえずは撃ってみれば良さそうだね!」
パシュッ! カンッ!
ルシアナとロレットの射撃によって残る二頭も姿を現し、キューキューと声を上げながら一斉に間合いを詰めて来る。
しかし、姿を捉えることさえできれば危なげもなく仕留めることができたのだった。
「ん。終わった!」
「え? リーネ? 確かに終わったけど?」
「リーネ……まだ採ってたの?」
手にした梨を腰鞄に入れながら、満足そうな笑顔のリアーネがゆっくりと樹上から降りて来た。
しばらく移動して扉にたどり着き、十五層へと降りようとする前にリアーネの止める声が掛かる。
「どうしたの、リーネ?」
「ん。一輪車、改造する」
「あー、何か思いついたの?」
下りの階段を見下ろして息を吐き出し、休憩の準備を始めるのだった。
レアーナが一輪車から魔法鞄を分離している間に、リアーネは新しい形状の台車を作って行く。
三方向に伸びた二股の先にそれぞれ車輪が収められ、中心点でも回転する様にして三つずつ付いた車輪を架台の左右に取り付ける。上に伸びた架台は途中で軽く角度が付けられそのまま持ち手として使われる。後は分離させた魔法鞄を取り付けて自立できる様にすれば完成である。
レアーナはゴロゴロと移動の具合を確かめて、さて本番だと階段へと押し出していく。
三つの車輪がクルクルと位置を変え、階段の段差を越えて行く。
「これなら、上り下りもずいぶん楽になるね!」
「ん。大丈夫そうで良かった」
これで大変な思いをしなくて済むと、五人は喜んで階段を下りて行った。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。
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